スナップ 、AR(拡張現実)を使った試着機能などをパッケージ化:ファッション小売向けのコマース支援を強化

DIGIDAY

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スナップ(Snap)は、自社をコマースにおけるAR(拡張現実)の代名詞として位置づけるための手段を講じている。

ARおよびAIテクノロジーを何年もかけて獲得してきた同社は、顧客が自社のウェブサイトに組み込めるように、もっとも重要なツールのいくつかをパッケージ化している。この事業は同社が「アレス(ARES:Augmented Reality Enterprise Services、拡張現実企業サービス)」と呼ぶもので、小売に特化してカスタマイズされた試着・サイズ調整ツールである「ショッピングスイート(Shopping Suite)」とともに開始される。ショッピングスイートは現在、衣類、フットウェア、アイウェアの3つの垂直市場に対応している。

コマース支援を強化

Snapchat(スナップチャット)の親会社であるスナップは、この10年の大半にわたってARに投資し、レンズ・フォー・Snapchat(Lenses for Snapchat)やレンズスタジオ(Lens Studio)などの機能をリリースしてきた。レンズスタジオは、アーティストや開発者がARエクスペリエンスを作り上げるためのツールだ。同社によれば、2億5000万人以上の人々が日々SnapchatでARに関わっている。しかし最近になって、ARへの取り組みを拡大し、インスタグラムAmazonと同様にコマースを焦点に定めるようになった。

スナップは過去数年間にわたって、各ブランドがSnapchat上でプロフィールを作成できるようにし、ブランドの商品と結びついたARフィルターの運用を開始し、ユーザーがアプリ内で買い物をする方法を開発してきた。また同社はフィットアナリティクス(Fit Analytics)(サイズ予測技術を保有している企業)とバーテブレイ(Vertebrae)(3Dの商品レンダリング機能を保有している企業)を買収し、アルカディア(Arcadia)というグローバルブランドのクリエイティブスタジオを設立した。現在は、小売業者向けに対して、自社ウェブサイトでARやAIツールにアクセスできるようにし、売上の増加や顧客の維持のため役立てようとしている。

スナップのARエンタープライズ商品戦略および商品マーケティング責任者を務めるカロライナ・アーグエルズ氏は、米モダンリテールに対し、「目標は、小売業者が自社の消費者や買い物客の体験を変革し、大規模小売企業の顧客から常に指摘されてきた最大の課題のいくつかについて、ソリューションを推進できるようにすることだ」と述べている。「つまり、このような課題として、競合の激化によるカートの放棄、コンバージョン、そしてもっとも重要なものとして、小売業者にとって大きな課題であり続けている返品の低減などがある。そして最後に、小売業者が顧客を定着させるために、顧客に対してさまざまな体験を提供できるよう支援していくことだ」。

スナップは、小規模なD2C企業にも、大規模な企業にもアピールできるように自社ツールを構築している。「我々は、スナップが、小売分野のなかで、さまざまな種類の顧客に向けた非常に優れたアプリケーションを保有しているので、大きな期待を寄せている」と、アーグエルズ氏は述べている。

ショッピングスイートのしくみ

アレスの最初のサービスであるショッピングスイートには、いくつかのコンポーネントが含まれており、クライアントは、標準の開始料金および追加支払いで、すべてのコンポーネントを利用することができる。最初のコンポーネントは「AR試着(AR Try-On)」で、買い物客がサングラスやシャツなどのアイテムを、フィルター操作や自分の写真をアップロードすることで、ライブで「試着」できるものだ。2番目のコンポーネントは「3Dビューワー(3D Viewer)で、買い物客が画面を動かして、靴などの商品をさまざまな角度から見ることができる。3番目のコンポーネントは「フィット・アンド・サイジング(Fit & Sizing)で、AIを使って、特定の顧客に最適な衣服や靴のサイズを提案する。

これらすべての核となるのが「エンタープライズマネージャー(Enterprise Manager)」で、小売業者が、自社の商品カタログや、商品説明、サイズ表、商品画像をすべてプラグインできるパーソナライズされたバックエンドシステムだ。スナップのARツールは、それらのデータポイントを取得して、ほかの3つの機能に反映させる。たとえば、小売業者があるバッグの商品情報と写真をアップロードすると、スナップはそのバッグの3D画像をレンダリングして3Dビューワーに送り込むことができる。AR試着の場合、スナップはドレスの写真を、さまざまな体形の人々の画像の上に転写することで、複数のモデルの写真を長時間かけて撮影する必要はなくなる。

スナップは、顧客がさまざまな色とスタイルのアイテムを「試着」することで、その商品が現実でどのように見えるかをより的確に想像でき、パーソナライズされたサイズのおすすめを活用できることで、購入に至る可能性が高くなると期待している。このように、ショッピングスイートは、企業にとって大きな悩みの種を解決するため役立つと期待している。

