たとえ業績の悪化に見舞われようとも、逆転勝利のチャンスは常にある。パブリッシャーもその例外ではない。ブルームバーグ・メディア(Bloomberg Media)にとって、そのチャンスとはメインストリームの一角に食い込むことだ。
この目標は目新しいものではない。同社は10年近く前から、自社事業の要である金融関連情報の枠を越えるべく努力を重ねてきた。なかには達成された野望もあるが、それでもまだ十分とはいえないだろう。ブルームバーグ・メディアはいまも金融ソフトウェアの開発で名を馳せているが、一般の人々はそうしたものを使ったこともなければ、聞いたこともない。それでももし今後、この金融系パブリッシャーに新規読者獲得のチャンスがあるとすれば、世界的な経済危機もまた絶好の機会のひとつだ。
同社の計画はいたってシンプル。すでに強固な編集基盤が築かれている有望マーケットでの「地方版」の展開だ。
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最初のマーケットは英国
最初のマーケットは英国だ。そう聞くと、ブルームバーグ・メディアのいつもの「奇策」に思えるかもしれない。英国もアメリカ同様、物価高騰のぬかるみにはまり込んでいる。しかし、この危機による打撃をもっとも受けているのは、(少なくともいまのところはだが)低所得世帯だ。それ以外の世帯の多くは、第1四半期のマージンからも明らかなように、値段が上がってもいままで通りほしい物やサービスを購入している。
ブルームバーグの経営陣は、これがビジネスジャーナリズムにも広がることを期待している。英国における同社のサブスクリプションに対する需要が急増していることを踏まえるとなおさらだ(2021年だけでも30%の増加)。これはもっともなことかもしれない。現在の経済的苦境は、見方を変えれば拡大する一方の「大きな物語」でもある。経済的に余裕のある世帯がブルームバーグのサブスクリプションに加入しても、何の不思議もない。
ブルームバーグ・ニュース(Bloomberg News)のシニアエグゼクティブエディター、デビッド・メリット氏は、次のように語る。「ブルームバーグが英国に進出したのは、昨日や今日のことではない。このニュースルームには、500人を超えるジャーナリストやアナリストが所属している。我々は常に、ブルームバーグのターミナルカスタマーであるコアリーダーにニュースサービスを提供してきた。しかし、ビジネスや金融に関心がある英国内のより幅広いオーディエンスに向けて、我々のサービスをパッケージングしたり、プロモーションしたりといったことは考えてこなかった」。
これは、ブルームバーグ・メディアの計画がどうすればうまくいくかをテストするための、事実上のリトマス試験紙となる。銀行家や金融トレーダーのような人種しか読まないようなニュースを追いかけていたら、メリット氏が言うところの「より幅広いオーディエンス」は獲得できないだろう。そこでいまでは、英国の人々が経済について知っておきたい情報に明確に焦点が当てられるようになった。これによってブルームバーグ・メディアは、英国でビジネスジャーナリズムの定番となっているフィナンシャル・タイムズ(The Financial Times)やタイムズ(The Times)などと同じ土俵に上がることとなる。
著名ジャーナリストの獲得
また、同社はそこへの投資も積極的に行っている。
事実、すでにベテランジャーナリスト数名がブルームバーグ・メディアに合流し、注目を集めている。BBCブロードキャスターのエマ・バーネット氏、ポリティコ(Politico)のニュースレーター「ロンドン・プレイブック(London Playbook)」の編集者であるアレックス・ウィッカム氏、そしてNBCニュース(NBC News)のテクノロジー担当シニア調査報道記者のオリビア・ソロン氏だ。
こうした著名人の獲得は今後も続くと、メリット氏は話す。広告への依存度を下げ、サブスクリプションなどの直接的なビジネスモデルを重視する方向に舵を切ろうとしているパブリッシャーにとって、彼ら著名人の獲得に追随するコミュニティは、これまで以上に重要となる。
