高橋秀樹[放送作家/発達障害研究者]
***
司会者・古舘伊知郎氏が『MC論』(ワニブックス)を上梓した。本稿は、それを読んだ著者の感想を通して偏愛的「司会者論」を記してみたい。本書で古舘氏は同業者として他のMCを評した。例えば安住紳一郎さんに対しては「嫌味にならない<いなし>の使い手」との感想だが、私は放送作家として製作者的・裏方的な視点から司会者への偏愛を書いてみたい。
*島田紳助
古舘本には登場しないが、まずは島田紳助。紳助さんは「計画と目標設定」の司会者であった。幾冊ものノートに他の芸能人の分析を細かく描写する。そして自分がテレビ界で進むべき目標・方針を決め明記してゆく。彼が40歳頃だったろう。そのノートの存在を知った私は「ライバルは誰ですか」と聞いたことがある。その答えは意外な人だった。紳助さんは、
「ライバルていうか、将来、僕と仕事的にかぶるんは古舘さんやろな」
と述べたのである。答えは意外であったが、すぐに適切だと考えなおした。残念なことがあって、島田紳助は本名の長谷川公彦にもどったが、今も島田紳助のままなら、年齢を経て報道系の番組を担当していただろうと思う。
自分のエピソードの面白さ豊富さは随一のスタンダップコメディアンである。私が正面から紳助さんと組み合ったのは『クイズ三角関係』別名クイズトライアングル(TBS)だが、『クイズ!ヘキサゴン』(フジ)の原型になったに違いない。
*大橋巨泉「(古舘本)アウトローかつマルチ」
私は巨泉さんとは『世界まるごとHOWマッチ』で初めて仕事をしたが、敬するがゆえに遠ざけて、さらに愛を持って裏方は「巨ちゃん」と呼んでいた。「巨ちゃん」のすごいところは、放送作家の経験もあるからだろう、番組の構成に関してはスタッフより巨泉さんのほうが正しいことが多いのだ。実に的確にだめなところを指摘してくれる。巨泉さんのNGは議論するより、そのとおりに直したほうが早い。というのが私の結論である。
[参考]NHK「おかえりモネ」をフェミニズム批評とジェンダー批評の視座から見る。
『報道スクープ決定版』(TBS)では、巨泉さんが司会で、筑紫哲也さんがパネリストであった。巨泉さんは楽屋では「筑紫さん」と呼んでいたが、早稲田の後輩だとわかると突然呼び方が「筑紫」に変わった。こういうところを、私たち裏方は巨泉さんの可愛いところだと思ってしまうが、表に出れば横暴な人だと思われるだろう。きちんと自分の立ち位置を決められる人はなかなかいない。本番では「筑紫くん」と呼んだ。
同じ番組の、放送当日の打ち合わせ。作成したVTRに巨泉さんからNGがでた。すぐさま直すことにした。放送まで数時間しかない、大した直しはできないが、できるだけのことことをした。すると、本番になって巨泉さんは、こう言ってVTRを紹介した。「これから紹介するのは、今日一番僕が感心したVTRです」。箔をつけてくれたのである。
*タモリ「(古舘本)革命的MCはスフィンクス的ご本尊へ」
『笑っていいとも!』で1年、『タモリ・たけし・さんま BIG3 世紀のゴルフマッチ』(ともにフジ)『スター対抗クイズ番組大集合』(TBS)で2年。私が長く仕事をしたのは『ジャングルテレビ タモリの法則』(毎日放送)。もちろん強烈な印象が残っている司会者だ。
この人は「テレビを本業だと思っていない、しかも他に本業のないテレビに出る人」という複雑な人である。『BIG3ゴルフ』では、さんまさんにいくら挑発されても、笑いは俺の担当じゃないからと、一切笑いに関わることなく、淡々とゴルフをやっている。
スタッフが提示した企画を淡々とやる。台本のセリフは無視することが多いが、進行は文句が出ないようにやってのける。だからなのだが、企画が面白いとタモリさんは企画通りに面白い。だが企画がつまらないとそれ以下につまらない。100点の企画は100点以上になってでてくるが、5点の企画はマイナス点になったりするのである。面白くする努力はムダなことだと考えているようだ。どうせ面白くならないから。タモリさんは見切る。恐ろしい司会者だ。
『タモリの法則』は当時流行の「マーフィーの法則」を企画化して、タモリのコントが見られるというのが売りの番組だったが、つまらないし視聴率も上がらない。事務所の社長の田辺昭知さんは「タモリにイグアナをやらせる番組なんだ」と会議でおっしゃったが、「タモリさんはもうイグアナはやりません」といくら説得しても、わかってもらえない。
結局1年ほどして内容を「タモリがレシピを見ないでイチから作る料理」に変える。味噌もバターもいるなら作るし、うなぎも捕まえるところから始める。本当出演者時シッが作っている料理バラエティはうちだけです。まいったか『ビストロSMAP」。料理好きなタモリさんの目は、ランランと輝きだし、ナインティナインはバテた。視聴率は化けた。