ARはこの数年間で大きく進歩した。しかし、AR試着のような一部の機能は依然として困難な部分がある。特にアパレル企業では、衣服を単にモデルの上に重ねただけでなく、実際に着ているように見せるのは複雑で困難だ。

B2Bの手法

アメリカンイーグル(American Eagle)やプラダ(Prada)など多くの小売業者が、スナップのARツールを使って、サングラスやスニーカーなどのアイテムを顧客が「試着」して買い求められるようにしてきた。しかし、そのプロセスの多くは、これまでSnapchatのアプリ内で行われてきた。アレスを使用することで、小売業者はこれらと同じツールを自社のウェブサイトに構築できるようになり、ショッピング体験やユーザーのインサイトをこれまでより的確にコントロールできるようになる。

スナップは現在、アレスとショッピングスイートを発表するタイミングを選んでいるが、過去3〜6カ月にわたって、いくつかの小売業者と共同で機能をテストしてきたと、アーグエルズ氏は述べている。これには、アパレル企業のプリンセスポリー(Princess Polly)、アイウェア小売業者のグダー(Goodr)、カシミヤブランドのゴビカシミヤ(Gobi Cashmere)が参加していた。

これまで、グダーは「AR試着」ツールをテストし、モバイル端末ユーザーのコンバージョン率が67%も増加したと、スナップは述べている。プリンセスポリーでは、「フィット・アンド・サイジング」でおすすめされたサイズを購入した買い物客は、このテクノロジーを使わなかった顧客よりも返品率が24%も低かったという。

スナップは、AIおよびARのツールにはコストがかかることを理解しており、小売業者がこのテクノロジーを簡単に使用できるようにしたいと考えていると、アーグエルズ氏は語る。「当社は、このテクノロジーで何ができるか、それを極めて現実的に見えるよう、非常に高い水準で行うにはどうすればいいか、といったことだけではなく、小売業者が組み込めるよう十分に効率化するにはどうすればいいか、ということに焦点を当ててきた」と、同氏は説明している。

ショッピングにおけるARの役割

現在では、自社ウェブサイト、アプリ、さらには実店舗にまでARを組み入れはじめる小売業者が増えてきている。Appleとイケア(Ikea)はARを使用して、自社の商品が買い物客の自宅でどのように見えるかをテストし、レイバン(Ray-Ban)やナイキ(Nike)などの企業は売上を促進するために仮想試着を取り入れた。仮想試着室も、この数年間で一般的なものになった。

ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、米モダンリテールに対し、ARのユースケースについて、特に現状のVRやメタバースのユースケースと比べて「強気」であると語った。「ARには、ショッピング体験をより良いものにする現実的なユースケースが数多く存在する。そのため、スナップが実用的なものに注力し、それを必要とする人々に販売するのは賢い戦略だ」と、同氏は述べている。

同時に、TikTokやインスタグラムなどと競合するとなると、「このサービスが伝統的なソーシャルプラットフォームにどれだけ役に立つのかは不明だ」と、同氏は述べている。「自社独自のウェブサイトをホストするためにAmazonウェブサービス(AWS:Amazon Web Services)を使用している人々が、それを理由にAmazonでより多くの買い物をするわけではないのと同じだ」。

しかし、マクロレベルでは、スナップのアレスプログラムは、「ベンダーが自社の能力とサービスの一部を、ほかの小売業者に販売するためホワイトラベル化している」という、より大きなトレンドと合致していると、ゴールドバーグ氏は語る。たとえば、AmazonはAWSとPay With Amazonを提供し、ウォルマート(Walmart)は独自のコマース技術を保有している。

PwC(ピーダブリューシー)の米国小売リーダーを務めるケリー・ペダーセン氏は、小売業者はARへの投資に関心を抱いているが、その多くは自由に使えるツールを保有していないと、米モダンリテールに語った。その代わりに、「そのテクノロジーを保有している、多くの場合はテック分野の企業に目を向けている」と、同氏は述べている。

スナップは、自社のアレスプログラムによって、小売業者が大きな課題に取り組むと同時に、より優れた体験を顧客に提供できると確信している。同社はショッピングスイートを衣類、フットウェア、アイウェアの垂直市場向けにリリースしているが、宝石類、自動車、家具などそのほかの分野への拡大を計画している。アーグエルズ氏によれば、小売以外では教育、エンターテイメント、旅行などの分野でツールのスイートを開発することに意欲的であるという。

[原文:Snap rolls out augmented reality tools for fashion retailers in latest commerce push]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Snap

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