「痩せているのがいい」 トレンド が復活するかもしれない:これが秘める危険性とは?

DIGIDAY

5月2日、私は家でメットガラの中継を見ていた。そしてキム・カーダシアン氏が1962年のマリリン・モンローのドレスに合うように自分の体を変えたプロセスについて話しているのを注意深く聞いていた。レッドカーペットのインタビューで、彼女はラ・ラ・アンソニー氏に対し、「このドレスを所有しているリプリーズ(Ripley’s)の人たちを見て、3週間くれと言った」と語っていた。「このドレスに合うように、16ポンド(約7キロ)痩せなければならなかった」。そう説明したカーダシアン氏だが、仮にその目標を達成できていなかったとしたら、メットガラには出席しなかっただろう。カーダシアン氏は、1日に2回サウナスーツを着用し、トレッドミルで走り、すべての糖分と炭水化物を完全に禁止して「もっとクリーンな野菜とタンパク質」だけを食べるようにしたと認めている。「飢餓状態にはならなかったが、かなり厳しかった」と彼女は言った。

それが文字通りの飢餓かどうかは別として、私は不快な気分になった。これを聞いたり、読んだり、SNSで見たりしている世界中の女性のことが心配になった。

ひとつの変化が起きていることを示す文化的な指標は、レッドカーペットでのカーダシアン氏の行為だけではない。

葬りさったトレンドが形を変えて戻ってきている

4月のニュースレターでも伝えているように、ファッションのトレンドに関しては、ローライズジーンズが復活しつつあった。このトレンドの検索数は増加し、ブランドは需要に応えようと躍起になっている。しかし私が気づいたのは、この特定のトレンドは単純に多くの体型に合わないという、本質的に陰湿な面があるという点だ。ニュースレター「ファットヘル(Fat Hell)」でライターをしているアマンダ・リチャーズ氏は最近の号で次のように書く。「この退行がもっとも顕著に表れている兆候のひとつは、ローライズジーンズのようなトレンドが戻ってきたことである。ファッションにおける肥満恐怖症の時代の遺物として私たちがかつて葬りさったものが、再び引っ張り出されてリパッケージされ、また販売されている」。

10月初めに発表された新しい報告書「美の理想の本当のコスト(The Real Cost of Beauty Ideals)」によると、内在化した身体への不満や外見による差別は、米国で年間8000億ドル(約116.7兆円)以上のコストをもたらしていることがわかった。

こうした変化は、ハリウッドの人々のせいで製薬業界にまで影響を及ぼしている。9月、『ヴァラエティ(Variety)』誌は、糖尿病治療薬オゼンピックの需要が急激に高まっていることを詳しく説明する記事を掲載した。オゼンピックは劇的に体重を減少させる可能性がある薬だ。その記事にはこうある。「影響力を持つある人物がヴァラエティ誌に語ったところによれば、先週の彼女の電話リストの半分は、業界の隅々に信望者がいるオゼンピックのリスクについて相談したいという友人やクライアントばかりだった」。現在、この薬に健康を依存している糖尿病患者への供給が不足するという事態が起きている。

これまでも痩せていることは常に重視されてきた

TikTokでは、痩せている体型に関する会話が飛び交っている。明らかに体重を減らした上にインプラントとBBL(ブラジリアンバットリフト)を除去したと推測されているカーダシアン氏が、単独で大きな変化をもたらしたと明言する人もいる。だが、その考えを否定する人もおり、ひとりの個人が社会の規範やトレンドにこれほど大きな影響を与えるなんてバカげていると発言している。

ボストン小児病院の研究員で、ハーバード大学のSTRIPED(摂食障害予防のための戦略的トレーニングイニシアチブ)で働くアマンダ・ラフール氏は、私と同じTikTokをたくさん目にしたと話す。「一般的にカルチャーが(痩せているのがいいとする風潮の復活)を反映しているという点は、私もある意味そう思う」とラフール氏は言う。だが、彼女は重要な注意も喚起している。「痩せていることが、本当の意味でスタイルから除外されたことなど一度もない」。

それは容易に受け入れられることではないのだ。ファッションジャーナリストは、どのブランドがサイズ展開を拡大したかをよく話題にする。たとえばターニャ・テイラー(Tanya Taylor)はサイズの拡張を約束したことで知られている。その一方で、スタウド(Staud)とオールドネイビー(Old Navy)はどちらもサイズを拡大した後、それを撤回した。ケイティ・ストゥリーノ氏のようなインフルエンサーは、影響力のあるソーシャルメディアシリーズで、ブランドに「#MakeMySize(私のサイズを作れ)」と促している。また、ランウェイではサイズの多様性を見せるために小さな一歩を踏み出していたが、今シーズンはあまり進展が見られなかったという批判が多かった

