新年の抱負 をあきらめる可能性が高い日は1月19日。「新しい年、自分」に抵抗するブランドの意図とは?

DIGIDAY

2023年は「新しい年、新しい自分」というナラティブを売り込むのではなく、それに逆らって顧客にも新年の抱負を拒否するように促しているブランドが登場している。長年新年の抱負には効果がないと揶揄されており、このようなブランドの登場には十分な理由がある。2019年にユーザーが記録した8億件を超えるアクティビティを使ってストラヴァ(Strava)が行った調査によると、ほとんどの人が新年の抱負をあきらめる可能性が高い日は1月19日であることが判明している。それにもかかわらず、理想の自分になる期待を胸に毎年何百万もの人々が崇高なゴールを設定するという罠に陥っている。もっとも人気のある新年の抱負は通常フィットネスや健康のためのルーティンの強化、新しいスキルや趣味の学び、整理整頓、金銭の節約などである。

「レス・イズ・モア」の発想に基づいたケアオブのキャンペーン

ビタミンサプリメントブランドのケアオブ(Care/of)は、2023年に向けて少ないほうが豊かであるというレス・イズ・モア(less-is-more)の発想を取り入れたいと考えていた。2022年12月26日、ケアオブは「Do less, feel more(行動を減らしてもっと感じよう)」というデジタルキャンペーンを開始し、対策の長いリストを作ったり多くのタスクを詰め込むのをやめるようにと訴えた。その代わりに、バランスや自信、エネルギーを感じられるように数個の重要事項にフォーカスすべきだと述べた。このキャンペーンは2023年2月まで続く予定だ。ケアオブの最高顧客責任者、ブリタニー・イズライロフ氏によると、特に女性は年始にできるだけのことをやるという考えに影響を受けやすいという。ケアオブの顧客はルーティンとゴール指向であり、最高の気分でいたいと思っているが、目標達成のためには続けやすい簡単なルーティンが必要だと同氏は語っている。

「そのような女性の多くには山のような健康関連アドバイスがあらゆる方向から押し寄せているのだ。そのような雑音は1月になると『「新しい年、新しい自分」というメッセージ』でますますうるさくなる」とイズライロフ氏。「女性たちはブランドや他人から畳みかけるように『もっと多くのことをやれ』と言われたくないのだ。我々の狙いは女性たちがより少ないことで最大限の成果を上げるのにフォーカスできるように支援すること」。

キャンペーンの一環としてケアオブは「アンチプランナー」と呼ばれるプランナーを用意した。これはサイトからダウンロードしたりスクリーンショットで入手できる。排除したいことを書き留め、その月の「なりたい気持ち」を設定し、その実現方法を詳しく記入するようになっている。ケアオブはソーシャルメディアで自分のアンチプランナーの一面を共有した1人に同社製品の1年分を進呈するという。キャンペーンのハッシュタグはなく、同社はケアオブへの言及と投稿シェアを追跡して、対象者から受賞者をランダムに選ぶ。

2016年のローンチ以来、製品を選択するためのケアオブのオンラインクイズには1200万を超える人々が回答している。同社からは登録者ベースに関する数字は共有されなかったが、Glossyの以前のレポートによると2019年の売上高は前年比で200%増加したという。2020年2月には摂取用コラーゲンなど6製品でビューティーカテゴリーに進出。2021年にはターゲットとの協働でビタミンラインをローンチした。

このキャンペーンの目標はケアオブがウェルネスエコシステムのどこに位置しており、どのように認知されているかをリフレーミングすることである。同社CEOのクレイグ・エルバート氏はケアオブはほとんどの人からパーソナライズビタミンを推奨してくれるブランドだと思われていると述べている。同氏は、今後は健康的な習慣を確立して維持するための結果重視のブランドとしての位置付けを望んでいる。ケアオブは2017年、データのフィードバックループを提供して、日常生活の影響をユーザーに示す目的でアプリをローンチした。しかし、同社が発見したのは、実際にはユーザーからはデータを示す機能よりも自分の感情を示すアプリ内機能が好まれたということだった。

