数週間前、イアン・ブラックリー氏は、就職を希望している広告代理店の面識のないクリエイティブディレクターに対して、Apple Pay(アップルペイ)で7ドル(約770円)支払った。
その7ドルに「これで貴社のiMessage(アイメッセージ)の広告スペースを購入したい」と書き添え、自分のオンラインポートフォリオのリンクと、バーチャルまたは対面での(ワクチン接種は完了している)ミーティングの招待も添付した。これをさらに30回ほど繰り返して、彼が賞賛し、すぐにでも参加したいと考えている分野のシニアクリエイターたちと次々に接触した。
これらの大胆で目立つ作戦の目的は、採用担当マネージャーからその時その場で面接を受けるためというよりも、ネットワークづくりの機会が少ない時期にできるだけ多くのクリエイティブでインベンティブなコネを作ることだった、とブラックリー氏。「とにかく、こうした人々に自分を覚えてもらいたかった。そうすれば、ポストに空きが出たとき、『そういえば7ドルを送ってきたヤツがいたな』と思い出してもらえる」。
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パンデミック以降の会社員は、在宅勤務で成果を上げるために、多くの創造性と新しいタイプのエネルギーを必要とするようになった。しかし、就職活動をしている人々が人事統括マネージャーや採用担当者の注意を引くには、機略に富んだ作戦を考え出す必要がある。
これまでのやり方からの脱却
電話やビデオチャットでは、面接で個性を売り込むことが難しくなり、また相手のボディーランゲージも読み取りづらく、それゆえオフィスでの働きぶりを感じとってもらうこともなかなか難しい。
デジタルマーケティング&コミュニケーションエージェンシーのジェリーフィッシュ(Jellyfish)でグローバルCMOを務めるシャロン・ハリス氏は、同社の採用担当マネージャーも兼任している。2年前の2019年、彼は当時行われた就職面接の際に、もっと個人的にざっくばらんに話ができるようにと候補者をランチに誘った。だが現在、ハリス氏は効率化のために、1日で集中的に候補者とZoom面接を行うようにしている。
ブラックリー氏はメール作戦が功を奏して最終的に約10件の電話アポイントを獲得し、その全員が彼のポートフォリオを審査して社内の採用担当者に紹介した。しかし、希望する地元サンフランシスコのエージェンシーのジュニアクリエイターのポストは、まだ確保できていない。彼はApple Payで合わせて約90ドル(約9900円)を支払ったが、たいした出費ではないと考えている。
過去15カ月間、雇用市場はさまざまな段階を経てきた。パンデミック初期の数カ月間、多くの企業が既存スタッフの自宅待機や賃金カット、解雇などによる財政的制約に直面し、雇用計画を中止する形に追い込まれた。しかし、2020年末から2021年前半かけて盛り返しを見せる。チームの成長力に自信を取り戻す企業が増え、さまざまな業界で雇用市場が活況を呈した。
いずれの期間においても、候補者は採用担当者の注意を引くために、これまでの慣れ親しんだやり方から脱却する必要があり、ときには将来のボスに会うためにできることは何でもやらなければなかった。
採用担当を飛び越えてアプローチ
アトランタ在住のキアナ・シャイン氏は、現在、ロサンゼルスを拠点とするメジャーレコードレーベルの広報担当者のポストを狙って、適宜面接を受けている。ほぼ3カ月前の4月末を皮切りに、これまで受けた面接の回数は7回に上る。
新しい都市に引っ越す必要があることをはじめ、白人が大多数を占める業界で黒人女性であることなどを考えると、すでに自分はロサンゼルスを拠点とするほかの応募者に比べて不利な立場にいるとシャイン氏は言う。だから、応募と面接の両方で自分をアピールする方法を見つけなければならないと、気持ちを奮い立たせている。
「今回の面接プロセスは緊張の連続。とても不安だ」と彼女は話す。
レコードレーベルの採用担当者から連絡を受ける前、シャイン氏は、人事マネージャーのアンテナに自分の名前が引っかかるよう、メディア戦略部門の中堅および上級レベルの面々にメールを送ったり、電話をかけたりしたという。そのなかには、彼女の以前の雇用主で、現在はそのレコードレーベルと契約している大物アーティストのマネージメントをしている人物もいた。何カ月ものあいだ返事が来なかったので、彼女は将来の上司になるかもしれない人物にインスタグラムで直接メッセージを送ることにした。いつもならこういうことはやらないが、夢の仕事を逃したくないという思いから、恥ずかしさをかなぐり捨てた。
数日後、彼女は採用担当者から翌日面接を受けに来てくれないかというメールを受け取った。その採用担当者は後日電話で、紹介ではなく、実際に自分で彼女の履歴書を見つけたと教えてくれた。
しかし、就職活動はそこでは終わらなかった。6月10日の週、シャイン氏はその人事マネージャーとの2回目の面接を予定していた。面接をするにあたり課題が出され、彼女はレーベルと契約しているアーティストに関するプレスリリースのサンプルを書いた。彼女はそれを無難な標準的プレスリリースにすることもできたが、アトランタ時代から個人的に知っているアーティストを選び、人種的不平等とアメリカの風潮に対する彼の公に知られている感情をまねることにした。
