Q&A:トラフィック獲得コスト(TAC)とは? – アドテク企業などがパートナー企業に支払うコスト

DIGIDAY

景気後退ほど、財務状況に注意を向けさせるものはほかにありません。とはいえ、財務上の数値が自社を取り巻く状況を何もかもを明らかにするわけでもありません。たとえば、トラフィック獲得コスト(以下、TAC)がそうです。

こうしたコストが、オンライン広告企業の財務の持続可能性を示す真の指標だった時代がありました。このコストはそもそも、トラフィックが企業にとっての主要な収入源であったときに、収益化につながるトラフィックを企業がどのように購入しているかを確認する方法でした。ある企業がTACで稼ぐ金額以上の支出をしていたら、そのビジネスが長く続かないことは確実でした。しかし、時代は変わります。TACはいまや、社内のうわさ話のようなもので、知っていて損はしませんが、必ずしも重要ではありません。

物事は何かと複雑になります。今回は、TACの意味するところを短く、わかりやすく説明していきます。

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――TACとは何ですか?

TACとは、簡単に言うと、アドテク企業が収益を得るために支払うコストで、アドテクベンダーがより多くのインプレッションを販売するために、アドエクスチェンジやパブリッシャー、データプロバイダーに支払う変動型のパススルーコストです。これは、アドテクベンダーがより多くの収益を上げるために、ある時点でどれだけの資金を費やさなければならなかったかを明らかにする数字です。アドテクベンダーは、広告予算を自社のプラットフォームに集め、そこから手数料を引き出すというふたつのことを常に行う必要があることを考えると、この数値は理論的には有用なはずです。

しかし現実には、TACには限界があります。アドテクベンダーが、エンドクライアントや広告主のために、パブリッシャーにいくら支払ってインベントリを得ているかを知りたい人は、TACを見るといいでしょう。しかし、TACで分かることは知れています。アドテクベンダーの多くは、アービトラージ(裁定取引)ビジネスだけをしているわけではありません。彼らは、パブリッシャーとマーケターをつなぐプラットフォームであると同時に、マーケターに戦略策定、レポーティングツール、分析などのサービスを提供しています。つまり、TACは、強いて言えば、より漠然としたアドテクの収益の流れの中で、ごくわずかな部分を占めるに過ぎないのです。

このように考えてみれば、TACは実に紛らわしいものです。すべてのアドテクベンダーがTACを報告しているわけではありませんし、報告していても、必ずしも同じ方法で報告しているとは限らないのです。

――待ってください。TACはどのアドテクベンダーも同じ数字ではないのですか?

同じではありません。しかし、それは驚くべきことではありません。アドテクベンダーが収益を上げるためにお金を使う方法は、いまや実にさまざまであり、TACは「お金を稼ぐためにお金を使う」プレイブックの一部に過ぎないのです。

アドテクベンダーが収益を計上するのは、(パブリッシャーのような)誰かに対してメディアの販売を履行する責任を負うときですが、ソフトウェアの収益も計上することを覚えておいてください。広告主やエージェンシーに販売した場合の収益も計上することも忘れないでください。さらに、オークションの最中に企業が運営するアドエクスチェンジからの収益もあります。話を続けましょう。

――事例紹介ですか?

はい。パブリッシャーに代わってインプレッションを販売するという、少なくとも表面上は同じビジネスを行うふたつのアドテク企業の財務に着目してみましょう。一方はTACを報告していますが、もう一方は報告していません。

TACを報告している企業はマグナイト(Magnite)です。そして、その収益の約36%、インサーションディールで取引される広告キャンペーンでそれを行っており、スポットX(SpotX)の買収以降、その割合は増えています。直近の決算期には、マグナイトのTACは5000万ドル(約71億円)でした。

一方、パブマティック(Pubmatic)の財務諸表でその数字を見つけるには幸運が必要でしょう。パブマティックはTACを一切報告していないのです。それは、パブマティックが入札や取引を促進する技術的なプラットフォームであり、(会計用語で言うところの)「義務者」として行動していないためです。

まだ混乱していますか? アドテクベンダーがTACを報告するかどうかは、義務者として広告の購入を促進するだけでなく、広告主に対して何らかのサービスを提供しているかどうかにかかっている、と考えてみてください。これらのサービスは、多くの場合、クライアントに代わって広告を購入することに加えて、彼らの広告予算をどのように、どこに費やすかを決定するための支援が含まれています。

――ええと、義務者とは何でしょうか?

義務者はサービスや商品の提供に主な責任を負うと顧客が見なす当事者で、この当事者(つまり義務者)が、顧客に引き渡される前に商品やサービスを「コントロール」します。ここでもまた、ほとんどのアドテクベンダーは、この部分がますます過小評価されるようになったと言うでしょう。

――つまり、TACは、間違いなく過大評価された指標であり、かつてのようにアドテク企業の収益性と必ずしも関連性はないということでしょうか?

それは少し言い過ぎでしょう。TACの追跡は、アドテク企業の幹部が時間をかけて行える最悪のことではありませんが、木を見て森を見ないようなことがあってはなりません。はっきりさせておくと、この数字には使い道があります。ひとつは、アドテクベンダーが、自社のプラットフォームやリセラーとの関係を通じて、マネージドサービスのキャパシティの範囲内で広告主にインベントリーを販売して、どれだけの利益を得ているかを知ることができることです。多くのアドテクベンダーは、自分たちはパブリッシャーとマーケターがオンライン広告を取引するためのプラットフォームだと主張するでしょうから、これは便利です。

しかし、このような使い方は、正当な比較対象がない財務的な数値の話であることを考慮すると、限界があります。それよりも、アドテクベンダーが渡すのではなく手に入れられる収益の数字に注目したほうがよいでしょう。

――その数字とは何でしょうか?

それは、「純収益」と「TAC控除後貢献額」という、基本的に同じ数字です。会計用語はともかく、どちらの数字も(報告されていれば)、アドテクベンダーがより多くのトラフィックを確保するためのコストを支払った後に手元に残すことができる金額を示しています。

――つまり、アウトブレイン(Outbrain)やタブーラ(Taboola)のように、インプレッションを再販するためにページロードごとにパブリッシャーに固定料金を支払っている企業のTACは、比較的高くなるということでしょうか?

はい、そうです。両社とも、広告インベントリーを販売する前に管理することで収益の大部分を得ています。アウトブレインは最新の四半期決算で1億9200万ドル(約273億3500万円)のTACを報告し、タブーラは同四半期に1億9000万ドル(約270億5000万円)を計上しました。別の言い方をすれば アウトブレインのTACは収益の76%であるのに対し、タブーラのTACは58%でした。同じようなビジネスモデルであるにもかかわらず、数字で見ると、一方のビジネスが他方よりも健全であるように見えるのです。

[原文:WTF are traffic acquisition costs?

Seb Joseph(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:分島翔平)

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