D2C から B2B へ目移りする、ベンチャーキャピタルたち:コロナ需要が続くなかで

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今日のベンチャーキャピタリストの多くにとって、D2Cブランドはもはやかつてのような輝きを失っている。

これは以前、特にパンデミックが2020年にはじまる直前に語られていたことの繰り返しだ。しかし、筆者が最近ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家をインタビューしたとき、その多くはD2Cブランドへの投資の頻度を減らしたと語った。

これにはいくつかの注意事項がある。野心を持つある起業家は、かつてないほど多くの資本を利用することができるということだ。獲得すべきベンチャーキャピタルは依然として数多く存在する。また、ベンチャーキャピタルからの資金調達を望まない場合、低金利(現在のところ)のおかげで、コンバーチブルノート(転換社債)など資金調達方法がより現実的なものとなっている。しかし、これまでD2C新興企業を支援したことで知られてきたベンチャーキャピタリストの多くは、これらのeコマースのブランドを支えるB2B新興企業への投資を増やし、クリエイターエコノミーや依然として不明瞭な「Web3」分野などの好況な部門に参入しようとしている。

コマースは「売り手」の時代

全体として、D2C新興企業が新たな資金調達を行ったことを発表する動きは、今もなお数多く存在する。しかし、2010年代半ばのD2Cブーム最盛期のラウンドとは、負債と株主資本の比率や、関与する投資家の顔ぶれが異なっているようだ。

たとえば、健康志向の消費者向け商品はけん引力を得つつあり、モノグラムキャピタルパートナー(Monogram Capital Partners)が2月初めにオリポップ(Olipop)の3000万ドル(約34億8000万円)のシリーズBを主導したように、食品・飲料に注力しているベンチャー企業が、これらのラウンドを主導している。プレリュードグロースパートナー(Prelude Growth Partners)やペンデュラム(Pendulum)などの新しい名前も浮かび上がっており、過去数カ月にそれぞれブルーランド(Blueland)とクレア(Clare)のラウンドを主導してきた。

もうひとつの例として、ボノボ(Bonobos)や、ワービーパーカー(Warby Parker)、ダラーシェイブクラブ(Dollar Shave Club)など、今日もっとも注目すべきeコマース新興企業に対するもっとも早く投資したことで知られているベンチャーキャピタル企業のフォアランナー(Forerunner)が挙げられる。同社の10周年を記念して、創設者でありマネージングパートナーを務めるカーステン・グリーン氏は2月、消費者の未来の方向性をどう考えているかについて、ブログ記事を投稿した

グリーン氏はこの投稿で、過去10年間においてコマース分野でのもっとも大きな変化であったと同氏の考えることについて解説している。同氏は2012年に、従来型の小売業者は失速しているが、eコマースの売上は増大しており、「新しいブランドがオンラインで花開くための機会が増えつつある」と書き記した。

そして2022年の現在、同氏は「コマースの次の変革は売り手からはじまるだろう。デジタルツールにより、新しい世代の起業家は大規模な集客と取引を行うことが可能になるだろう」と書き記している。

フォアランナーのジェネラルパートナーであるエウリー・キム氏が電話インタビューで語ったように、同社はD2Cブランドへの投資を行ってきたが、当時、ボノボやダラーシェイブクラブのような新興企業に投資を通じて、同社が見ていたのは、新しいカスタマーエクスペリエンスだったのだ。

「10年前、我々が会社を設立した頃、ソーシャルメディアはまさに草創期だった」と、キム氏は述べている。このため、Facebookやインスタグラムなどのチャネルは、「新しいブランドが花開くためのホワイトスペースが作り出していた」のだ。

投資家たちがB2B企業に着目する理由

キム氏は、フォアランナーがブランドを評価するとき注目する点は変化していないと強調する。しかし同氏は、フォアランナーは消費者向け分野における次の大きな変化は「売り手が鍵となる」と考えているという、同僚の意見に同意している。すなわち、100万人のフォロワーを持つインフルエンサーが自身のブランドを立ち上げたり、副業としてエッツィ(Etsy)に店舗を持つなど、売り手になろうとする人が増えるなか、フォアランナーはそれらの新しい売り手を支援する企業への投資に関心があると、キム氏は述べる。クリエイターエコノミーやWeb3などと呼ばれているものもこのなかに含まれると、同氏は語っている。

フォアランナーは現在もブランドへの投資を行っており、キム氏は同氏のもっとも新しい投資のうち、より従来型の「D2C新興企業」とみられるものとして、オーラリング(Oura Ring)と、植物由来の原料を使用したアイスクリームのブランドであるエクリプスフード(Eclipse Foods)のふたつを挙げた。