「ローンチ時にはパーソナライゼーションとクイズにフォーカスした。しかし、当社の最大の魅力は継続的なガイダンスとパーソナライゼーションにあり、自分の時間を持つという日々の悩みを緩和するのに役立つ」とエルバート氏。

現在のパーソナライゼーションの最適化というのは、人を機械のように扱うことによって生産性を追求するという20世紀の科学的管理法をリブランディングした豊かなバージョンだ。アプリやスマート体重計、Appleウォッチなどの追跡ソフトウェアやハードウェアの普及により、いまでは(サイボーグ化した男性が主人公の米国のドラマ)『600万ドルの男』のようなウェルネスのイメージを人々は作り上げている。

しかし、自分の価値を考え出してアウトプットを最大化するという窮屈な考えに対する抵抗についても多くのことが語られている。(米国で)2016年に発刊された『その「決断」がすべてを解決する(原題:The Subtle Art of Not Giving a F*ck)』は200万部を売り上げ、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーの1位になっている。(米国発刊)2019年の『何もしない(原題:How to Do Nothing: Resisting the Attention Economy)』など同様の本が何冊か登場した。(モノで最大限に飾り立てるという)「クラッターコア」やマキシマリズムといった特定の傾向はミニマリズムとその秩序や道徳との関係に対する抵抗として解釈される可能性がある。つまり、ウェルネスのスペクトルには、一極には規律、整然とした自己研鑽とルーティンの受容があり、もう一極には直感や調和、大人のモンテッソーリとも言える人生の見方があり、両極の間には緊張が存在している。

高級ジム、エクイノックスの抵抗

ラグジュアリージムのエクイノックス(Equinox)のグローバルクリエイティブ・ブランド担当バイスプレジデント、ウィル・メイヤー氏によると、通常同社は年に1度、年始に大規模なキャンペーンをローンチしている。しかし、2023年にはそのアプローチをやめてオールウェイズオンの戦略を取り入れる予定だ。新年の抱負に対抗する動きの一環として、「We Don’t Speak January(1月という言語は話さない)」と呼ばれるキャンペーンが2023年1月1日に始まった。エクイノックスは1月1日にウェブサイトを閉鎖して会員登録ができないようにして、マニフェストを掲げた。それには「1月とは理解できない言語だ。それは変化について語っている。1月という言語には時間という味方がある。行き詰まり、近道、あきらめ」という文が含まれていた。

エクイノックスは、屋外広告、LinkedInとインスタグラムの広告、インフルエンサー経由や対面イベントで「We Don’t Speak January」というフレーズを1月の1カ月間宣伝している。

「『新しい年、新しい自分』という心情は『今日こそ自分を変える日だ』という(誤った)約束だ。しかし、それを実現するために真剣に取り組むことにはまだ躊躇がある」とメイヤー氏。「当ブランドは1月はある行為の象徴であるという概念は支持していない」。

メイヤー氏は新規会員登録に対する1月の重要性については語らなかった。ブランド担当者は会員登録は年間を通じて「安定している」と後日述べている。Glossyの以前のレポートによると、通常、会費は会員から得ている収益の半分以上を占めているという。また、コロナ前には約35万人の会員がおり、会費や小売購入で1人当たり年間約3500ドル(約46.3万円)の「混合平均」が費やされていたという。これは合計で年間10億ドル(約1323億円)をはるかに超える収益だ。最終的に、「We Don’t Speak January」キャンペーンは新年の抱負にまつわる偽の自己研鑽を非難しつつも、その非難と会員のフィットネスへの献身を示す美徳とのバランスを取ろうと試みるものである。

「優れたブランドとは、強い姿勢と立場を取り、人の気分を害することも恐れない態度で定義される」とメイヤー氏。「社会として、我々はバランスという考え方を求めるようにだまされており、調和という目標を追求するうちに喜びや苦痛から遠ざかってしまう」。

