中国紙「アフガンは明日の台湾」 – 木村正人

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[ロンドン発]瞬く間にカブールが陥落した――。2001年9月11日の米中枢同時テロから20年間、泥沼の介入を続けてきたアフガニスタンから米軍を完全撤退させ、反政府勢力タリバンに首都カブールを明け渡してしまったジョー・バイデン米大統領が16日、ホワイトハウスから国民に向け撤退を決断した理由を改めて説明した。

「アフガンに対する私たちの使命は国造りではなく、唯一の重要な国益はアメリカへのテロ攻撃を防ぐことだ。テロの脅威はアフガンをはるかに超えて世界中に拡散した。私たちは恒久的な軍事的プレゼンスがない複数の国でテロリストグループに対して効果的な対策を実施している。アフガンでも同じようにする」

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「タリバンはこの20年で最強だった」

ドナルド・トランプ前大統領は米軍が今年5月1日までにアフガンから撤退することでタリバンと合意した。トランプ政権の時にアフガン駐留米軍はすでに約1万5500人から2500人に削減され、タリバンの兵力は01年以来最強になっていた。5月1日以降、アメリカとタリバンの間の停戦合意は切れていたという。

「米軍を撤退させるという合意に従うか、戦闘をエスカレートさせ、さらに数千人の部隊をアフガンの戦場に送り返し、紛争の30年に突入するかという冷徹な現実しかなかった。私は胸を張って自分の決定を支持する。この 20年で私は米軍を撤退させるのに良い時期がなかったという厳しさを知った」とバイデン大統領は語った。

「事態は私たちが予想していたより早く展開した。アフガンの政治指導者たちはあきらめて国を逃れた。アフガン軍は戦わないまま崩壊した。この出来事は米軍の関与を終わらせることが正しい決断であったことを裏付けた。米軍は、アフガン軍が自ら戦おうとはしない戦争を戦ったり、死んだりするべきではない」

ジョー・バイデン米大統領(AP)

アメリカは109億ドル(約1兆円)以上を費やした。約30万人の強力なアフガン軍を訓練し、装備した。装備は非常に整っており、軍隊の規模は多くの北大西洋条約機構(NATO)加盟国のそれより大きい。タリバンが持っていない空軍の維持管理など必要なすべての手段を提供した。「彼らに与えることができなかったのは、未来のために戦う意志だった」

タリバンの前に雲散霧消したアフガン政府とアフガン軍、警察をなじる言葉が続く。しかし、それはアメリカ自身が作り上げた「砂上の楼閣」ではなかったか。

バイデン大統領は完全撤退の決定を「後悔しない」と言い切った。

「それでもアフガンに留まれと主張する人々にもう一度尋ねたい。アフガン軍が戦わないのに、あと何世代、アメリカの若者をアフガンの戦場に送り込むのか。あと何人の墓石を並べるのか。国益ではない紛争に無期限に留まり戦うという過ち、外国の内戦に巻き込まれるという過ち、果てしない軍事展開を通じて国を作り直そうとする過ちを繰り返さない」

「民間人をもっと早く避難させなかったのは、アフガン政府とその支持者が“自信の危機(政権が絶対に継続するという自信の崩壊)”を引き起こすことを避けるために大規模な脱出を組織することを私たちに思いとどまらせたからだ。私はアフガンでの戦争に関わる4人目の米大統領だ。私はこれを5人目の大統領に引き継ぐつもりはない」。演説中、バイデン大統領はまじろぎもしなかった。

タリバンがカブールを取り囲んだとたん、アシュラフ・ガニ大統領は国民を見捨てて出国し、政権は瞬時に瓦解した。カブール陥落は米軍の完全撤退が決まった時から「時間の問題」だった。米軍がアフガン治安部隊への航空支援を止めてからタリバンは急激に勢力を拡大させ、アフガン軍は雪崩を打って米軍から提供された兵器を放棄して消えてしまった。

アメリカの対テロ戦争に20年連れ添ったイギリスの大衆紙サンは「ジョー・バイデン」に引っ掛け「ジョーク(冗談は止めろ)・バイデン」と非難した。英兵の犠牲者は457人。600人以上が重傷を負った。17年以降、英兵士と退役軍人計約250人がアフガンやイラクでの「戦争トラウマ」で自殺したと推定されている。


英大衆紙デーリー・メールは、アメリカに協力したアフガンからの退避者640人を満載した米空軍長距離輸送機C-17の 機内を1面に掲載し、「死にものぐるい」と見出しを打った。みなタリバンの報復を恐れてアメリカに庇護を求めたのだ。


英無料紙メトロは、米輸送機を取り囲むアフガンの群衆と、飛び立ったあと落下する人の写真(赤丸で囲まれている)を掲載した。これをカオス(大混乱)と呼ばずして何と言えば良いのだろう。


民意を無視して戦争は遂行できなくなった

旧ソ連が崩壊し、01年、アメリカは唯一の超大国として「一国主義」の落とし穴にハマってしまった。アフガンに続いてイラク戦争を強行し、世界金融危機で米有権者は冷徹な格差の現実を思い知らされる。米軍の募集に応じて戦場で命を落とすのは、そのお金で大学を出て良い仕事につきたい低所得者層の若者たちだった。

こうした矛盾がトランプ現象の原動力になった。世界唯一の軍事大国アメリカでさえ、民意を無視して戦争を遂行できなくなった。

バイデン大統領にはアフガン駐留米軍の撤退を平和裏に完了し、米中枢同時テロの20年を迎えたいという政治的な思惑があった。シカゴ国際問題評議会が7月7日~26日、アメリカの2086人を対象に実施した世論調査によると、9月11日までに米軍をアフガンから撤退させる決定を支持するという回答は70%にのぼり、反対は29%だった。

党派別に見ても、大多数がバイデン大統領の撤退方針を支持している。

共和党 賛成56% 反対43%
民主党 賛成77% 反対22%
無所属 賛成73%、反対26%

米有権者が地理的に遠く離れたアフガンへの米軍駐留を容認してきたのはバイデン大統領の説明通り、自由と民主主義、人権に基づく国造りではなく、あくまでアルカイダや「イスラム国」などによる国際テロ対策だった。

シカゴ国際問題評議会の今年1月の調査では「米軍はアフガンに駐留すべきだ」という回答が48%、「駐留すべきではない」が49%と二分していた。しかし65%がアフガンでの戦争はコストに見合わなかったと答え、見合っているという回答(32%)を大幅に上回っていた。バイデン大統領の決断はこうした世論を受けたもので国内的には間違ってはいない。

しかしバラク・オバマ元米大統領がレッドライン(越えてはならない一線)とした化学兵器を使用したシリアのアサド政権への軍事介入を土壇場になって方針転換、「アメリカは世界の警察官ではない」と宣言して、翌14年のロシアによるクリミア併合を招いてしまったように、無様なアフガン撤退はアメリカの後退を世界に印象付けた。

中国共産党の機関紙系国際紙、環球時報は「今日のアフガンは明日の台湾? アメリカの裏切りは台湾の民主進歩党を震え上がらせている」と報じた。

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