しかし、フォアランナーのウェブサイトで公表された過去4カ月の新しい投資先を見ると、大部分がB2B企業へのものだ。同社は12月に、コマース企業に資金を提供するアンプラ(Ampla)への投資を発表した。1月には、「クリエイター向けのショッピファイ(Shopify)と形容され、電子書籍やコーチングセッションなど複数の商品を販売できるスタン(Stan)にも投資している。

一方で、ポップシュガー(PopSugar)の共同創設者であるブライアン・シュガー氏は、2020年に自身のベンチャーキャピタルファンドを創設したとき、投資先企業の構成はブランドが約50%で、B2Bやソフトウェアの新興企業が50%だったと語る。長期的に、資金の構成はB2Bが70%、ブランドが30%に近づいていくと、同氏は予測している。

調理器具ブランドのキャラウェイ(Caraway)からワンクリックチェックアウトプロバイダのファースト(Fast)まで幅広い企業に投資しているシュガー氏は次のように述べている。「我々は、好むブランドが非常にはっきりしている。しかし、B2Bビジネスは急速に成長し、必要な資本金が少なく、非常にスケーラブルで利益率の高い事業を作り上げるのに対して、ブランドは利益を出すまでに多少長い時間を要する、という事実もある」。

ソフトウェア企業が消費者向け商品の企業よりもスケールが早いという考え方は、これまでに何度も繰り返し言われてきた。ここ数年、さまざまな好景気要因があり、消費者向け新興企業に興味を持つ投資家が急増したこともあった。2010年代にはFacebook広告が安価だった時期があり、そのあとでこの広告価格が高騰し、一部の投資家は消費者向け新興企業を避けるようになった。その後、パンデミック時にはオンラインショッピングが増加し、一部のブランドの売上が2倍、3倍に増加したため、再び投資家たちの興味を引くことになった。

現在は、オンラインでショッピングする人々の数は従来になく増えているにもかかわらず、コロナ禍による売上増加のピークが過ぎ、売上は減少しはじめている。一方で、iOS14のアップデートにより、デジタル広告を使用して多くの顧客を獲得することはより困難になってきた。こうした要因から、一部の投資家の注目はまたしても消費者向け新興企業から離れ、より実績のあるSaaS新興企業へと向かうことになった。または、暗号通貨やNFT関連の新興企業のように、新しい業界に最初から関与できるチャンスを求めるようになった。

ブリッシュ(Bullish)のジェネラルパートナーであるマイク・ドゥダ氏は、これを「人々は今のところ、消費者から目をそらしている」と表現している。

依然として膨大な調達資金

D2C新興企業に対する資金調達は、枯渇する危険とはほど遠い。全世界のベンチャーキャピタル資金は2021年に過去最高の6430億ドル(約74兆6000億円)に達し、D2Cブームのはじまった2012年の600億ドル(約6兆9600億円)をはるかに超えている。多くのベンチャーキャピタル資金が流入することで、多くのブランドがVC資金調達を立ち上げている。

しかし、一部の投資家の基準はより厳しいものだ。シュガー氏は、D2Cブランドへの投資を考えるとき、「ブランドが販売している商品ラインが本当に驚嘆すべきもので、そのブランドが作り出す商品のことを友だちに話したくなるようなものでなければならない」と述べている。

「その場合、その会社はおそらく、収益をよく見せるために実際のパフォーマンスマーケティングや、ほかの中毒性がある行動に多くの経費を費やす必要はないだろう」と同氏は付け加えている。同氏が投資したもっとも新しいD2Cブランドは、フィースタブルズ(Feastables)だ。これはインフルエンサーのミスター・ビースト(Mr. Beast)が立ち上げた新しいチョコレートバーのブランドで、2月初めに始動した。「このブランドは疑いようもなく合格だった」と同氏は述べている。

ドゥダ氏は、VC資金調達に加えて、創設者がコンバーチブルノートなどの手段を用いる例も増えていると語る。しかし同氏は、まだ全員に行き渡る莫大な資金があるうちは、D2Cブランドにとって資金調達が困難な時期であるといっても、それは多くの場合一時的なもので、せいぜい数カ月だと語る。

同氏は次のように述べている。「これらの期間は明確に決まったものではない。資金の調達の環境は巨大なものなので、回せる資金も膨大なものだ」。

[原文:DTC Briefing: Despite a pandemic boom, consumer VCs are looking beyond DTC brands]

Anna Hensel(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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