近年では、子どもの発達において幼少期の経験が重要な役割を果たしていることが知られており、研究者は子どもの発達に影響を及ぼすさまざまな要因を調査しています。カリフォルニア大学アーバイン校の小児科学・生物物理学教授を務めるTallie Baram氏らの研究チームが発表した論文では、「行動が予測しにくい、あるいは行動の一貫性がない親に育てられた子どもは、感情的な脳の発達が妨げられる可能性がある」との結果が示されました。
Principles of emotional brain circuit maturation
https://www.science.org/doi/10.1126/science.abn4016
Predictable and consistent parental behavior is key for optimal child brain development
https://theconversation.com/predictable-and-consistent-parental-behavior-is-key-for-optimal-child-brain-development-184300
Baram氏らの研究チームは「どのような信号が脳の感情システムの発達に影響するのか?」という問題に取り組むに当たり、視覚や聴覚といった脳の感覚系が発達する上で「環境から受け取る信号」が重要であるという点に着目しました。
たとえば、乳児がほとんど目を開かなかった場合、その子どもは成長した後も生涯にわたる視力障害を発症する可能性があるそうです。また、頻繁に耳の感染症にかかったせいで日常の音のパターンと連なりを聞き分けられるようにならなかった乳児は、生涯にわたって聴覚の問題を抱えることになる可能性があるとのこと。
これらの結果から、乳児が受け取る情報の主な発生源である「親」からの信号が、脳の正常な発達に必要不可欠なのではないかとBaram氏らは考えました。実際にBaram氏らのチームが発表した2020年の論文では、親の行動と子どもの要望に対する反応が感情的な発達において重要な役割を果たしており、ネグレクトなど子どもに対する反応が欠如している状態は、後の人生における感情的問題のリスク増加と関連していることが示されました。
しかし、多くの研究者が親の「肯定的」または「否定的」な行動には焦点を当てるものの、行動の「予測可能性」や「一貫性」にはほとんど注意が払われていないとBaram氏は指摘。予測可能で一貫性のある親とは、子どもが転んだりおもちゃを欲しがったりする場合、いつでも同じように反応する親のことを指しています。長期的には、朝食や夕食のタイミング、子どもの送り迎えをする人、就寝時間といった生活パターンが予測可能であることも意味します。
Baram氏は親の予測可能性や一貫性が子どもに及ぼす影響を調べるため、マウスやラットを対象にして、親の行動が子どもの神経発達に及ぼす影響を実験で調べました。また、Baram氏らは人間の親子でも実験を行い、親と子どもが遊ぶ様子を観察して親の行動の予測可能性を測定した上で、子どもの認知や感情の発達度合いを調べるテストとアンケートを行いました。
動物と人間を含む一連の研究結果からは、予測可能で一貫性のある親の行動パターンが、後の人生で子どもたちがより優れた感情的・認知的機能を持つことに関連していると示されました。一連の研究は主に母親に焦点を当てたものでしたが、研究チームは同じ原則が父親にも当てはまる可能性が非常に高いと考えています。
Baram氏は、「今回の研究結果は、子どもの発達に影響を与えるのは子育てがポジティブかネガティブかだけではないことを示唆しています。子どもの感情的な脳の発達には、親が予測可能で一貫性のある方法で子育てをすることも同じくらい重要です」と述べました。
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