脱毛剤ブランド、ウーウーの試み

英国拠点の脱毛剤ブランド、ウーウー(WooWoo)も新年の抱負というナラティブに反対だ。社歴4年の同社はソーシャルメディアのハッシュタグ #JanuALLme で新年の抱負と自信の欠如に対するプレッシャーに対抗している。ウーウーは、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)、フリーピープル(Free People)、JCペニー(JCPenney)のサーティーンルーン(Thirteen Lune)、Amazonなどの小売業者で販売されている。

ウーウーの広報マネージャー、ジェマ・ディルワース氏は、1月は抱負への行動を始めるのに最悪の月だと述べている。その理由は、1月は日が短く、時には季節性情動障害を経験することもあるからだとしている。さらに(クリスマス)休暇中に多額の支出があったり、ビーガヌアリー(Veganuary、1月の1カ月間をビーガンで過ごすという英国のチャレンジ)やドライジャニュアリー(Dry January、1月の1カ月間は禁酒しようという英国のキャンペーン)に関与している人たちも多い。

「突然、『新年だから、新しい自分になるべきだ』と言われる。ほとんどの人々はただ冬眠して、クリスマスの残りのチョコレートを食べたいだけなのに」と同氏は語る。

ケアオブとウーウーの両社は、女性には自己研鑽のメッセージが押し寄せており、新年の抱負は女性に課せられる社会的プレッシャーをさらに助長するだけだと指摘している。DNA検査会社、23アンド・ミー(23andMe)の2018年の調査によると、女性は男性よりも新年の抱負を決める可能性がはるかに高いという。また、ウーウーが7月に1500人の女性を対象に実施した調査では、ソーシャルメディアやリアリティ番組の影響もあり、女性の3分の1が低い自己評価をしていることが判明した。ウーウーの主な顧客層は18歳〜30歳の女性だ。

新年の抱負に抵抗することでブランドらは適切なカウンターカルチャーとなるトレンドの機会を特定しているが、彼らは自社が属しているウェルネス産業複合体に対しても抵抗している。Glossyの以前のレポートにあるように、これはおそらく営利目的の消費者ブランドが完全に対処できる問題ではないのかもしれない。しかし、パタゴニア(Patagonia)やデシエム(Deciem)のようなブランドによる反ブラックフライデーのメッセージと同じであると考えることは可能だ。

ディルワース氏は次のように述べている。「このキャンペーンで目指しているのは、そのようなプレッシャーを自分に与えないようにと女性に促すことだ。当社は美容ブランドなので、この発言は矛盾しているように聞こえるかもしれない。しかし、我々が心から伝えたいのは『どんな形式だろうと、従わなければならないと考えるのはやめよう(その代わりに)理にかなった方法で自分自身を優先しよう』ということなのだ」。

1月末までのこのソーシャルメディアキャンペーンで、ウーウーは新しい目標を設定するための理想的な時期や目標達成に向けたアドバイスなど心理学者からの洞察を投稿する。また、同社はボディポジティブアーティストのニーナ・スウィーニー氏に女性の体型を称えるイメージの作成を依頼している。

反ブラックフライデーキャンペーンは効果がないようだが、反「新しい年、新しい自分」のマーケティングには望みがあるかもしれない。若い世代は目標を決める定番の開始日にこだわってはいないようだ。一方、前述した23アンド・ミーの調査では、年齢を重ねるにつれて新年の抱負へのこだわりは自然に減少することが示唆されている。

ディルワース氏はこの傾向が続くことを願っているという。「我々は現状に挑戦したいと常に考えている。同じ考えを持っているのは当社だけではない。これは励みになる。来年は数社だけではなく50社ほどと『新しい年、同じ自分』というアイデアについて話し合えることを望んでいる」。

[原文:Beauty & Wellness Briefing: The great pushback against ‘New You’ resolutions

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)

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