2020年11月に発表されたApple初の独自開発SoC「M1」は、レビューした海外メディアから「コンピューティング革命」「信じられない偉業」といった絶賛の嵐を受け、さらにはLinuxの生みの親であるリーナス・トーバルズ氏にも「M1チップ搭載Macが絶対欲しい」と言わしめるほどの成功を収めました。そんなM1チップの次世代チップとなる「M2」のGPU性能について、海外テクノロジーメディアのTom’s Hardwareが考察しています。
Don’t Believe the Hype: Apple’s M2 GPU is No Game Changer | Tom’s Hardware
https://www.tomshardware.com/news/apple-m2-gpu-analysis
Appleは2022年6月7日に開催されたWWDC22の中で、Mac向けの独自開発SoCであるMシリーズの次世代チップとなる「M2」を発表しました。Appleが最初の独自SoCである「M1」チップを発表したのは2020年11月、M1の上位版となる「M1 Pro」および「M1 Max」を発表したのは2021年10月、さらにM1シリーズの最上位モデルとなる「M1 Ultra」を発表したのが2022年3月のことでした。
AppleがM1チップの次世代版となる「M2」を発表、第2世代5nmテクノロジーでトランジスタ数は200億に到達 – GIGAZINE
Appleが独自SoCのM1チップを市場に投入したのは2020年のことで、これはPC市場で最初の5nmプロセスチップでもありました。しかし、それから2年が経過した現在でもTSMCは次世代のプロセスルールとなる「3nm」の製造施設を準備することができていないため、Appleの次世代SoCとなるM2チップは「第2世代5nmプロセス」を採用するに至っています。
それでもAppleはM2のトランジスタ数を200億にまで増加させることに成功しており、これはM1と比較して25%増という数字になります。ただし、M2チップが3nmプロセスでの製造に成功していたなら、よりトランジスタ数を増加させることができていただろうとTom’s Hardware。
AppleはM2チップの性能について、M1と比較してCPUパフォーマンスは最大18%、GPUパフォーマンスは最大35%向上したとアピールしています。しかし、この比較にはM1 Pro・M1 Max・M1 Ultraといったチップが含まれていません。そのため、Tom’s Hardwareは「M2チップのGPU性能に興味があります」と述べ、M2が他のiGPUやdGPUと比較してどのようなパフォーマンスを示すのかを独自に調査しています。
例えば、dGPUであるNVIDIAのRTX 3050の単精度浮動小数点演算(FP32)処理能力は「9TFLOPS」で、AMDのRX6600は「8.9TFLOPS」です。スペック上は2つのGPUは同等であるように見え、メモリ帯域幅も同じく「224.0GB/s」となっています。ただし、実際にテストするとRX6600の方が1080p解像度のゲームのパフォーマンスが30%高くなるとTom’s Hardware。
AppleはMシリーズでARMアーキテクチャを採用していますが、このアーキテクチャの性質上、単精度浮動小数点演算処理能力に基づくパフォーマンスはAMDのGPUと似たものになるとTom’s Hardwareは指摘。なお、M1のGPUの単精度浮動小数点演算処理能力は「2.6TFLOPS」で、メモリ帯域幅は「68GB/s」です。つまり、M1はAMDの「RX 5500 XT」の半分の単精度浮動小数点演算処理能力と3分の1のメモリ帯域幅を持つということになります。また、実際のベンチマークテストでも、M1はRX 5500 XTの約半分の速度で動作したとTom’s Hardware。
一方で、M2のGPUの単精度浮動小数点演算処理能力は「3.6TFLOPS」であり、これはRTX 3050とRX6600の約半分の数値ということになります。また、M2のGPUでは大規模なアーキテクチャのアップデートは行われていないため、過去の比較を活かすことができると指摘。M2のGPUの単精度浮動小数点演算処理能力が「3.6TFLOPS」であるという点を挙げ、Tom’s Hardwareは「この数値はPCゲームをプレイする上で不可能という数値ではないものの、M2のGPUが最大設定や1080p/60fpsで十分なパフォーマンスを発揮してくれるとは思えません」と指摘し、M2のGPUにゲーミング向けのdGPUほどの性能はないと断言しています。
ただし、iGPUとして考えれば「3.6TFLOPS」という数値は「かなりまとも」とTom’s Hardware。これと似た数字を持つAMDのRyzen 7 6800U場合、iGPUの単精度浮動小数点演算処理能力が「3.4TFLOPS」となっています。Tom’s Hardwareは「基本的にM2のGPUパフォーマンスはIntelの既存のiGPUよりもはるかに高速であり、MacBookに最後に搭載されたIntel製チップの第8世代CoreチップのiGPUと比べれば圧倒的です。しかし、それは素晴らしいゲームパフォーマンスを示すというレベルのものではありません」と記しました。
この他、Tom’s Hardwareは「AppleはM2チップがAV1のエンコード・デコードのサポートについて言及していない点は興味深い」と指摘。AV1はAmazon、Google、Intel、Microsoft、Netflixといった主要企業がサポートする動画圧縮コーデックで、記事作成時点でIntelはAV1エンコーディングをサポートする唯一のPCグラフィックス企業です。ただし、AMDとNVIDIAは最新のアーキテクチャにおいてAV1デコーディングのサポートを発表しています。
ただし、これらは今回発表されたM2のGPU性能であるという点を覚えておく必要があります。M1と同じように、M2の上位版となるM2 ProやM2 Max、M2 Ultraといったチップが登場する可能性があり、そうなれば理論上はRX6600やRTX 3050と同等のGPU性能を持ったチップが誕生することも十分に考えられます。
なお、Tom’s Hardwareは「最終的な結論を出す前にチップの動作を確認する必要がある」と記しながら、AppleでさえM2のGPU性能について「M1よりも35%高い」としか言及していないため、M2のGPU性能はM1 Proよりも低く、M1 MaxとM1 Ultraに至っては「比べるべくもない」ものとなる点には注意が必要だとしています。
この記事のタイトルとURLをコピーする