2021年12月第2週、インサイダー(Insider:元ビジネスインサイダー[Business Insider])の大物編集者であるサラ・シルバースタイン氏が、アリーナ・グループ(The Arena Group:旧メイブン[Maven])が所有する金融パブリケーション「ストリート(TheStreet)」の新編集長になった。ストリートは、2017年にタラ・マーフィー氏が編集長職を辞任して以来、複数のマネージングエディターの下で運営されてきた。シルバースタイン氏は、ヘッジファンド、金融、ブルームバーグTV(Bloomberg TV)、そしてビジネスインサイダーなどでキャリアを積み、動画チームの立ち上げやニュースルームおよびビジネス戦略を監督する立場にあった。
新天地において、シルバースタイン氏は、契約社員、フリーランサー、フルタイムの編集スタッフで構成されるチームを監督している。これらのスタッフが、無料コンテンツと有料コンテンツの両方を制作する。ストリートは、株式トレーダーや投資家向けに、月間、年間、2年間の価格設定で、多くの購読オプションを用意している。年間購読料は、約49.99ドル(約5700円)から2800ドル(約31万8000円)までの幅がある。
コムスコア(Comscore)の最新データによると、2021年10月のストリートのユニークビジター数は480万人で、昨年より24%減少しているという。米DIGIDAYのインタビューにおいて、シルバースタイン氏は、次の課題は、ストリートのオーディエンスの拡張にあると話してくれた。以下はその抜粋となる。なお、読みやすさを考慮して編集を加えてある。
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──ストリートの新編集長として、2022年の最大の優先課題は?
投資家である我々のオーディエンスに広く利用してもらうこと。我々が行うことはすべて、これを目標としており、それはビジネス面でも購読者面でも我々に貢献するだろう。我々のチャンスはそこにあり、ストリートにもっともインパクトを与え、もっとも変化を起こせる場所でもある。現実的な目標は無料版のオーディエンスを増やすことにある。
──なぜそれを目標に?
一般的に、金融やビジネスのニュースには、より多くの人々、より多様な人々に向けて、スマートでありながら、より身近に感じられるような方法でリーチするチャンスがある。私が金融業界に身を置くようになってから、トレーディングの世界全体が非常に民主化されてきた。しかし、我々媒体者のお金の管理法や投資についての話し方は、いまだにとても難しいもの(のよう)に思われている。もちろん自分で投資や管理を行う人にとっては簡単なことになってきたし、それについての関心も高まっている。また掲示板サイト「レディット(Reddit)」は、そのようなオーディエンスにリーチしていると言える。金融関連のパブリケーションは、そのようなオーディエンスにリーチすることができ、テクノロジーによってすでに可能になったことを活用して、人々にとって本当に役立つツールを提供できる。
──どんなツール?
株取引・投資アプリの「ロビンフッド(Robinhood)」のようなものだ。以前は、大学で取引のアイデアを話していたような特定のグループがいたが、いまでは、より幅広い人々に開かれている。金融の勉強をしていなくても、将来ブローカーになりたいと思っていなくても、今、自分が毎日触れている会社に興味を持つことができる。ロビンフッドのように、その会社が好きで投資している人もいる。我々はそのような人たちに話しかけ、手助けしたいと思っている。
──ストリートは多くのスタッフを新たに採用していると聞いている。何人採用したのか?
我々はいま、大きく成長する過程にあり、それはとてもエキサイティングなことでもある。私は具体的な数字は知らない、私が着任する前から参加している人もいる。ティン・ワン氏は、アリーナ・グループにおけるオーディエンス開発責任者だ。彼は以前、ヤフー・ファイナンス(Yahoo Finance)のオーディエンス開発の責任者を務めており、そこでオーディエンスの拡大に大きな成功を収めてきた。彼のおかげで、ソーシャルリファラルからのページビューが昨年より60%増加した。元ニューヨーク証券取引所のグレッグ・シリッパ氏は現在、我々の製品責任者だ。モトリー・フール(Motley Fool)からはマネージングエディターを迎えた。モトリー・フールは、我々と同じ方法でビジネスを行っている。また、まだ発表していないが、我々がリーチしたいオーディエンスが本当に興味を持っている分野の報道を強化するために、何人かの人材を採用している。
──その分野とはどのようなものか?