痩せるトレンドが秘める危険性

「理想的な体型のトレンドの語り口は少々危険だ。太っていることは悪いことだという社会の核心的な信念から私たちを遠ざけるからだ」とラフール氏は言う。「曲線的な体型になりたいと人々が思うようになった時代でさえも、その曲線美にはフィットネスがついてくる。つまり物事に関する語り口はやや異なっているかもしれないが、核となるメッセージは変わっていない。要するに、このような体型でなければ、あなたは『十分ではない』、あなたには『十分な価値がない』、あなたはこの新製品を買わなくてはならない、というメッセージだ」。

ラフール氏は、過去10年ほどは、痩せていることが「ウェルネス」という言葉に包まれていることが多かったという。だが、「ブランドやセレブリティは、いまは明白で極端なダイエットをしろと人に言えないということに、かなり賢明になっている」。

ソーシャルメディア上でクラッチ&スパイス(Crutches & Spice)として知られるイマーニ・バーバリン氏(TikTokのフォロワー数は46万7000人)は、痩せるトレンドへの回帰はひどい結果を生むと考えている。「痩せているのがいい」という類のコンテンツに自分たちの娘が関わることの危険性について、親に対して語りかけるバーバリン氏の動画は、TikTokでバイラルになった。100万ビュー近くを記録した8月の動画でバーバリン氏は、彼女を引き合いに出した別のクリエイターの動画をステッチ機能を使って引用し、注意喚起している。「こんなこと言いたくないけど、『痩せているのがいい』というカルチャーシフトに備えなくてはならない」。バーバリン氏は、この動画をデュエットで他のクリエイターの動画と並べて投稿し、「痩せているのがいい」という考え方が、実際には子どもたちをはるかに危険な道、たとえばオルトライトに導く可能性があることを示唆して警告で応えた。

パンデミックが身体イメージと社会の関係性に悪影響を及ぼす

バーバリン氏とラフール氏は、私よりもはるかに多くの時間をこうした談話に費やしており、ふたりともパンデミックが体重や身体イメージと社会との関係性に悪影響を及ぼしたと考えている。そしてラフール氏は、バーバリン氏の直感が正しいことを証言できる。パンデミックの最中、子どもや十代の若者のあいだで摂食障害が急増したと、彼女は指摘している。

バーバリン氏は「社会がどのようにパンデミックから脱却するのかについて、多くの談話を読んでいた」と振り返り、私たちはいまもまだ十分パンデミックのなかにいるのだと補足している。「過去のパンデミックのあと、社会は誰が本質的に『生き残れるだけの健康体』なのかに執着してきた」。

ラフール氏は #hotgirlwalk (TikTokでの5億200万ビュー)を例に挙げ、それは無邪気に始まったことかもしれないと話す。だが、彼女はすぐに明らかにある変化に気づいたという。つまりこういうことだ。「『毎日のパンデミックウォークを始めようと思う』。これは単に外に出てみようとか、新鮮な空気を吸おうといったものではなく、『辛かった最初の時期に増えてしまったこの体重のままではいられない』という理由だった」。

痩せたいという本当の動機と向き合うこと

この問題には、Glossyポップ・ニュースレターでは取り組めないほど多くの側面がある。それについてはいまも考え中で、文化にどのような影響を与えるのか、引き続き検討していくつもりだ。

ここでは、バーバリン氏のアドバイスを読者に託しておこうと思う。

「なぜ痩せたいと思うのか、自分自身のその動機に真摯に向き合ってほしい。痩せたいと思うのは、単純に痛みを抱えているから? もっと自分の体を好きになりたいから? 体がもっと動くようになりたいから? それとも、体を動かして運動して痩せたいのは、そうすれば誰かにとって自分が魅力的になれるから? あるいは社会から除外されているように感じなくなるから? まさにそうした動機を問いただしたいし、自分の身体を誰かの(認識)に縛られた規定にあてはめないでほしい。誰もあなたの体に影響を与えてはならないし、他人に対して誰もそれを利用してはいけない。だから、その類の話を耳にしたら、いつでも抵抗することだ」。

[原文:Glossy Pop Newsletter: ‘Thin is in’ might be making a return — the implications are dangerous]

SARA SPRUCH-FEINER(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

Source

タイトルとURLをコピーしました