出会い系アプリで絆つくる難しさ – PRESIDENT Online

BLOGOS

日本人の生涯未婚率は年々上昇している。その背景にはなにがあるのか。社会学者の宮台真司さんは「マッチングアプリで簡単に出会えるようになったが、だからこそ深い人間関係が避けられるようになった」という。大学院大学至善館理事長の野田智義さんとの対談をお届けしよう――。(第2回)

※本稿は、宮台真司・野田智義『経営リーダーのための社会システム論』(光文社)の一部を再編集したものです。

スマホの画面に映るカップル
※写真はイメージです – iStock.com/FilippoBacci

なぜ女性たちは「まともな男がいない」と口をそろえるのか

【宮台】性的退却の背景に何があるのかについて踏み込みます。僕の聞き取りでは、性愛を避ける男性の多くが「コストパフォーマンスが悪い」と言います。

勉強や仕事に追われて忙しい日々、女性と交際するとお金がかかるしトラブルも起きる。ささいな痴話ゲンカで関係が崩壊したりするからリスクマネジメントも大変。ならば、アダルト映像やアダルトゲームで、システム世界から便益をいいとこ取りしたい。そんなふうに損得勘定で性愛をとらえる男性――僕の言い方では「損得化したクズ」――が、増えました。

宮台真司・野田智義『経営リーダーのための社会システム論』(光文社)

宮台真司・野田智義『経営リーダーのための社会システム論』(光文社)

次に、女性たちです。彼女たちはなぜ性愛を避けるようになったのか。多くの女性が口にするのは、「まともな男がいない」「経験を通じてうんざりした」という理由です。これはもっともです。

ワークショップを通じた観察では、「女性の喜びを自分の喜びとして感じ、女性の苦しみを自分の苦しみとして感じる能力」を持つまともな男性は200人に1人だから、女性が自分に告白してきた男性とつき合っても、たいていはイヤな経験をして終わります。

パラメータ(周辺条件)についても考えます。今ほどではなくても、昔もクズな男性が一定割合いました。でも女性が生きていこうとすれば、男性を見つけて結婚するしかありませんでした。今は、仕事で成果を出したり資格を取得したりしてステータスアップを図れます。クズ男性とつき合うぐらいなら、ステータスアップに時間を使う方が合理的になります。

男性も女性も恋愛をコスパで考えるようになった

【宮台】これらすべてを踏まえて単純な図式にすると、まず、男性が損得化して、一部が性的に退却し、次に、女性が損得化した男性とつき合って懲りて、一部が性的に退却した、という展開になっています。概略そういう形で、性愛からの退却が進んでいったのだと考えられます。

そもそも性愛関係は、喜怒哀楽を含めた包括的・全人格的なものです。僕たちは性愛を通じて、自分が根源的に肯定される体験を得ました。しかし、性愛が属性主義に陥るほど、ほかに代替できない喜びは、小さくなります。だから、属性主義を背景に、男女がともに性愛をコストとベネフィットという損得勘定に帰着させてしまうのは、実は自然な成り行きです。

「親のクズぶりが子にうつる」という悪循環

【宮台】ところで、男女の性愛の損得化の背景には、より深刻な家族の損得化があります。家族の損得化が、そこで育った男女の性愛の損得化をもたらし、性愛の損得化が性愛をへてつくられる家族の損得化をもたらす、という悪循環があるのです。

2000年に僕が大学生を対象に行った統計調査で、とても面白いデータが得られました。「あなたの両親は愛し合っていますか」という問いに対し、イエスとノーの答えが半々だったのですが、イエスと答えた人は、交際率――ステディがいる割合――が高く、性体験の相手の人数は少ない一方、ノーと答えた人は、交際率が低く、性体験をした相手の人数が多かったのです。何を意味するのか、もうおわかりですね。

損得を超えた愛は、損得化した社会では非現実的な「お話」に感じられがちです。にもかかわらず損得を超えた愛が現実的だと感じられるには、実際に損得を超えて愛し合う男女の相互行為を目撃できることが大切です。

両親が愛し合う家庭では、子どもは両親をロールモデルに愛の現実性を学べます。両親が損得勘定だけで一緒に暮らす家庭では、愛の現実性を学べません。家族の損得化が子どもを損得化させる。「親のクズぶりが子にうつる」のです。

なぜ見合い結婚では「深い絆」が作れたのか

家族の損得化というと、家柄婚が一般的だったお見合い結婚をイメージする人もいるかもしれませんが、それは正しくありません。今はお見合い結婚をする人は5~6%しかいませんが、僕や野田さんが生まれた頃は7割がお見合い結婚で、その過半数は農家や商店などの自営業者の跡取りが家業を継ぐことを目的としていました。それは間違いない事実です。

でも、先ほど恋愛の始まり方をお話ししたように、日本人には一緒にいるとつながりができる文化があります。恋愛感情を抱かずにお見合いで結婚した夫婦でも、一緒に家業を営みながら長く連れ添ううちに、深い絆で結ばれることがありました。

もちろんかつてのお見合いは、家父長制に象徴される男女差別的な社会形態と表裏一体の仕組みでしたが、夫婦の絆は少なくとも今よりは強かったと言えるでしょう。

この5年間でアプリへの抵抗感はほぼ完全に消えた

【宮台】別の角度から、性的退却の問題を考えることにします。近年、日本では若者の性愛からの退却が進行していく一方、それと並行する形でマッチングアプリの利用が広がっています。そのマーケット規模は2015年に120億円、2018年には374億円に拡大しており、2023年には852億円にまで成長するだろうと予測されています。これは異様な膨張速度です。

マッチングアプリとは、結局のところ出会い系サービスであり、提供側がそれを「マッチング」と言い換えるというマーケティング戦略によって、ユーザーの心理的な抵抗感を軽減しているだけの話です。事実、僕が行ったリサーチでは、この5年間で、若者たちの間ではマッチングアプリを使うことへの抵抗感は、ほぼ完全に消えました。

それ以前は、マッチングアプリで出会って結婚に至った場合、結婚式の披露宴で二人のなれそめを紹介するときに、ストーリーを捏造(ねつぞう)していたものです。本当はマッチングアプリで知り合ったのに、友人に頼んで「二人は共通の趣味のサークルに参加していて……」といった大ウソをついてもらいました。式場側がそうした大ウソを創作するサービスもありました。

タイトルとURLをコピーしました