「いまの時代に必要なのは、人を呼べる著名人だ」と、メリット氏は語る。「ブルームバーグのサイトを開くと、コラムニストたちの顔写真が表示される。我々は現在、こうした新しい試みに力を入れている。記事をクリックするとオプションが表示されて、筆者をフォローできるようになっているのもそのひとつだ。その筆者の言動に関するアラートを受け取れるようになる」。
つまり、こうした著名人たちはいままで以上に、ブルームバーグというブランドの成長における中心的な役割を担うようになっている。バーネット氏のウィークリーインタビューシリーズ「エマ・バーネット・ミーツ…(Emma Barnett Meets…)」は今年1月に始まり、年間を通してオンエアされることになっている。そのほかにも、ブルームバーグ・メディアのタレントたちが司会を務めるポッドキャストやラジオ番組(毎日生放送される政治番組など)も用意されている。
エンダーズ・アナリシス(Enders Analysis)のCEO、ダグラス・マッケイブ氏は、次のように語る。「各家庭は家計のさまざまな側面で厳しい決断を迫られることになるだろう。この先の数カ月が厳しいものになることは間違いない。広告も必然的にソフトなものになっていくはずだ。しかし、現在のもうひとつの大きなテーマは、公共サービス放送、コンテンツ制作、出版、エージェンシー、ニュースサービスなど、あらゆるかたちにおける英国のメディアが持つ役割と目的に対する信頼の回復だ。たとえ景気が悪くても、オンライン広告は成長を続けていくだろう」。
サブスクリプションが優先課題
商業的に見て、ブルームバーグ・メディアの地域密着戦略は、(少なくとも理論上は)いい面だらけだ。サブスクリプションに関する好機は別にして、それがテレビであれ、オンラインであれ、イベントであれ、ポッドキャストであれ、いままさに生み出されている広告インベントリー(在庫)がいくつもある。ブルームバーグ・メディア・イン・ヨーロッパのマネージングディレクター、ダンカン・チェイター氏は、これによってマーケターが利用できる広告枠は増えていると話す。
ブルームバーグ・メディアの売上の半分は広告が占めている。オンラインサブスクリプションの割合は25%で、残りの25%はイベントとグローバルパートナーシップ、ライセンス契約が占めている。しかし、ビジネスとしてはまだ比較的若い部類に入るものの、サブスクリプションは依然としてブルームバーグ・メディアの優先課題のひとつとなっている。2018年にローンチされて以降、現在のサブスクライバー数は約38万人で、その半分以上(66%)が正規料金を支払っている。メディア業界で稼ぐのにベストな方法は、例によって「多角経営」なのだ。
「収益面では、8四半期連続で過去最高を記録している」と、チェイター氏は話す。「当地におけるブルームバーグ・メディアの今年の第1四半期売上は前年比で87%増加したが、これは昨年の記録的な第1四半期売上のおかげだ。その結果、我々がリーチしているこの貴重なオーディエンスに対して、大きな需要が生まれている。実際、我々が毎月リーチしているビジネス界のリーダー、世界のリーダーの数は1億人にのぼっている」。
一部のマーケターにとっては、このオーディエンスは「またたび」のようなものかもしれない。ブルームバーグのような著名なタイトルなら、彼らはプレミア料金を払ってでも出稿したいと思っている。また、それだけの金銭的な余裕もある。失われゆく信頼、差別化。予算。これらがマーケターにブランドの価値と影響力を明確に打ち出せとプレッシャーをかけてきた。こうした不安に乗じることこそ、ブランデッドコンテンツからその広告売上の約90%を生み出しているメディアビジネスの要となる。そのほかの広告ビジネスは、プログラマティックダイレクトとプログラマティックギャランティードの各契約の上に構築されている。
「いまはどの企業も、自社の目的やビジョンを違ったかたちで伝える必要性に迫られている」と、チェイター氏は述べている。
[原文:Inside Bloomberg Media’s regional expansion plan into an economically uncertain U.K.]
Seb Joseph(翻訳:ガリレオ、編集:黒田千聖)