ストレッチでしょうか? 謝罪でしょうか?
柔らかい関節が欲しくて、最近時間があるとストレッチをしている。足を伸ばして座り一生懸命に体を折り曲げていると、何かに謝っているような気持ちになってきた。ストレッチのポーズにはお辞儀や土下座みたいなものが多い。
ストレッチのポーズで謝ってみよう。誠意は伝わるだろうか。
ストレッチのポーズが謝罪っぽいなと思った
普段は、なんとなく伸びて気持ちよければいいと思って自分なりのストレッチをしているのだが、この機会に図書館で本を借りてストレッチの正しいポーズを見た。
見た目がそれっぽいのはもちろん、やっている本人も「あー伸びているー、もう許してくれー、ああー…」みたいな気持ちになるので、普通の謝罪よりも誠意が伝わる可能性がある。
体の筋が伸びて血行が良くなり体温を上げ、そのパワーが誠意となって伝わり、相手の怒りを鎮めるかもしれないのだ。
色々試して、最も誠意が伝わるポーズを探そう。
やってみよう
西村さんは鬼瓦権蔵(『オレたちひょうきん族』という番組でビートたけしさんが演じていたキャラクター)のドカジャンを着ていて、そしてそれがすごく似合っていて迫力があった。町工場の職人という感じがした。だとしたら僕はそこに部材を納める会社の営業なんだろう。
西村さんは「じゃあ、怒ってください」と言われるとテンポよくちゃんと怒り出した。眉間にシワを寄せて「全くどうしてくれるんだ、本当に…」とブツブツ言っている。何に怒ってるんだろう。怖いな。
早く謝ろう。
一番土下座に近いポーズを最初にやってみた。脇の下や胸の周りの筋肉を伸ばすポーズらしい。本には「日なたぼっこをする猫になった気分で!」と書いてある。絶対に謝罪と両立できない感情。
実際にやった当人はどうかというと、
猫と謝罪で猫が勝った。「ッカ〜! ストレッチってたまにやっとくもんですねー!」と思う。
ポーズ自体はかなり土下座なのだと思うのだが、本人が筋を伸ばしている様子は想像以上に謝罪の雰囲気を消してしまうみたいである。頭を下げた人間から「っあぁ〜…」という声にならない声が聞こえるのだ。
あとしきりに「エビみたい」と言われた。
分かったこと
- いくら謝罪っぽいポーズでも筋を伸ばしてしまうと誠意が伝わらない
- 謝罪って、気持ち良さそうにしちゃいけないらしい
- どちらにせよ指先はピーンとした方がかっこいい
- エビみたい
- 五体投地っぽさもある
どんどん謝ろう
一番自信のあるポーズが謝罪っぽくならなかった。もうここからは数の勝負である。どんどん謝ろう。
足の裏を合わせて膝を左右に開き頭を下げる、股関節のストレッチ。これは意外と謝罪っぽかった。小さくまとまっている、というのが謝罪のポーズのポイントなのかもしれない。さっきの「背中反り」は腕をご機嫌に伸ばしていたからな。
分かったこと
- 小さくまとまっていて意外と謝罪っぽい
- しかし頭を下げる直前のポーズがヤバい
- あれはあぐらだ。あぐらはヤバい
じゃあ長座体前屈だ。
分かったこと
- 硬い
- 硬いと余計に謝罪っぽくない
- やっぱり謝る直前のポーズヤバい
謝っているかどうかではなく「硬い」という指摘がほとんどになる。そう、僕はこの方向に硬いのだ。
ストレッチをしながら謝って「ストレッチしてるじゃん」ならまだしも「硬いよ」と怒られるのは論理がねじれている。そんなこと言われたら「柔らかくなくてごめんなさい」と思う。いや、ごめんなさいの気持ちになったのならば結果的に合ってるのか。二回裏返って真っ直ぐな謝罪の気持ちに帰ってきたのか。
分からない。おかしなことになった。
体が硬い様子を延々見てくれる西村さんはなんなんだ。逆にものすごく優しい人なんじゃないか。
体の柔らかさで誠意は伝わるか
ならばと、その場で一番体が柔らかかったライターの米田さんに謝ってもらった。「体が柔らかいので謝ってください」という話である。おかしなことだ。
そもそも「僕が謝るので怒ってください」と言われ、イスに座らされる西村さんのところからおかしい。
すごい。ポーズは決して謝罪ではないのに、ある一定のラインに達した様子を見せながら謝ると説得力がある。今までのストレッチも、本人の感覚だけで頭を下げていたからいけなかったのかもしれない。目標を定めて、それに達する様子と共に謝れば気持ちが伝わるのだ。
逆に体が硬いと評判の編集部の藤原さんに謝ってもらった。
プラモデルかなと思ってしまうけど本人にとってはこれが限界なのだ。しかしどうしてもふざけているように見えてしまう。
分かったこと
- ストレッチのポーズで謝罪するなら体は柔らかい方がいい。
ライターの山田窓さんに長座体前屈を補助してもらい、指先が足についた。しかし補助の山田さんが先生に頭を下げさせるお母さんのようで、そうなるとおかしな格好で謝っている僕は、素直に謝りたくなくて抵抗している生意気な子どもの様に見えた。
分かったこと
- 補助してもらうと柔らかく見える様にはなるが、補助の人が謝らせているようで結局誠意は伝わらない。
全く謝罪に見えなかったもの
最後に、いかにも謝罪っぽくないポーズで謝罪するとどうなるか、というのもやってみたので紹介します。結論から言うと、謝罪をする時は謝罪っぽくないポーズは取らない方がいい。
ヨガのポーズには謝罪っぽくないものが多くある。これは「戦士のポーズ」。名前からして謝罪の意思がない。僕がやるとでかい鳥の求愛行動みたいだった。
これは背骨のストレッチ。お尻や脚の裏側、腹筋にも効く。
あとポーズができない、というのもダメだった。硬いとダメなのと一緒の理由だろう。
もはやそっちが怒ってるじゃん、というポーズもあった。
柔らかかったらギリギリありかも
たくさんのポーズで謝ったが、唯一ありかも、となったのが米田さんのこれだった。
柔らかい人が、普通の謝罪とそこまで変わらないポーズで、気持ち良さそうにもせず、サラッとやるストレッチで謝る分にはギリギリありかもしれない。
あとはまあ、これを言っちゃうと最初っから全部そうなのだが、謝る内容による。
体が温まった
たくさん謝ったが情け無さや侘しさなど一切なく、ただひたすら体がポカポカしていた。