瓦礫の山の中に柱だけになった高層アパートがあった。=23日、キエフ市 撮影:田中龍作=
開戦から28日目、3月23日。
これは映画のセットなのか。あまりの破壊の凄まじさに、現実の世界にいることが信じられなくなった。
ロシア軍の爆撃に遭い高層アパートとスポーツセンターが全壊、スーパーマーケットが半壊した現場に入った。
まず破壊が広範囲であることに驚く。サッカー場の面積くらいが巨大な瓦礫で覆われていた。
地面は瓦礫で埋め尽くされており、歩くのにも不自由する。
柱だけが残された高層アパートとペシャンコになったスポーツセンターを間近で見た。息を呑んだ。
たった1発で、これほどまでに破壊するとは。自分と同じ人間が製造し、人間が人間に対して使用したものなのか。
戦争は狂気なんぞではない。人間を人間でなくさせる国家の愚挙なのである。
兵士たちがスーパーで食品を買う光景をよく見かける。ロシアはそれでスーパーを軍の施設と見なしたのだろうか。=21日、キエフ市 撮影:田中龍作=
現場近くの住民から重大な証言が得られた―
当日午後10時30分頃、ドローンが2機、現場上空を旋回していた。1機は高い所を、もう1機は低空を。
続いて、何者かが来て発光弾を打ち上げた。間もなく爆撃があった。
一部始終を見ていたチェルネンコさん(仮名)は、すぐに領土防衛隊(TDF)に連絡したが、軍、TDF、警察を挙げても発光弾を打ち上げた男の身柄は確保できなかった。ロシアのスパイと考えるのが妥当だろう。
キエフ市内の検問はいつにも増して厳しい。街中で男性が治安警察から後ろ手錠を掛けられる光景を見た。
3週間余り前、田中は大統領府前で後ろ手錠を経験しているだけに、他人事には思えなかった。
スポーツセンターを一瞬にしてペシャンコにさせるロシア軍の兵器は何だったのか。=23日、キエフ市 撮影:田中龍作=
地元のメディア関係者によると、爆破されたスーパーには領土防衛隊のオフィス(自衛隊の連絡事務所に毛の生えたような物)があったとの情報がある。
当然兵士が出入りする。ロシア軍が爆撃の口実とした軍事施設 というにはほど遠い代物なようだ。
それでもウクライナ軍はピリピリしていた。田中が上記の破壊現場を撮影していると、同行の通訳に電話が掛かってきた。「すぐそこを出ろ。写真は消去しろ」と。
幸い愛機はメモリーカードが2枚入るようになっている。
過去に消去を強制されたり、メモリーカードを没収されたりする憂き目に遭ってきた。
田中はとっさに1枚を肛門に入れた。ポケットや体の他の部位だとボディーチェックで発見され、没収される。
写真はホテルまで無事持ち帰ることができ、いま田中龍作ジャーナルの誌面を飾っている。
~終わり~
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