パブリッシャーに流れる広告支出、減速しつつも「ノーマル」に回帰

DIGIDAY

パブリッシャー各社は重苦しい面持ちで決算発表期に向かっているが、デジタルメディア業界における広告費の状況は、彼らが与える印象ほど悪くはないように見える。

2年前、多くのパブリッシャーが偽りの春に踊らされた。広告収入は潤沢に流れ込み購読売上も堅調で、NFTなどの実験的なチャネルからは思いがけずありがたい収益が入った。

2021年の偽りの成長と、2022年の減速

米DIGIDAYが広告収益管理・支援企業のブーストル(Boostr)から独占的に入手した2023年度版の価格格設定・広告効果に関するトレンドレポート(2023 Pricing & Yield Trend Report)によると、その春めいた状況は、パブリッシャーの2021年の広告収入を前年比49%という高い成長率で押し上げた。その上、このレポートの調査に参加した約100社のデジタルメディア企業(具体的な企業名は公開できないと明かされなかった)の4分の3は、広告収入がパンデミック以前の2019年を超えている。

このレポートが出てきた現時点では、2023年の広告規模がパンデミック前の拡大に対する調整の結果であることを業界が受け入れ始めているところだ。

ところが2022年に入ってまもなく、偽りの春は再び凍り付き、パブリッシャーは2022年の第1四半期から第4四半期の間に「成長の急速な減速」に直面した、と話すのはブーストルのCEOで創業者のパトリック・オリアリー氏だ。

「パブリッシャーにとって2022年第1四半期に上向きに伸びていくのがあまりに難しかったのは驚くべきことではない。それまで2年連続で大きく延びていて、分母がかなり大きくなっていたからだ」とレポートの著者であるオリアリー氏は語る。

第1四半期は痛々しいまでにひどかったように感じられたかもしれないが、実際には前年比で大きく縮小したというよりは、パブリッシャーが自社の成長目標を達成できなかったということだ、とオリアリー氏は続けた。「すべてが平均値に回帰している。通常の成長率に戻りつつあるのだ。異常な高騰から、コロナ要素が抜けていっている」。

下方スパイラル

では、デジタルメディア企業の広告事業にとって、2022年は結局どのような年になったのだろうか。先述のレポートによると、パブリッシャーの規模にもよるが、パブリッシャーの広告事業の年間成長率は平均9%から48%で、業界全体としては前年比で26%近い成長率が見られたという。

オリアリー氏は、2月というかなり早い段階でウクライナ戦争によって広告市場に不安定要素が生じ、夏にはインフレと安定しない経済を受けて広告主がパンデミック初期と同じ動きを繰り返していたと話す。にもかかわらず、選挙の年に広告市場が大きく減速したことには、オリアリー氏自身も驚いたそうだ。


ブーストルの「2023 Pricing & Yield Trend Report」より

ブーストルは、総年間収益に基づいてメディア企業を1億ドル(約130億円)以上、5000万ドルから1億ドル(約65億円から約130億円)、2500万ドルから5000万ドル(約32億5000万円から約65億円)、2500万ドル(約32億5000万円)以下という4つのグループに分けている。最大規模のグループ(年間収益が1億ドルを超える企業)にとっては2022年が比較的安定していた一方で、残りのグループは年間を通してはるかに大きな変動を経験していた。

回転率は高いが離脱はない

一部のパブリッシャーで、特に年末に、まだ成長が見られた大きな理由は、リピートクライアントが広告費を抑える一方で新しい広告主と契約を結ぶことができたからだ。

実際、第4四半期にリピートクライアントの再契約がないという点では、かなり状況は悪化していた。2つの期を比較して顧客収益が維持できている割合を示す売上継続率(NRR)は、年間を通して着実に落ちていた。

NRRが高い、すなわち2021年の第4四半期に契約のあった広告主の大半と2022年の第4半期にも再び契約ができたパブリッシャーは、2022年第4四半期の成長率が最も高くなっていたが、NRRの低いパブリッシャーも、新しいクライアントを獲得できたおかげで広告事業の業績を伸ばすことができていた、とオリアリー氏は話す。


ブーストルの「2023 Pricing & Yield Trend Report」より

「昨年の第4四半期は横ばいだったとしよう。1億ドル規模のパブリッシャーでNRRが54%だとしたら、収益の46%は新しく獲得した広告主から来ていることになる。かなりの数字だ。従来のクライアントから入ってくる収益がなくなったか、穴埋めのために新しい広告主を得るための仕組みを構築したか、だ」とオリアリー氏は語る。「状況を計測、監視していなかった場合には、生き残れなかっただろう」。

第4四半期には、プログラマティック広告とディスプレイ広告のキャンペーンに対する関心が高まっていると、多くのパブリッシャーやメディアバイヤーが話していた。パブリッシャー側は効果が現れるまでの期間の短さを強調して同四半期内に広告費用が流れ込み続けるようにしたいと思い、広告主側には年末までに残りの予算をすべて消化してしまいたいという思惑があった。プログラマティック、そして特にオープンマーケットプレイスに注目した結果、パブリッシャーが通常は直接販売していないカテゴリーの新規広告主が、パブリッシャーのページに広告を掲載することになったことが考えられる。

今後を見通した場合、こうした新規の広告主は2023年にもまだいるとパブリッシャーは期待できるだろうか。

「自分がメディア企業のCROだったら、この点に全力集中していると思う」とオリアリー氏は述べた。

需要は減少するも価格は安定

興味深いことに、需要減退にもかかわらず、広告の価格は比較的安定している、とオリアリー氏は指摘する。2022年はパブリッシャーにとっても、これが救いとなっていただろう。

下の図は、PMP(プライベートマーケットプレイス)、プライベートギャランティード/直接取引(PG/PD)、広告掲載申し込み(IO)で広告を買い付ける際の1000インプレッションを得るための料金(CPM)の平均を示している。ブランデッドコンテンツ、イベントその他のクリエイティブキャンペーンが含まれる。


ブーストルの「2023 Pricing & Yield Trend Report」より

今後の展望

マグナ・グローバル(Magna Global)は、2023年の広告費の成長率が前年度比で4%を下回ると予想している。だが、ブーストルrの2023年度版の価格設定・広告効果に関するトレンドレポートでは、「堅調な」メディア企業が10%から15%の成長率を達成して2023年を終えると予測している。ほかの企業は、4%でも達することができたら、それだけで十分ありがたいかもしれない。

[原文:Media Briefing: Ad spending is slowing, but it’s a return to ‘normal’

Kayleigh Barber(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)

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