ウクライナ巡るプーチン氏の狙い – 舛添要一

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 ウクライナ情勢が緊迫化している。ウクライナの米大使館からアメリカの外交官や家族が撤退を始めている。1月21日のジュネーブでの米露外相会談でも主張は平行線であった。ロシア軍はいつでも国境を越えて侵攻する準備ができている。

 ロシアは、今ウクライナとの間で緊迫した状況にある。それは、この隣国が敵陣であるNATOへの加盟を模索しているからである。30年前にソ連邦が解体し、連邦を構成する15の共和国がそれぞれ独立したが、西ヨーロッパとの間に存在するポーランド、チェコ、ハンガリー、ルーマニア、バルト3国などが次々とNATOに加盟していった。

 ロシアから見れば、ワルシャワ機構軍としてソ連陣営にいた国々が敵陣に寝返っていったのである。

 ロシアのナショナリズムからは、これほど屈辱的なことはない。世論調査で国民の過半数が「ソ連時代は良かった」と回答するのは、アメリカと世界を二分する大国であった時代にノスタルジーを感じるからである。国民を大虐殺した「大テロル」の首謀者、スターリンに対する評価が高いのも同じ理由からである。プーチンがスターリン批判を禁止するというような雰囲気である。

 隣接するベラルーシはルカシェンコ大統領の独裁で、親ロシア路線を継続しているが、反ロシアに傾斜しているウクライナが問題なのである。この国がNATOに加盟し、アメリカの核兵器などの兵器が配備されれば、モスクワを一気にミサイル攻撃できるようになる。これは、プーチンにとっては悪夢である。

 そこで、プーチンはNATO加盟国をこれ以上増やさないことを求めている。

 しかし、アメリカはこの要求をはねつけている。ただ、アメリカは、東欧での軍事演習やミサイル配備を相互に制限することを提案する考えを持っていると言われている。今後も協議は継続されるというが、基本的な対立点は残ったままであり、楽観できる状況ではない。

 ロシアは、ウクライナ国境地域に10万人規模の部隊を集結させており、軍事演習を繰り返している。そして、政治的、外交的に満足の出来る解決が見いだせないときには、軍事的オプションも維持すると明言している。

 ロシアは、中世以来領土を拡大しており、西はフィンランド、ポーランドへ、南は中央アジアへ、東はシベリアへと大帝国を築いていった。ロマノフ朝のロシアは、近代ヨーロッパでは、イギリス、ドイツ、フランスと共に四大国の地位にまで昇っていったのである。

 1917年のロシア革命によって共産主義体制になっても、周辺の民族を併合する大帝国であることには変わりはなかったのである。第二次大戦ではナチス・ドイツに勝利し、戦後の宇宙開発競争では、スプートニクが象徴するようにアメリカに先行した。その帝国が30年前に解体し、ロシアは大国の地位から滑り落ちてしまった。そのルサンチマンがロシア・ナショナリズムをかき立てるのである。

 プーチンは、2014年3月にウクライナ領のクリミア半島を併合したが、そこには多くのロシア人が住んおり、もともとロシアの領土だったという思いが強かった。

 ウクライナ東部にはロシア人が多く住んでおり、分離独立への動きを加速化させている。プーチンは、「住民の希望に従って」この地域をロシアに併合することを目論んでいるのである。クリミアと同じである。

 失われた帝国へのロシア人のノスタルジーを背景に、昔日の大国の栄光を復活させようとしているのである。

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