書き出し小説大賞第239回秀作発表

デイリーポータルZ

書き出し小説とは、書き出しだけで成立したきわめてミニマムな小説スタイルである。

書き出し小説大賞では、この新しい文学を広く世に普及させるべく、諸君からの作品を随時募集し、その秀作を紹介してゆく。(ロゴデザイン・外山真理子)

サブスクしない大物アーティスト山下達郎さんの新アルバム、ジャケットはヤマザキマリさんの描く肖像画でした。やっぱりオードリー・タンに似てるなと思いました。それでは今回もめくるめく書き出しの世界へご招待しましょう!

書き出し自由部門

来た道を戻る時、僕はいつも一人だ。

ぐるりん

読み手それぞれにそれぞれのイマジネーションを与える、書き出し小説そのものの秀作。

夜の図書館は、よく足音が聞こえる。

坂上田村麻呂の従兄弟

悲しい夢を見ていた。悲しいのだけわかる。

みよおぶ

その猫は、どんな名前でも振り向いた。

みよおぶ

とくにミステリアスではないという(笑)かわいい作品。

傘に溜まった雨粒を振る、あの人は私だったんだと思います。

あの

暗くなる前に、水彩画の街から逃げだした。

葱山紫蘇子

あなたに付けたリードの長さが私の愛

バナナの皮

Mにはご褒美のような作品。

ハッシュタグを散りばめたランチを食べる、自分に酔う私。

にら将軍ハルナ

初期設定のアバターと同じ姿で彼女は現れた。

若葉猫

夕焼けのタバコ屋の角を曲がって、私はようやく「生徒会長」から有紀子に戻れた。

さくさく

夕立の隅っこで、大男はしゃがみ込んでいた。

タカタカコッタ

背中だけが濡れている。

このやさしさは、ポテトサラダでは表現できなかったと思う。

七寒六温

全然綺麗でもなくて、汚いよね。

みんと

輪っか人間。不貞の子。父の母への復讐で、ヘンテコに育てられて棄てられた、哀しい哀しい、輪っか人間。

正夢の3人目

正夢くんがまた心配させる作品を……(笑)

クラゲが降る森を傘もささずに歩いていた。

もんぜん

線路に飛び込む瞬間の紫外線の強さを私は死ぬまで忘れない。

モンゴノグノム

ありとあらゆる運命の悪戯が重なり、人間亡き後の地球はタニシが支配した。

prefab

タニシが攻めてきたぞ!

いったん広告です

続いては規定部門。今回のテーマは『80年代』でした。おっさんのニヤニヤが止まらない80年代作品が集まりました!

規定部門・モチーフ『80年代』

あと18年で世界は終わる。おやじの寝言は嘘だった。

雷都

全中年に掛けられたノストラダムスの呪い。

オリジナルのカセット、君のために徹夜でつくったんだ。

八王寺義昭

健太のジャポニカ学習帳は、復活の呪文でいっぱいだ。

タクタクさん

電話ボックスが空かない。

タカタカコッタ

友達と電話ボックスに何人入れるか、やったなあ。

ミホは、喫茶店のクリームソーダが嫌いだ。

一色凛夏

読むと逆に飲みたくなる。喫茶店のクリームソーダ。

キツネ目の男が世間を騒がせていた頃、一頭の犬が失踪し、一人の女が誕生した。

げたのにつけ

人面犬と口裂け女?

俺の青春なんて回想してもスローモーションにもならない。

井沢

最も宇宙人が襲来して、何もせずに帰っていった時代。

いずも

軽井沢、と書かれたペナントに触れた途端、見知らぬ別荘での記憶が流れ込んできた。

いつかのバミューダトライアングル

最もウソと本当の区別がつかない時代だった。

ミミズグチュグチュ

小林克也がアメリカのすべてだった。

g-udon

分かりみ(笑)MTV黎明期。マイケル、マドンナ、男子は全員デイヴィッド・リー・ロスに憧れた。

令和でも荒木さんの呼び名は『師匠』

ベル

肩パッドが触れ合う。札束が飛び交う。だけど君の眉毛は細かった。

おもち

肩パッドの方が本体なんじゃなかろうか。

えむけい

肩パットを浮かせて円陣を組んだ。

ろっさん

肩パッドがスマホ以上の進化を果たした世界線

もう、それはそれは肩パッド。なんなら全て肩パッド。

あの

さんちゃん、寒い。彼女はそう言って身を寄せた。彼女も僕もさんちゃんではないのに。

あやあや

めちゃいけじゃない方のさんちゃん。このネタ好きだった(笑)

八個目のドラゴンボールを見つけた日

S.虚無

消えない思い出。消せないキン消し。

はらけん

ほとんどの食べ物が記念日になった。

もんぜん

汁かけ汁なし担々麺記念日

幸いにして北斗の拳ごっこで体が破裂したということはなかった。

いそうろう

「運転手さん、前のエリマキトガゲを追ってください」

タクタクさん

最盛期、我が家には盗んだバイクが5台あった。

ウチボリ

「聖子ちゃんカット? 聖子さんカットだろ?」

ぐるりん

タケさんマンであり、鶴さんのプッツン5です。

ウソみたいだろ。それが40年後の玉置浩二だぜ。

たこフェリー

右曲がりのワインレッドの何かが隣に腰をおろした

寂寥

右曲がりのダンディー!江口寿先生のタッチそっくりの!(笑)実写版は玉置浩二。

レイニーブルーを金玉で感じていた。

寂寥

新春かくし芸はインディ・ジューンズにつきる。

葱山紫蘇子

井上順の!あと

伊藤が書いた昭和64年の抱負だけが、令和の今でも壁に貼ったままになっている。

prefab

それでは次回のモチーフを発表します。

次回モチーフ
『ロビンソン』

次回のお題は永遠の名曲スピッツの『ロビンソン』。とくになにかの企画がらみやタイアップというわけではないんですが、一度ひとつの曲をモチーフにした「トリビュート書き出し」をやってみたかったのです。知名度、名曲度、文学性……どれをとっても文句のない一曲ではないでしょうか。

『ロビンソン』が流れる風景や瞬間をイメージしたシーン、ストーリーを考えて書き出しにしてください。曲名は入っても入らなくてもオッケーです。締め切りは7月8日(金)発表は7月10日です。下記の投稿フォームからご応募ください。力作待ってます!

最終選考通過者 なし

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