太陽光パネル大量廃棄が始まる訳 – WEDGE Infinity

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 今回の本連載では、太陽光パネルの廃棄がエネルギー安全保障の強化につながることを証明したい。

 2012年に導入された固定価格買取制度(FIT)の大きな後押しがあり、日本での太陽光パネルの導入量は、大きく増加した。今、中国、米国に次ぐ世界3位の導入国になったが(図-1)、導入量の増加に伴い表面には出ていない問題がクローズアップされるようになった。稼働期間が20年から30年とされる太陽光パネルの大量廃棄の問題だ。

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 関係省庁も廃棄に関する制度の整備を行っているが、今後事業者の廃業などにより不法に放置されるパネルも出てくるものと思われ、大量のパネルが設置された地域にとって、将来の廃棄処理が問題になる可能性がある。一方、パネルのリサイクル技術とビジネスモデルを確立すれば、中国製メインの輸入パネルに9割依存する供給を国内生産に切り替えることも可能になり、エネルギー安全保障強化につながる。廃棄をどう進めるかから、一歩踏み出した視点が必要だ。

広大な土地を必要とする太陽光発電

 昨年12月、青森県に出張する機会があり、六ケ所村にある大規模太陽光発電所の近くを車で通りかかることになった。道路から一見すると沼か池のように見える(写真)。この大規模太陽光発電所は、道路脇に設置された説明看板によると「ユーラス六ケ所ソーラパーク」と呼ばれ、15年10月1日に運転開始。6万キロワット(kW)と5万5000kWの設備容量を持つ2つの地区に分かれている。

(筆者撮影)

 写真は、30万2000枚のパネルが利用されている6万kWの設備だが、面積は140ヘクタール、140万平方メートル(m2)とされている。5万5000kWの設備の面積113ヘクタールを合わせると、東京ドーム50個分に相当すると説明されている。

 発電量は、一般家庭約3万8000世帯に相当とある。家庭の標準的消費量は年間3200kWh程度と想定されるので、年間発電量は約1億2200万kWh程度になる。この発電量は、設置されている面積を元にすると火力発電設備、原子力発電との比較では随分と小さいものだ。

太陽光発電設備の泣き所低利用率

 日本の事業用太陽光発電設備は約5000万kW。新聞では標準的な原発50基分と書かれることが多い。原発1基を100万kWとして設備の大きさを計算するのは間違いではない。ただし、発電する電気の量で考えると数字は全く異なる。

 関西電力の資料によると、同社堺太陽光発電所の設置面積は21万m2、設備容量1万kW、年間発電量1100万kWh。一方、液化天然ガスを燃料とする堺港火力発電所の設置面積は10万m2、設備容量200万kW、年間発電量は140億kWhだ。面積が約半分の火力発電所の設備容量は太陽光発電所の200倍、発電量は1300倍に近い。面積当たりの発電量では2700倍の違いがある。

 設備容量に対する発電量が大きく異なるのは、設備の利用率が異なるためだ。先に挙げた六ケ所ソーラパークの利用率は12%程度、堺太陽光発電所の利用率も13%程度だ。太陽光パネルの効率と日照時間から利用率には限度がある。

 資源エネルギー庁は20年度の最新の設備の平均利用率を17.2%と推定している。既に設置されている事業用設備の平均利用率は20年5月までの1年間で14.2%だったので、向上はしているが、革新的な変化がある訳ではない。

 原子力発電所の利用率は、国により異なるが80%から90%になる。80%と想定すると、同じ発電量を太陽光設備で得るためには、5倍から6倍の規模の設備が必要になる。100万kWの太陽光設備の発電量は、原発1基分ではなく5分の1以下だ。原発1基分の発電量に相当する550万kWの太陽光発電設備導入に必要な面積は、山手線の内側の面積の約2倍になる。

 事業用設備の中には工場などの屋根に設置されているものもあるが、FIT制度の下で設置された事業用、家庭用合計6300万kWの設備の設置面積を計算すると、約1400平方キロメートルになる。日本の中で37キロメートル四方の面積が太陽光パネルにより占められている。

消費者負担で導入量は増加

 FIT制度により、太陽光発電設備は急速に増加した。他の再生可能エネルギー電源との比較で、太陽光に設備が集中したのは、買取価格が設備設置者に有利であり、複雑な設備も必要なく短時間で事業を始めることが可能だったからだ。10kWの設備以上を対象にする事業用太陽光設備から発電された電気の買取価格と設備導入量の推移は、図-2の通りだ。

 買取価格が下落しているのは、太陽光パネルの価格が下がり、工事費なども下がっているからだ。12年の事業用パネルの平均価格22万5000円は、20年12万1000円まで下がった。

 FITが導入された12年当時、太陽光発電から電気の買取価格は、当時の欧州主要国のFIT制度の買取価格の2倍以上になる1kWh当たり40円(税抜き、10kW以上-事業用)から42円(10kW未満-家庭用)に設定された。パネル販売事業者がパネルの価格を他国よりも高く設定しても、発電事業者あるいは家庭は利益を出せるため、日本でのパネル価格は他市場より高いと言われていたが、今でも日本のパネル価格は多少高いようだ。

 図-3は国際再生可能エネルギー機関(IRENA)のデータだ。太陽光発電設備を導入した際のプラントライフを通しての平均発電コストの推移を示している。パネル価格以外の要素もあるだろうが、主要4カ国の中ではやはり日本のコストが最も高い。

 毎年のFITの総買取額のうち、事業用と家庭用太陽光発電設備が占める金額は図-4の通りだ。制度開始から21年9月までの累積の買取額は、事業用12兆4400億円、家庭用2兆5500億円、全ての再エネ電源を含めると総額19兆800億円だ。太陽光からの電気の買取に8割近く使われている。

 再エネの発電により節約された化石燃料代などの回避可能費用もあるので、19兆円全てが消費者負担にはなっていない。21年度の場合、買取総額3兆8400億円のうち約3割、1兆1400億円が回避可能費用なので、累積の消費者負担額は、13兆円から14兆円、国民1人あたり10万円以上になっている。

 政府の第6次エネルギー基本計画では、30年時点の再エネの導入量は現在の2倍になる計画になっており、風力発電量は5倍、太陽光は2倍になる想定だ。消費者の負担増はまだ続くが、導入時だけでなく設備の廃棄時点でも負担が発生するかもしれない。