ゲームが広告媒体として成熟するにつれ、それを活用したいと渇望するマーケターたちと彼らのブランドを支援するために、いくつものマーケティングエージェンシーが誕生している。
ゲーム業界をターゲットにしたクリエイティブエージェンシーの選択肢はいくらでもある。ここ数年のあいだに、ゲーム業界に根ざしたコネクションと経験を利用して、この分野を専門とする代理店たちが成長してきた。最近ではゲーム業界専門ではないエージェンシーも進出し始めており、ゲーム部門とeスポーツ部門を丸ごと新規採用してパイの分け前を確保しようとしている。
Twitchの社内クリエイティブエージェンシーであるブランド・パートナーシップ・スタジオ(Brand Partnership Studio)でグローバル責任者を務めるアダム・ハリス氏は「ゲームの世界では、オーディエンスは小さく緊密なコミュニティーに属している。そのため、専門知識が不可欠になる」と述べた。
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成長を続ける専門エージェンシー
コール・オブ・デューティ(Call of Duty)の元プロプレイヤーでチーム・エンヴィ(Team Envy)創立者であるスカイラー・ジョンソン氏が2019年に設立したペーパー・クラウンズ(Paper Crowns)は、有数のゲーム業界専門クリエイティブエージェンシーだ。2020年のeスポーツ・アワード(Esports Awards 2020)ではクリエイティブ・チーム・オブ・ザ・イヤー(Creative Team of the Year)に選ばれ、昨年は100万ドル(約1億1000万円)以上の収益を上げた。ジョンソン氏は、自身のエージェンシーの成功が彼と従業員たちのゲーム業界における深いルーツにもとづいていると考えている。
「われわれはこの分野のすべての人材エージェンシーと非常に良好な関係を築いてきた」と同氏は述べる。ペーパー・クラウンズは、デーヴィッド・”ストーンマウンテン64”・スタインバーグなどの有名ストリーマーとのコラボレーションや、アクティビジョン・ブリザード(Activision Blizzard)や同社によるコール・オブ・デューティ・リーグ(Call of Duty League)といった大手ゲームメーカーやリーグとのパートナーシップを抱えており、そのことがサイナイ・ヘルス(Sinai Health)のような医療機関や、デリバリーサービスのゴーパフ(Gopuff)などのゲーム業界外のブランドとの契約を獲得する助けとなってきた。
ジョンソン氏と彼の同僚たちは、ゲーム業界専門ではないエージェンシーが増えていることをよく知っているが、ペーパー・クラウンズの機敏さと競争力のある価格設定が、これらのライバルたちの参入にもかかわらず、今後も成功の助けになると信じている。「私たちがもたらす価値は、新しい視点を提供するだけでなく、実践的な体験を提供することにもある」とジョンソン氏は指摘する。同社はコンセプト面とアート面の両方のサービスも提供しており、ブランドやストリーマー、アップカマー(Upcomer)などのメディア組織向けに、ロゴからストリームグラフィック一式まで、あらゆるものを制作し、提供することができる。
またペーパー・クラウンズは社内デザイナーやコール・オブ・デューティ・リーグ・ピックエム(Call of Duty League Pick’Em)のような独特のアクティベーションを完成させた開発者を抱えており、これらと同様のアイデアを社内で実行する能力も持っている。同社はプロジェクトの範囲や顧客の能力に応じて、パッケージ単価1500ドル(約17万円)から7300ドル(約80万円)の料金で、サービスをスライド制で提供している。
ブランドの関係を強みとする既存エージェンシー
ゲーミング専門のエージェンシーたちは有利なスタートを切ることができている一方で、ゲームに特化していないクリエイティブエージェンシーたちは、より大規模でより実績のある企業としての強みを生かし、この分野での立場を強化しようとしている。クリエイティブエージェンシーであるグラビティ・ロード(Gravity Road)の共同ファウンダーであるマーク・ボイド氏によると、彼の会社がすでにブランドたちと確立してきた関係性に彼の会社の強みがあるという。
