国が一転、賠償責任認める 大阪市内で記者会見する赤木雅子さん:共同通信社
森友学園に関する財務省の公文書改ざん問題で、改ざんを強いられ自殺した近畿財務局職員・赤木俊夫さんの妻、雅子さんが国に損害賠償を求めていた訴訟はあっけない幕切れを迎えた。国がそれまでの対決姿勢を一変させ、賠償責任を認めたため、訴訟が終結したのだ。
当時の財務省幹部らの証人尋問が行われる前に、国が幕引きをはかった形で、原告の雅子さんは「不意打ちでひどい。裁判が進むと事実が明らかになっていくので、真相を隠すため認諾したのでしょう」と批判している。この問題について、田原総一朗さんはどのように見ているのだろうか。【田野幸伸 亀松太郎】
公文書改ざん問題の真相はまだ解明されていない
開示された「赤木ファイル」の写し:共同通信社
国はもともと請求棄却を求めて争う姿勢を見せていたのに、一転して雅子さんの請求を認めたのは、明らかに不可解だ。雅子さんが「賠償金をもらっても真相が明らかにならなければ意味がない」と憤るのは当然である。
なぜ夫の俊夫さんは財務省の文書を改ざんしなければならなかったのか。なぜ自殺するほどに追い込まれてしまったのか。真相解明が全く行われないまま訴訟が終わってしまったのは残念だ。
森友問題は、安倍政権時代に起きた。財務省所管の国有地が森友学園に対して不当に安い価格で払い下げられることになったのは、なぜなのか。どうして、財務省の決裁文書が改ざんされたのか。まだ明確な答えは出ていない。
安倍元首相は、自分や妻は森友学園に関係していないと釈明したが、昭恵夫人は森友学園の名誉校長を務めていた。財務省の公文書が改ざんされたのは、昭恵夫人と森友学園の関係を隠そうとしたからではないか、と疑われても仕方がない。
世論調査では、国民の7割以上が「森友学園の問題について追及すべき」と答えたこともある。
森友学園に関する決裁文書の改ざんが報道されたとき、僕は自民党の幹部たちに「これはどう見ても、財務大臣の麻生氏の責任だ。麻生氏は辞任すべきだ」と言った。
自民党の幹部たちはみな「その通りだ」と言ったが、誰も麻生氏に直言しなかった。当然、麻生氏は財務大臣を辞任しなかった。
麻生氏はなぜ財務大臣を辞任しなかったのか
共同通信社
「なぜ麻生氏は辞任しないのか」。不思議に思った僕は、麻生氏と親しい政治家に聞いてみた。
その政治家によると、麻生氏は「もし自分が辞任したら安倍さんの責任になってしまう。安倍さんは神経が弱いから、責任を追及されたら首相を辞任してしまうかもしれない。自分が頑張るということは安倍さんを守るということなんだ」と主張していたという。
このことを安倍氏はよくわかっていて、麻生氏に非常に感謝しているのだと思う。また、麻生氏が今の岸田内閣に対しても影響力を持っているのは、このとき安倍氏を守ったという点が大きいと言える。
だが、それは政界の都合、政治家同士の貸し借りの話にすぎない。
財務省の公文書改ざんは、行政への信頼を大きく揺るがす事件だ。その真相を解明する必要性は非常に大きい。
だが、赤木雅子さんが国を相手取って起こした訴訟は終結してしまった。まだ、佐川宣寿・元理財局長に対する訴訟は続いているが、国に誠実な態度を期待することは難しい。
おそらく国は、雅子さんの請求を認めれば、マスコミが納得すると考えたのだろう。これ以上、森友問題で追及されないと思ったのだろう。
だが、こんなときこそ、マスコミは真相解明のための報道を続け、政府の責任を追及するべきだ。
森友学園の問題はまだ終わっていない。むしろこれからが、ジャーナリズムの担い手であるマスコミの存在意義が問われるときである。