「我々はこの15年、ずっとバーチャルな企業だった」:メディア・マターズ・ワールドワイド ふたりの女性経営者に訊く

DIGIDAY

メディア・マターズ・ワールドワイド(Media Matters Worldwide)は、サンフランシスコを拠点とする独立系のメディアエージェンシーだ。共同設立者であり共同経営者のジョジー・アマン氏とタージ・ザミナズリ氏が、それぞれのキャリアをスタートさせたエージェンシーで、やや畑違いのメディア部門に配属されていなかったら、この企業の設立もなかったかもしれない。

人生最初の勤め先として、ザムナズリ氏がマッキャン(McCann)、アマン氏がロウ・アンド・パートナーズ(Lowe & Partners)に入社した当時、ふたりはクリエイターを目指していた。ところが、アマン氏曰く、同氏は出社して早々に「地下牢のようなメディア部門に連れて行かれた」という。それでも、ふたりはそれぞれの勤め先でメディアに関する知識と技術を身につけた。

そして2002年、ザムナズリ氏とアマン氏はベッカーメディア(Becker Media)という小さなパフォーマンスエージェンシーで邂逅を果たす。ここで3年間、ふたりは毎日ランチをともにするうちに互いの強みを知り、それが相互補完的な関係にあることに気づいたという。アマン氏はプランニング、トラディショナルメディア、B2Bを、ザミナズリ氏はバイイング、デジタル、B2Cを強みとしていた。2005年、両氏はたったふたりでメディア・マターズ・ワールドワイドを立ち上げた。職場は自宅で、資金を援助してくれるスポンサーもいなかった。それがいまでは、60人の従業員(現在もほとんどがリモートワーク)を抱えるまでに成長した。2021年の取扱高は、前年の6500万ドル(約71億7000万円)から大幅増の推定2億ドル(約220億6000万円)を見込んでいるという。なお顧客には、シプト(Shipt)、プロアクティブ(Proactive)、シエラネバダ(Sierra Nevada)、SAP、日立(Hitachi)らが名を連ねる。

米DIGIDAYは、ザミナズリ氏とアマン氏に、メディアビジネスの現状について話を聞いた。なお、両氏の発言内容は、読みやすさを考慮して若干の編集を加えている。

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──2020年の幕開け、我々は世界が音を立てて崩壊するのを目の当たりにしたが、あなたたちの企業は従業員を25人から60人に増員した。ふたりにとって、この危機も、大きな成長の機会に思われたのではないか。

アマン氏:誰もがあらゆる活動を停止して、大きな混乱に見舞われた。しかし、我々は長年ビジネスを続けてきたので、こうした局面は幾度か経験しているので、我々は比較的平静を保てていた。2008年の世界金融危機などがそうだ。それもあってか、我々は結果的にB2BとB2Cの顧客をほぼ同数に維持することができ、事業の健全性も担保できた。人々の消費意欲が振るわず、一時期B2C領域が落ち込んだ際も、B2Bは持ちこたえたし、事業を中断することはまずなかった。おかげでしっかりと足場を固めつつ、必要な軌道修正をしながら新しい取引先を開拓できた。たとえば、食料雑貨の即日配送サービスを運営するシプトもそのひとつで、この時代にぴったりの顧客だ。

ザミナズリ氏:柔軟性も飛躍の要因になったと思う。事業環境は絶えず変化するが、我々はそれに柔軟に対応できる。顧客企業が内製化を進めればそれに合わせて対応し、そうかと思えばまったく逆のアプローチを取ったりもする。我々のビジネスモデルは、ほとんどプラグアンドプレイといってよい。クライアントによっては、指定広告代理店を務めるケースもあれば、全予算の扱いを任されて、戦略立案と分析を担当することもある。一方、クライアントが社内に強力なパフォーマンスチームを持っている場合は、パフォーマンス広告は彼らに任せ、我々がブランディングの仕事を担当し、包括的な分析案件として請け負うこともある。

アマン氏:もうひとつの大きなポイントは、我々は立ち上げ当初からバーチャルな企業であったことだ。従業員が60人まで増えたいまも、バーチャルであることに変わりはなく、それはコロナ禍の勃発で大きな価値を発揮した。この15年間、周りから「君たちは無謀だ、オフィスを持て」といわれ続けた。だが我々は「それは自分たちのビジネスモデルには適さない」といい続けた。オフィスを持たないからこそ、自立心に富む優秀なスタッフを雇用することもできる。

ザミナズリ氏:我々の企業では、従業員の95%が勤続8年を超える。従業員の定着率は90%台で、比較的年齢層の高いベテラン揃いだ。若手や初心者の多いエージェンシーでは、離職率が高くなる。

──ふたりの企業は、ブランド広告とパフォーマンス広告の経験、B2CとB2Bの両方を兼ね備えている。なかでも、特に得意分野とするところはあるか?

アマン氏:我々は、メディア、バイイング、プランニングを担当するエージェンシーであると同時に、分析を得意とする企業でもある。クライアント企業内のパフォーマンス広告の担当部署と仕事をするケースもある。この場合、クライアント側の担当部署がプランニングや効果測定を縦割りで行うケースが多かった。これは悩ましい問題だ。大きな企業がパフォーマンス広告に莫大な予算をつぎ込み、そこへブランド広告のレイヤーを追加したいと要望してくる。ところが、そのふたつを連携させる方法がないというのだから、うまくいくわけがない。

我々の役目は、顧客の学びを助け、効果測定や学習計画を設計し、コミュニケーションの枠組みを作ることだ。ブランド認知から商品購入に至るカスタマージャーニーについて語り、すべてを綿密に計画して、クライアントが適切なコンテンツを準備できるようにする。多くの場合、彼らのようなクライアントは、パフォーマンス広告のコンテンツをぎゅうぎゅうに詰め込んで、見込み客を獲得しようとする。それではうまくいかない。

──たとえばSnapchatやTikTokなど、ブランド広告とパフォーマンス広告を連携するのに適した新しい選択肢を、どのように案内しているか?

ザミナズリ氏:結局はコンテンツの問題で、若い世代にどう語りかけるか、事業の成功につながるコンテンツをいかに作るかが重要なのだと思う。成功するブランドもあれば、失敗するブランドもあるが、この点が議論の的であることに変わりはない。我々のクライアントの多くは、10代の若者層にリーチしたがる。たとえばプロアクティブもそのひとつだが、彼らはいまも従来のテレビ広告に大きく依存している。彼らは現在、若者が支持するソーシャルメディアの採用に躊躇しており、その要因は効果測定にある。顧客の学びを助けるというのは、まさにこうした認識に関して顧客と議論し、TikTokのようなプラットフォームは、長期的な戦略のなかで検討すべきであることを理解してもらうことにほかならない。

[原文:Media Buying Briefing: How two friends reluctantly got into media and built their agency from scratch into a $200 million business

MICHAEL BÜRGI(翻訳:英じゅんこ、編集:村上莞)
Illustration by IVY LIU

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