放送法・電波法改正で「複数県またぎ」編成可能に 地域密着ニュースが減る懸念も…TV局は意義強調

J-CASTニュース

   大都市圏以外の民放テレビでは各県ごとに違った番組が流れる――こういった常識が変わる日も遠くなさそうだ。2023年5月26日の参院本会議で可決、成立した改正放送法・電波法では、(1)異なるカバーエリアを持つ複数のテレビ局が終日同じ番組を流す(2)中継局の設備を複数のテレビ局で共同利用する、ことなどが可能になった。

   動画配信の広がりや人口減でテレビ広告の市場が縮小し、テレビ局経営は厳しさを増すばかり。番組を複数の県で流せるようになれば、スタジオや「放送マスター」と呼ばれる高額な番組送出設備も減らすことができ、コストダウンにつながる。各県に置かれた取材拠点は維持することが前提だが、ニュース番組は複数県で共通の内容を流すため、地域ごとのきめ細かい報道が少なくなる可能性もある。

  • 「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」でテレビ朝日ホールディングス(HD)が提出したプレゼン資料。「対応策の具体的イメージ」として、X県のテレビ局にスタジオやマスターを集約し、Y県、Z県に番組を送信する様子を描いている

    「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」でテレビ朝日ホールディングス(HD)が提出したプレゼン資料。「対応策の具体的イメージ」として、X県のテレビ局にスタジオやマスターを集約し、Y県、Z県に番組を送信する様子を描いている

  • 「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」でテレビ朝日ホールディングス(HD)が提出したプレゼン資料。「対応策の具体的イメージ」として、X県のテレビ局にスタジオやマスターを集約し、Y県、Z県に番組を送信する様子を描いている

同じ放送流すローカル局同士の経営統合も「選択肢」

   法案は3月3日に閣議決定。総務省が21年11月から開いてきた有識者会議「デジタル時代における放送制度の在り方に関する検討会」が22年8月に公表した報告書の内容がベースになっている。

   報告書によると、地方の人口減などでテレビ広告市場が想定以上に縮小していく懸念があるとして、テレビ局は

「中小規模のローカル局は固定的な経費の比率が高くコスト削減には限界があるため、経営難が顕在化した場合に迅速な対応が可能となるよう、先行して経営の選択肢を増やしておくことが望ましい」

として、「複数の放送対象地域における放送番組の同一化」を要望している。

   具体的な要望が行われたのは22年1月24日の会合だ。総務省のウェブサイトで公開されているテレビ朝日ホールディングス(HD)のプレゼン資料によると、系列各局が独自に番組を編成している現状では

「放送マスターをはじめとする設備投資や、24時間放送を維持する運用費などの技術関連コストが重い負担」

だとして、対応策として次の4つを挙げた。ローカル局同士の経営統合の可能性にも言及した。

・系列内の複数地域で、同一放送が可能となれば、放送実施に必要な固定的費用の抑制が可能となる。この費用の抑制は、コンテンツ制作に対しても有益。
・地域情報発信の維持が大前提で、マスメディア集中排除原則(編注:少数の会社によってテレビ局が支配されないようにするための出資規制)の理念である「多様性」確保は可能。
・同一放送とする際に、対象地域の放送局について、経営統合も選択肢となる。
・全国ニュースネットワークの維持のため、既存の取材拠点の機能は堅持する。

   「対応策の具体的イメージ」をうたった概念図では、X県のテレビ局にスタジオやマスターを集約し、Y県、Z県に新たに回線を引いて番組を送信する様子が描かれている。Y、Z県には取材、営業拠点や送信設備を置くことが想定されている。

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