面接の結果はまだ知らされていないが、シャイン氏は2年間にわたる失業期間が終わりに近づいていると胸をふくらませている。
ユニークなコンテンツで差別化
ブラックリー氏もパンデミックが始まったころから求職活動を続けてしており、インターネットを介して自分の名前を広告業界に売り込むために、ほかにもいろいろと創造的な方法を試してきた。うまくツテを得られたものもあるが、そうでもないものもあった。
彼はLinkedIn(リンクトイン)で、フェイクのAdweek(アドウィーク)「35歳以下の失業者35人(35 Under 35 Unemployed)」賞リストを投稿した。彼はまた、LinkedInのフォロワーに、推薦で就職できた場合、1000ドル(約11万円)の紹介ボーナスを払うという投稿もした。2020年4月には、100冊のクリエイティブ関連書籍をレビューし、著者からの応答を期待して、笑えるフィードバックを提供。さらには、広告の専門家が彼にコーヒーミーティングを贈ることができるフェイクの婚姻登録さえ作成した。
「ほとんどの人が学校で採用担当者やクリエイターにメールを送るように教えられていたので、別のもっと目立つ方法を考えていた。ほかの候補者のなかに埋もれたくなかった」とブラックリー氏は言う。
彼はまだ就職活動中だ。
採用担当マネージャーたちの視点
1日に12人の候補者と面接することもある採用担当マネージャーの観点から、自宅環境で個人を見ることができると、チームに加わる可能性のある候補者か否か、その選別をする上での助けになるという。
ネットワイズ(NetWise)の最高技術責任者であるT・ブライアン・ジョーンズ氏は、リモート面接でもっとも目立った候補者のひとりは、在宅勤務におけるライフワークバランスを非常にうまく保っている子持ちの人物だったと述べた。
「その人は面接中に配偶者が部屋に入ってきても少しも気にせず、赤ん坊を受け取って、会話を続けた」とジョーンズ氏は話す。「何かおかしなことが起こっているという認識はまったくないようで、ごく自然にそのプロセスを受け入れていた。素晴らしかった。私はバーチャルワークによって個人生活が職業的環境とつながるのは良いことだと感じていて、採用時にそのような姿勢を見るようにしている」。
ジェリーフィッシュのハリス氏は、彼女にとってもっとも印象的だった面接は、グラフィックデザイナーのポジションに応募してきた人が、独特のスタイルで鮮やかな色の服を着こなし、後ろの壁には自分のアート作品が飾られていたときだったという。
「彼女のデザインの美学を実感できた。オフィスでの面接ではわからなかっただろう。彼女のスキルの深さと知識、そしてそれらが彼女の個人的な情熱とどのように結びついているかをよく知ることができ、私は非常に満足した」とハリス氏。
別の候補者は面接の際、Zoomのバーチャル背景に、以前の職場でのクライアントのロゴをいくつか表示していた。それはまるで、面接中に画像で履歴書を見ているようだったとクラリティPR(Clarity PR)のピープル&カルチャーのグローバル責任者であるジョディ・ジョンソン氏は話す。
動画履歴書で成功するZ世代たち
Z世代たちもまたクリエイティブな履歴書のトレンドに乗り、TikTokなどのプラットフォームを利用している。映画『キューティ・ブロンド(原題:Legally Blonde)』の主人公であるエル・ウッズよろしく、動画履歴書を投稿したり、キャプションで応募している会社にタグを付けしたりするなどしている。
カリ・ローバーツ氏は今年2月に動画で応募したことで、大学卒業後の5月にTikTokのマーケティングインターンに採用された。またエル・ウィルモット氏は、6本の動画からなるTikTokアカウントを作成し、それを動画ポートフォリオとした。ウィルモット氏は、2021年9月にロンドンで開催されるTikTok大学院プログラムに参加する。
これらの動画履歴書の成功を受けて、TikTokはTikTok レジュメ(Resumes)と呼ばれる新しいプログラムを立ち上げたという。そう明かすのは、同社でソーシャルプラットフォームの大学採用リーダーを務めるローレン・フラウス氏だ。同氏によれば、これは、TikTokへの採用目的だけにとどまらず、採用ツールに関心のある企業パートナー向けにも試験運用がすでに行われているという。
総じて、現在の候補者は欲するポストに就くためなら、目立つためにはどんな苦労もいとわない。そして個性、創造性、仕事への情熱を強調する方法を見つけることが、Zoom疲れにもかかわらず、採用担当マネージャーと長時間ビデオ通話できるようになる秘訣だ。
[原文:How job seekers are standing out and staying top of mind during virtual job interviews]
KAYLEIGH BARBER(翻訳:SI Japan、編集:長田真)