ニュースレター で世界展開を進める、米パブリッシャーたち:新規サブスクライバー獲得の礎に

DIGIDAY

ニュースレターは、オーディエンス開発のための貴重な手段であり、読者に購読料を支払ってもらうための道筋でもある。特に、グローバルなニュースを米国外の読者に直接届けたいパブリッシャーにとって、この方法は有効だろう。

CNNは、中国と米国のニュースを世界のオーディエンスに届けるニュースレターのエディションを立ち上げた後、中東向けの製品の開発に取り組んでいる。2月には、グローバルビジネスサイトのクォーツ(Quartz)が、アフリカのハイテクスタートアップ、イノベーター、セクターをカバーする新しい会員制商品を発表した。一方、ワシントン・ポスト(The Washington Post)は、グローバルニュースのメールブリーフィングへの登録が前年比で25%増加したと発表。メインのニュースレター製品の焦点を世界のさまざまな出来事をカバーするよう転換することで、別のアプローチを取っている。対照的に、ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)は、数多くの地域別ニュースレターを発行し、米国外で100万件のデジタルニュース購読者を獲得している。

ニュースレターの価格を地域別にしたクォーツ

クォーツは当初、年間100ドル(約1万1000円)のサブスクリプションでグローバルなアプローチを取り、クォーツアフリカ(Quartz Africa)のバーティカルを含む、同メディアの国際的なカバレッジをより多く利用できるようにしていた。だが、「クォーツアフリカを読んでいる人々は、価格に対する感度が高く、本当にクォーツアフリカだけを読みたいと思っていることが分かった」とクォーツ編集長のキャサリン・ベル氏は述べる。

クォーツには地域別の会員価格がなかったため、チームはこれらの読者のために、より低価格の新しい会員コンテンツを立ち上げることにした。クォーツアフリカの料金は年間60ドル(約7000円)だ。

新しいクォーツアフリカのメンバーシップでは、クォーツアフリカのコンテンツと新たな「クォーツアフリカ・メンバー・ブリーフ(Quartz Africa Member Brief)」に読者が独占的にアクセスできるようになっている(「クォーツアフリカ・ウィークリー(Quartz Africa Weekly)」というニュースレターは引き続き無料で配信される。このニュースレターに登録している9万人以上の読者には、クォーツアフリカ・メンバー・ブリーフが4回分無料で提供され、クォーツアフリカのメンバーシップに加入するよう薦められる)。

クォーツアフリカは、クォーツジャパン(Quartz Japan)に続いて、地域にフォーカスしたふたつ目のサブスクリプション製品として、クォーツが作ったものだ。クォーツジャパン・ニュースレターは主に、クォーツアフリカと違ってクォーツ・デイリーブリーフ(Quartz Daily Brief)の翻訳版で、地域のイノベーションや技術開発よりもグローバルなニュースに焦点を当てている。クォーツジャパンの会員数は4400人だ。ベル氏によると、クォーツは現在、インドで有料製品を開始する機会に目を向けているという。

クォーツアフリカ・ニュースレターは4人のチームで作成されている。編集者のシク・キメリア氏はケニアのナイロビとセネガルのダカールをベースにしていて、ふたりの記者はそれぞれナイロビとナイジェリアのラゴスにいる。気象レポーターはエジプトのカイロ郊外で仕事をしている。さらに、バーティカルは「多くの」フリーランサーに支えられている、とベル氏はいう。

中東のニュースに目を向けるCNN

CNNは、グローバルオーディエンス向けの中東のニュースを中心とした英語ニュースレター開発の初期段階にある。オーディエンス開発チームは現在、名称、論調、コンテンツ、プロトタイプをテストしている。CNNデジタル(CNN Digital)のオーディエンス開発・分析担当バイスプレジデント、アラン・シーガル氏は、このニュースレターを2022年中にデビューさせることが目標だと語る。

「米国では多くの製品を提供しているが、(ニュースレター)製品のポートフォリオを構築して、国際的な製品群を強化する必要があった」とシーガル氏は述べる。

新しいニュースレターは、CNNの「ミーンホワイル・イン・チャイナ(Meanwhile in China)」というニュースレターにヒントを得ている。「ミーンホワイル・イン」シリーズにはふたつのニュースレターがあり、ひとつは中国・香港を拠点に2021年6月に創刊、もうひとつは米国で2019年8月に創刊された(米国に焦点を当てたものは海外の読者を対象としており、「米国政治における右派と左派とは何か、共和党と民主党とは何か」といったニュアンスを時間をかけて説明している、とシーガル氏は話す)。