クリプト(暗号資産)がそのひとつであることは間違いない。我々は、あらゆる業界の本当にスマートな人たちが興味を持つ分野に注目し、そこが自分のお金を管理することに興味がある人たちのエントリーポイントになり得ると考えている。クリプトは明らかにそのひとつだ。新しいマネージングエディターは、小売企業で多くの経験を積んできた。消費者でありながら投資家でもあるように人々に接する企業、そういう企業は、関連書類を読んでいても楽しく、投資家としての視点を持っていることが多い。我々はまた、人々が取引を始めるためのツールやリソースを提供している。
我々には、人を雇用し、全体的なカバー率を高める余裕がある。投資家にとって非常に価値のあるプレミアム製品がある。無料版のストリートは、投資に興味があり、まだプレミアム製品を購入していない人々にとって、真のリソースとなることを目指している。今回のスタッフ増員は、できれば第1四半期中に展開したいと考えているこれらの取り組みを推進するためのもので、無料版と有料版のすべての取り組みは、投資に関心のあるスマートなオーディエンスを増やすためのものだ。
──無料版の読者を購読者に変えることも、重要な仕事になるのか?
(サブスクリプションは)我々が無料版の読者を増やそうとする唯一のビジネス上の理由ではない。また、ストリートを名の通ったリソースとして成長させることにも価値がある。これまであまり紹介してこなかったスターがたくさんいるので、彼らを知ってもらいたい。たとえば長いあいだ有料版に貢献してきたヘッジファンド・マネージャーや、今後重視していきたいと考えているスターたちがいる。また、新たなスターを加えて、違うタイプの投資家グループにも興味を持ってもらえるようにしていく。
──違うタイプの投資家グループとはどのようなグループか?
どう説明すればいいか……いまのスターたちの多くは、私の父の世代や、CNBCやブルームバーグTVのオーディエンスにアピールしていると考えている。私は、必ずしも若い世代のことを指しているわけではないが、日常的に市場の動きを見ていない人たち、これまで我々がターゲットから除外していた人たちを想定している。一般に、金融ニュースについて話すには、その言語で話す必要があるため、少し排他的になる。「EBITDA」という単語を(ニュースの)見出しに見たくないオーディエンスにリーチすること。また、より多様なオーディエンスにアプローチすることも重要だ。かつて金融業界で働いていた女性として、私は女性向けにデザインされた製品は好きではないが、金融のアドバイスをする役割を与えられた女性を見るのは好きだ。我々は必ず、オーディエンスの種類やカバーするものの種類を広げることができる。有料会員やスタッフの多様性を高めることは、絶対的な優先事項だ。多くの新規社員たちがすでに多様性に貢献しているが、我々のスタッフやプレミアムコンテンツにそのような傾向がない限り、これまで取り残されていたオーディエンスに向けて話をすることはできないと思う。それは、信じるに値しないし、本物でもない。
──ストリートの現在の購読者数は? 来年達成すべき社内目標は?
購読者の成長目標はある。私もいま、今後2週間の自分の目標を達成するよう取り組んでいる。だが、その目標のいくつかは、私がここに来る前から決まっているので、あまり共有したくはない。
──あなたには動画やTV番組制作の経験があるが、来年のストリートではそうしたコンテンツが増えることになるのか?
もちろんそうだ。いま、動画戦略を立てているところだ。現在、有料会員にとって価値のある有料動画をいくつか制作しているが、動画は(無料版の側で)新しいオーディエンスにリーチし、成長させるための素晴らしい方法となる。我々はすでにいくつかのパートナーシップを結んでおり、新年には動画戦略の一環としてそれを開始する予定だ。我々のサイトを見にきてくれるかどうかに関わらず、視聴者にリーチできることは、我々にとって貴重なことだ(ザ・ストリートは2022年1月にニューヨーク証券取引所のフロアに新しい動画用セットを作る、と広報担当者は後に述べている)。
Sara Guaglione(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:猿渡さとみ)