SNSは使えば使うほど孤独になる? – みんなの介護

BLOGOS

私たちがスマホを見つめて過ごす時間は年々長くなっている。生活は便利になった一方、過度のスマホ使用による健康不安や脳への悪影響が指摘されるようになった。ベストセラー『スマホ脳』によって日本でも広く知られる存在となった精神科医のアンデシュ・ハンセン氏が警鐘を鳴らす。そのメカニズムと、脳を老化させないためのヒントを聞いた。

取材・文/みんなの介護

“スマホのためにできないこと”が悪影響を与えている

みんなの介護 スマホ依存に陥ることは、健康にとってどんな悪影響があるのですか?

ハンセン スマホによる一番重要な影響は、“スマホの画面を使って行っていること”ではなく、“そのためにできないこと”だと考えています。スマホ画面を見ている時間が長くなったのに伴って、運動量だけではなく睡眠時間も減っています。そして、健康づくりのための行動に向けられる時間が減ったことで老化を促してしまっている。また、スマホから得る偏った情報は心にも影響を与えます。

私たちは他人と比較して自分のポジションを確認することで、自分とはこんな人間だという自己イメージを持ちます。SNSでは、幸せの象徴のような写真や完璧な容貌に仕上げられた美しいインスタグラマーの写真を見せられます。

それによって何が起こるかというと、若者たちの心に「良い人生とはこうあるべきだ」という偏った価値観が植え付けられてしまうのです。オンリーワンの自分や人生に価値を見出すよりも、「スマホで見た幸せ」に満たない自分に劣等感を感じやすくなる。

実際、10代を含む若者1500人を対象にした調査では、「Instagramのせいで自分の容姿に対するイメージが悪くなった」と答えた人が7割いました。また、20代を対象とした別の調査では、回答者の半数近くが「SNSのせいで自分は魅力的ではないと感じるようになった」と答えています。

SNSがなかった時代は、これほど不特定多数の人と自分を比較することはなかったのではないでしょうか。

みんなの介護 確かにそうですね。昔に比べると比較する対象が増えました。情報の選別ができない子どもの頃から「誤った幸福」を信じ込むことは怖いですよね…。精神科医として人々の心はどのように変化したと感じていますか?

ハンセン スウェーデンでは不眠を訴えて受診する若者の人数が2000年頃の約8倍にもなっています。また現代はスウェーデンの大人の9人に1人以上が抗うつ剤を服用している。GDPが上昇し、物質的に豊かになったにもかかわらず人々は不健康になっているのです。

SNSでの交流が増えると、置いてきぼりにされたくない心理に駆り立てられて、常にスマホをチェックする必要が出てきます。そして、他人との比較に悩まされることが増えて余計なストレスを抱えこんでしまうのです。

脳の老化予防にはクロスワードよりも運動

みんなの介護 今度は高齢者のこともお聞きしたいです。スマホ依存によって物忘れが激しくなり、脳の老化が早まるということもあるのでしょうか?

ハンセン 先ほどお伝えしたことが高齢者の脳の老化にも当てはまります。スマホそのものでなく、スマホに時間を奪われることでできなくなることが、影響を与えているのです。

老化現象というのは、要するに記憶が少なくなることです。これは高齢者だけではなく、年を取ると誰しも自然に起こることですが、その理由の一つとしては、海馬の萎縮があります。それを防ぐには、海馬の新しい脳細胞を増やすスピードを上げていくことでカバーすることが大事なのです。

どうしたら海馬が増えるかというと、運動と睡眠、周りの環境からの刺激…つまり人と会うという社会的なコミュニケーションです。

また、老化で小さくなるとされる前頭葉も運動することで萎縮のペースが遅くなることがわかっています。数独やクロスワードで脳の老化を予防できると考えられたのはかなり昔の話です。

それから、運動といってもテニスやランニングなど、何か得意とするスポーツがなければいけないという意味ではありません。職場まで歩いて行ったり、エレベーターの代わりに階段を使ったりするなど、日常において実践できるいろいろな方法を見つけることです。

みんなの介護 なるほど。それら海馬の萎縮を防ぐ行動がスマホに依存するとできなくなるということですね。

世界には「ブルーゾーン」と呼ばれる地域がある

みんなの介護 ちなみに北欧は幸福度が高く、高齢者もそうだと聞きますが、その秘訣は何だと思いますか?

ハンセン 北欧に限って…というわけではないのですが、高齢者の幸福の秘訣については興味深い調査結果があります。世界各国に存在するブルーゾーンと呼ばれる地域のお話です。

その場所では人口の大多数が90歳や100歳ぐらいまでの長寿を生きて、認知症にもなりません。このような地域は、スウェーデンのほか沖縄やシシリア、コスタリカにもあります。

これらの場所の共通点は、どこものどかな場所だということです。コミュニティの中で非常に強いつながりがあって、孤独な人はほとんどいませんでした。また、日常の中で体を動かしていたり、ジャンクフードをあまり食べていないということも共通点としてあがってきました。

その中のどれが一番影響を与えているのかは定かではありません。おそらくコンビネーションだと思います。

非常に興味深いのが、その人たちの中で学歴の高い人が少ないということです。通常、学歴が高いほど認知症の症状が出にくい傾向があるのですが、まったく逆の方向性を示しています。しかし、誰もその理由はわかりません。

みんなの介護 高齢者の「孤独」の問題について、何かヒントをいただけますか。

ハンセン 子どもの側であると仮定します。とにかく高齢の親や親戚に会いに行ったり連絡をとったりすることです。ときどき電話をしたり、短時間会ったりすることで良いのです。

孤独でいると、うつになる可能性が高まるほか、身体の健康に影響を与えることがわかっています。心臓や血管関係の病気との関連性が見られるのです。

私自身も時間を見つけては、母親に会いに行きます。単純に母を喜ばせるためではなく、それは母の健康のためでもあるのです。

ただ家族との関係が悪い高齢者も多いでしょう。それはやはり社会全体でケアしていくべきことです。なぜなら、「タバコは身体に悪い」「健康のために運動が必要だ」ということと同じように孤独をなくすことは健康のために大切な取り組みだと思うからです。

SNSを使えば使うほど孤独になる

みんなの介護 孤独ということで言えば、ハンセン先生は、SNSを使うほど孤独になってしまうということも本に書かれていましたね。

ハンセン ええ。Facebookなど、SNSを使って友だちを増やしている人は、孤独を感じないのではないかというイメージがありますが、実際はそうではありません。2000人近くのアメリカ人に調査を行った結果、SNSを熱心に使っている人の方が孤独を感じていることがわかったのです。

それは実際に人との接点がない孤独ではなく、「孤独感」。つまり、人との接点がたくさんあったとしても「寂しい」と感じているんです。

また、別の調査では5000人を対象に心身の健康とライフスタイルの関係を調べました。それによると、直接人と会う人間関係に時間を使っている人の方が幸福感が増していることがわかったのです。

SNS上の人間関係に時間を割き、友だちをたくさんつくったとしても、現実世界で人間関係を耕すことには代えられないと研究者たちは結論づけていました。

みんなの介護 なるほど。確かに、SNSは実際に人と交流するときに味わう感動には代えられないです。SNSだけで完結せず、現実世界で人間関係を築くことも平行して大切にしていく必要があるのですね。

撮影:©StefanTell

タイトルとURLをコピーしました