成熟する eスポーツ 業界、CFOが経営幹部のMVPへ:「1日中数字を見ている、という仕事ではない」

DIGIDAY

語弊を恐れずに言うと、「はったり」が物を言うeスポーツの世界では、CFOは一般に、ヘクター・ロドリゲスやマシュー・ハーグ(ハンドルネーム:ネイドショット[Nadeshot])といった著名なCEOほど、その功績を讃えられにくい。

だが、不景気の波が迫り、eスポーツ団体/企業勢が収益性の獲得を急ぐいま、正確な舵取り役を担える存在として、CFOへの注目度が急速に高まりつつある。

「迫り来る不景気に直面しているいま、この先成功を収めるプロチームおよびリーグがすぐにでも然るべき重役室を構築しなければならないのは、ほぼ間違いない」と、eスポーツ企業スーパー・リーグ・ゲーミング(Super League Gaming)のチェアマン兼CEOアン・ハンド氏は断言する。

巨大化、複雑化する契約

ある程度だが、eスポーツCFOの台頭は、同業界が近年実現した驚愕の成長の自然なダウンストリーム効果と言える。

「パートナーシップ契約について言えば、CFOの役割は収支報告の点で欠かせない。たとえば、eスポーツチームのTSMが暗号通貨取引所のFTXと結んだ契約は10年で2億ドル(約260億円)に上った。となると、会計上CFOはこれをどう報告したのか、という話になる」と、レクトグローバル(ReKTGlobal)の創業者兼チェアマン、エイミシュ・シャー氏は話す。

「CFOはその現場に行って契約を自ら確認し、その手で掴む必要がある。5年前、レッドブル(Red Bull)とスポンサー契約を30万ドル(約3900万円)で結んでいたころとは、状況がまるで違う。事態はかなり進化している」。

ただし、「eスポーツCFO」台頭の背景にあるのは、業界全体の成長だけではない。

求められているのは「収益性」

これは、eスポーツビジネス界で最近起きている重要な変化の結果にほかならない。eスポーツ団体/企業勢は収益源を急速に多様化し、競争が主眼の戦略から持株会社的モデルへと、姿勢を変化させている。その結果が同業界におけるM&Aの動きの急増であり、彼らは新たなオーディエンスを獲得するべく、海外にも手を広げている

なかでもとりわけ重要なのはおそらく、eスポーツ企業勢がより多くのプライベート・エクイティ・ファンドから資金を獲得したり、上場したりするにつれて、投資家らが彼らとのビジネス契約に対してより厳しい目を向けている、という事実だろう。これまで、収益性は問題ではなく、eスポーツへの投資を突き動かしていたのは主にはったりであり、そうした誇大宣伝的会話をCMOが担う場合が多かった。

だが最近では、eスポーツ組織/企業がビジネスまたはコンテンツを動かす際には必ず、どうやって収益を上げるのか、いかにして黒字にするのか、といった投資家らの詰問に晒されるのが当たり前になっている。だからこそ、CFOには多くの事業に自らも関わり、各要素がひとつのコマとして、いかに大きなパズルを構成するのかという、全体像の理解が求められている。

経営領域に及ぶCFOの仕事

「我々は2008年以来、投資額が上昇を続け、ベンチャー市場から金がいくらでも入ってくるという未曾有の時代にいた。ほぼすべてのスタートアップが高水準の成長を維持し、それがこの10~12年間における全投資を支えていた」と、eスポーツ団体100シーブス(100 Thieves)のCFOジェイソン・トン氏は話す。

「しかし、この6~7カ月で、市場は著しく落ち込み、誰もがいまや、ボトムラインとユニットエコノミクスにいわばフォーカスしている。つまり、その点において、これは過去1年間に起きたなかでは最大の変化と言える」。

トン氏は100シーブスの6人目の雇用者であり、だからこそ、これまでは常に多様な役割を担ってきた。ただ、社が成長するにつれて、他の幹部クラスの仕事の範囲が狭まっている一方、トン氏の仕事は経営領域にまで拡大している。各事業の機能を把握するのも、いまやトン氏の責任だ。

100シーブスが周辺機器製造業者を買収すると、トン氏はハードウェア事業の専門家になった。同社がeゲームデザインに進出すると、氏は同業界についての知識を磨き上げた。「これらは5つのまったく異なる事業であり、したがって私の仕事自体は時間と共にますます複雑化している」と、トン氏は話す。「すべての部署を網羅する、非常に包括的な役割だ――つまり、私は日がな一日、数字を見ているだけではない」。

「今後ますます重要や役割を担う」

eスポーツ業界が成熟するなか、その重要度を増している経営幹部クラスは、CFOだけではない。多くが多様化を推し進めてはいるが、ブランドパートナーシップは依然、eスポーツ企業の主な収益源であり、より多くのチームがその点に特化した職務を経営幹部に任せている。そしてそれが、新たな重役の誕生にもつながっている。たとえば、G2イースポーツ(G2 Esports)は6月、イリナ・シェイムズ氏を同社初のCROに任命しており、その動きには同社のパートナーシップへのフォーカスがはっきりと現れている。

「各分野の一流パートナーと世界規模で仕事をし、G2エコシステム内において、各々のブランドおよびプロダクトにふさわしい、カスタマイズしたパートナーシップを提供できることを誇りに思っている」と、シェイムズ氏は話す。「それには、多大な戦略的計画と資金、そして専任の経営幹部クラスによるリーダーシップが求められる。そしてそこはまさに、CROを任された者がイニシアチブを取る場にほかならない」。

とはいえ、もっとも明るい未来が見えているのはやはり、eスポーツCFOだろう。企業勢が新たな収益源の可能性を探るなか、パートナーシップはいつか脇に追いやられるかもしれず、それには相応の時間がかかるだろうが、その可能性がないとは言えない。だが、パブリックとプライベートの別にかかわらず、eスポーツ投資家が収益の出所について今後も問い続けるのは確実だ――そしてそれに答えるのは、この先も間違いなく、CFOの役割となる。

「CFOがそうした新たな機会の査定において、さらには、そうした新たなイニシアチブを確実に現金化するために資金を社内でどう有意義に動かしたらいいのか、という判断においても、極めて重要な役を担うことはまず間違いない」と、バージョン1(Version1)のCFOマイク・オルソン氏は話す。「そして今後は、正しい決断を下す能力がeスポーツ団体/企業の成功と失敗を左右し、その明暗を分けることになるだろう」。

[原文:As the industry matures in a downturn, CFOs are becoming the MVPs of esports C-suites

Alexander Lee(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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