CNNはまた、その日の5大ニュースをまとめたスペイン語のニュースレター「ファイブシングズ(5 Things)」や、スペイン語とアラビア語によるニュース速報を配信している(アラビア語は2021年開始)。スペイン語とアラビア語のチームは、米国のニュース速報を翻訳するのではなく、それぞれの言語でネイティブにニュースを発表し、また地域やオーディエンスに応じて異なるニュース速報を出している。「米国の視聴者に影響を与えるようなニュース、たとえば山火事などは、アラビア語ニュースレターのオーディエンスは興味を持たないかもしれない」とシーガル氏はいう。

CNNは、ニュースレターの発行時間別のオーディエンスデータを公開していない。シーガル氏は、「もっとも強力な」のニュースレター製品は米国にあり、海外でオーディエンスを獲得するのは困難であると認めている。「オーディエンスを集めるスピードはいつも同じとは限らない。ニュースレタービジネスでは、『作る』ことと、人々にそれを『認知』してもらい『獲得』することは別物であり、両者が同時に発展することはない」とシーガル氏は述べる。

「ワールドビュー(WorldView)」へシフトするワシントン・ポスト

ワシントン・ポストは、また違ったアプローチをしている。既存のニュースレターの国際版を独立させたり新しいニュースレターを創刊したりするのではなく、主要なニュースの瞬間をとらえたフラッグシップの英文グローバルニュースレター「トゥデイズ・ワールドビュー(Today’s WorldView)」を活用している。たとえば最近のある週では、海外のオーディエンスに向けてウクライナ戦争に焦点を当てて発信した。このニュースレターは、米国では真夜中に、ヨーロッパでは午前中に、アジアでは午後に配信されると広報担当者は述べる。広報担当者は、トゥデイズ・ワールドビューへの登録者数については言及を避けた。

世界中の読者を抱えるニューヨーク・タイムズ

ニューヨーク・タイムズはワシントン・ポストとは対照的なアプローチを取り、地域別のニュースレターを展開している。ニューヨーク・タイムズのニュースレター編集ディレクターを務めるアダム・パシック氏は電子メールで、ニューヨーク・タイムズには合計80以上のニュースレターと電子メールブリーフィングがあり、アジア太平洋とヨーロッパ向けに海外支局からのレポートと厳選された読書レコメンドを組み合わせた専用の日刊ブリーフィングがある、と説明している。また、オーストラリアとカナダ向けのニュース、特集、オピニオン、地域のおすすめ情報を掲載した週刊ニュースレターや、スペイン語、中国語のニュースレターも配信しているという。

「オン・サッカー・ウィズ・ローリー・スミス(On Soccer with Rory Smith)」は、欧州や世界のファンに向けてスポーツを伝えている。「インタープリター(The Interpreter)」は、ロンドンで活動する元人権弁護士アマンダ・タウブ氏が共同執筆した国際的視点のニュース分析を提供すると、パシック氏はいう。ニューヨーク・タイムズは、時間別に出されている地域別ニュースレターの数を教えてはくれなかった。

パシック氏によれば、ニューヨーク・タイムズは2021年、米国外の読者から100万件のデジタルニュース購読を獲得したという。このマイルストーン達成は、たとえば、100万人以上の読者を持つ「ザ・モーニング・ブリーフィング・ヨーロッパ・エディション(The Morning Briefing: Europe Edition)」のようなニュースレターに読者が目を向けるようになったことが一因だとパシック氏は考えている。また、2月22日には「ロシア・ウクライナ・ウォー・ブリーフィング(Russia-Ukraine War Briefing)」を開始し、ニューヨーク・タイムズのサイトに登録している人々が無料で読めるようにした。

「我々は一貫して購読者数増加を目指す戦略をとっており、好奇心旺盛で、主に英語を話す海外の読者は、その戦略の重要な一部を成している」とパシック氏は語った。

[原文:How publishers are using newsletters to reach readers and attract subscribers internationally

SARA GUAGLIONE(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:黒田千聖)
Illustration by IVY LIU

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