しかし、グラビティ・ロードにとってこれらの関係は主にゲーム分野に参入しようとしている非ゲーミングブランドとのものだ。ボイド氏は、「これらのカテゴリーが成熟するにつれて、ブランドは(非専門エージェンシーとの)長期的な関係性に戻ってくる」とし、こう続ける。「なぜなら、ある意味ではゲームの仕事は、より広いコミュニケーションエコシステムに適合しなければならないからだ。(ゲーム以外の領域と)切り離された状態ではいられない」と述べた。
Uber、TikTok、Netflixなどの有名企業や、ポケモンGOの開発元であるナイアンティック(Niantic)といったクライアントを抱えるグラビティ・ロードは、ゲーム分野での地位確立を目指す大手ブランドと深いつながりを持っている。ペーパー・クラウンズが注目を集めるきっかけとなったような、ゲーミングインフルエンサーたちとの関係はグラビティ・ロードは持っていないものの、ボイド氏はこれらのつながりは比較的容易に形成できると考えている。ボイド氏は「今は誰もがビジネスを歓迎している」と言った。「賢い提案があり、一緒に仕事をしたいと思うインフルエンサーがいれば、誰も『私はゲーム専門のエージェンシーとしか仕事をしていない』と断ることはない」と述べた。
ゲーム業界専門のエージェンシーとそれ以外のエージェンシーのあいだの競争は、どちらかが消えるまで続く戦いではない。ゲーム市場が拡大するにつれ、両方のタイプのエージェンシーが活発なビジネスを行うのに十分な余地がある。とはいえ、現時点ではそれぞれが重要なシェアを握っているように感じられる。問題は、どちらが相手の専門分野をより早く習得できるかだ。「ビデオゲームの世界で実際に活躍しているエージェンシーは、ゲーム業界専門のエージェンシーだ」と、クリエイティブ・コンサルタントでブティック・マーケティングエージェンシーのウィープレイ(WePlay)創業者でもあるマーゴット・ロード氏は言う。「しかし、ブランドとのこうしたパートナーシップの構築を支援できることに非ゲーム専門エージェンシーの強みがある」。
人材獲得が「勝負」の鍵に
ロード氏によると、この分野のクリエイティブエージェンシーの将来がどうなろうと、ゲームに対する確かな関心と経験を持った人を雇用することは、どちらのエージェンシーにとっても不可欠だという。その点でしっかりとした基盤がなければ、ゲームユーザーにリーチしようとしても、ほぼ間違いなく失敗するだろう。「(人材が実際に)ゲームをすることは、私たちが雇う人材に求める技能の一部だ」とボイド氏は言う。「(ゲームこそが)彼らが働きたいと思っている場所になるからだ」。
グラビティ・ロードのような独立した独立系の非ゲーム業界専門のエージェンシーに加えて、5大エージェンシー傘下の各エージェンシーもゲームとeスポーツに進出しており、競争の更なる過熱を確実にしている。ピュブリシスグループUK(Publicis Groupe UK)は1月、ピュブリシス・プレイ(Publicis Play)という、ピュブリシス•ポーク(Publicis•Poke)、ピュブリシス・スポーツ&エンターテイメント(Publicis Sport & Entertainment)、およびスパーク・ファンドリー(Spark Foundry)のメンバーで構成される、ゲームとeスポーツに特化した部門を立ち上げた。
ゲームコンテンツがメインストリームになり、それに伴うブランディングやマーケティングも主流になった。ストリーマーたちがペイント(MS Paint)でオーバーレイを作って、それで終わりという時代は終わった。その一方で、ブランドは慎重に広告を作成し、企業を敬遠するゲームユーザーを遠ざけないようにしなければならない。誠実さがないような印象を持たれることなく現代のゲーマーたちにアプローチするために、ストリーマー、インフルエンサー、ブランド各社は、それぞれのブランディングやマーケティング活動を主導するクリエイティブ・エージェンシーを雇っている。
[原文:As gaming expands, endemic and non-endemic creative agencies emphasize their strengths]
ALEXANDER LEE(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)