写真:カレーのウクライナ人難民(2022年3月9日、フランス・カレー) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images
Ulala(著述家)
【まとめ】
・仏で消費者物価が上がり続けており、金融危機直前の2008年半ば以来の水準となっている。
・仏には1万5千人がすでに到着しており、海外に避難したウクライナ難民の全体の0.4%ほどがフランスに来ていることになる。
・仏国内では、難民に対する受け入れや、学校教育に向けて試行錯誤を行っている。
ロシアとウクライナの戦争は、ヨーロッパでは対岸の火事ではない。現在、戦争が始まったことで受ける影響が徐々に大きくなりはじめている。物価も高騰し、フランスでも「賃金と年金を除いて、すべてが値上がりした。」と、国民からため息交じりの声が聞かれるようにもなってきた。連日フランスのテレビでは、ありとあらゆる「節約方法」がテレビで紹介されている。
■ ロシアとウクライナの戦争の物価への影響
フランスではモノの値段が急激に上がった。INSEE(フランス国立統計経済研究所)が発表したデータによれば、消費者物価は1月には2.9%、2月には3.6%上昇。さらに3月には4%を超える可能性があり、これは、金融危機直前の2008年半ば以来の水準となる。
▲写真 フランスでガソリン価格が過去最高を記録(2022年3月2日、フランス・パリ) 出典:Photo by Chesnot/Getty Images
特に影響が大きいのは、エネルギー価格だ。中でも原油価格は月間を通じて加速度的に上昇し、前年同期比21%増となった。また、エネルギー以外にも、すべての原材料、特に金属資源が大きな影響を受けている。ロシアは金属の主要な生産国であり、アルミニウムにおいては1トンあたり3400ドル以上に急騰した。
また、工業製品、建築の材料の価格もすでに大幅に上昇している。たとえば、眼鏡の価格は1月から少なくとも10%または15%の上昇。陶器、タイル、またはレンガの価格は25%上昇。鉄骨の補強は15%。コンクリート鉄筋25%。溶接金網25%。手すり7.5%。継手、プロファイル、チューブ15%。溶接パネル15%。しかも、これらの価格変動は非常に早く、時には48時間以内に変更されることもある。
繊維部門も物価高騰の影響を受けている。今後、衣料品の価格も5%から20%上昇する可能性がある。すでに、新型コロナウィルス拡大の影響を受けて、コンテナ輸送の値段も2倍に高騰したうえ、ポリエステルの原材料価格が20%増、綿が50%となった。これにより500〜1000社の企業が影響を受け、一部の企業は、閉鎖または部分的な失業対策を検討しているところだ。
さらに、小麦の価格も35%上昇。1トンあたり340ユーロで歴史上前例のないものとなり、フランス人の主食でもあるバゲットやパン類を値上げするところもでてきている。小麦だけではなく、トウモロコシの価格も上昇した。トウモロコシは世界で最も広く栽培されている穀物の1つだが、ウクライナは世界で4番目に大きな輸出国であり、ヨーロッパ市場の45%を供給している。その結果、トウモロコシの価格は1トンあたり100ユーロの値上がりとなった。今後、これらを原材料にした、あらゆる食品の値段が上がることはまちがいないと言えるだろう。
こういった物価の上昇は、特に、最も不安定な若者、一時労働者、パートタイムの従業員、退職者の購買力に影響を与えることになる。インフレ率が4%以上になる可能性を踏まえ、最低賃金は夏までに約30ユーロ増加をもとめるデモも行われた。
■ ウクライナからの難民の増加
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は19日、戦争がはじまった先月24日から、ウクライナから国外に避難した人数は332万8692人になることを発表した。ヨーロッパでは、第2次世界大戦以来、これほど急激な難民の流失が起こったことはない。
UNHCRによれば、難民の60%はポーランドで受け入れられている。難民のほとんどは主に子供と女性である。18〜60歳の男性は徴兵の対象となっているため、出国できないからだ。
またモルドバやルーマニアやハンガリーでも多く受け入れられているが、一時的に安全を確認できた難民は、その後、他の国に向かう場合も多く人数は流動的だ。なお、約5%は、ロシアに向かった。
フランスでももちろん難民は受け入れられている。マルレーヌ・シアッパ市民権担当大臣によれば、フランスには1万5千人がすでに到着しており、海外に避難したウクライナ難民の全体の0.4%ほどがフランスに来ていることになる。ウクライナ周辺国よりは少ないとはいえ、それでもすでにかなりの人数だ。
2021年にフランスに難民申請された人数は、10万3千人だ。その中で一番人数の多い国籍はアフガニスタンで、1年間に難民申請をしたのが1万2千500人だった。その人数から考えても、現在フランスに来ているウクライナからの難民の多さをうかがい知ることができるだろう。しかも、この1カ月ほどの短期間での人数である。
受け入れられた難民は、3年間更新可能な、6カ月有効の滞在許可書を持つことができ、健康保険などに入れるとともに、426ユーロの補助と受託援助を受けることができる。
フランスではすでに、難民受け入れのサイトを開設しているが、(https://parrainage.refugies.info/)、セキュリティーも完備した利用可能な宿泊施設の情報の仲買をするサイト(https://solidarite-accueil-refugies-ukrainiens.fr/)を立ち上げた民間人もいる。そこには、現在、ウクライナの家族を受け入れ可能な約1400件の宿泊場所が掲載され、難民の受け入れ先探しに貢献している。
そして、子供たちがフランスの学校にいけるように、各地で準備が始まっている。保育園での受け入れも開始する段取りだ。学校にいけたとしても、フランス語が話せない子供ばかりの中でどのように教育していくかなど、各学校で試行錯誤が行われているのだ。
すでに多くの難民を一気に受け入れることになったが、フランス政府は10万人の受け入れを提案しておりフランスにたどり着く難民は今後もさらに増加していくだろう。
■ 願われる平和
ロシアとウクライナの戦争は、フランス国民に物価の高騰として重くのしかかってきている。難民の受け入れ人数も増加の一途をたどるばかりだ。
このように、ヨーロッパにとって、ロシアとウクライナの戦争は、決して遠い国の話ではない。多くのことで影響を受ける問題なのだ。フランスのマクロン大統領をはじめとし、ロシアのプーチン大統領に定期的に電話をかけるなど、ヨーロッパ各国でたゆまない外交努力が続けられている。しかし、その努力がいつ実るのかは誰にもわからない。物価の高騰にあえぐ庶民は、ただ、ただ、早くこの戦争が終わることを願うばかりである。
<参考リンク>
ウクライナ戦争:「民間工事の価格が10~30%高騰する可能性」、Capebが指摘 – Capital.fr