毎年開催されるCESは、世界のハイテク企業が将来のビジョンを売り込む場として存在している。しかし、マーケターたちによると、仮想現実や拡張現実のハードウェアの普及がまだ遅れているにもかかわらず、「コンテンツは王様」であるという長年の格言がメタバース分野でも繰り返されているという。
カンファレンスやトレードショーでは、ショールームのフロアで手にとって見れないようなイノベーションの方が、場合によっては物理的な製品よりも興味深いと指摘する参加者もいた。例えば、IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者であるノア・マリン氏は、どちらもラスベガスで大きな話題を集めたトピックであったチャットGPT(ChatGPT)やミッドジャーニー(Midjourney)の急速な人気と、クリエイティブツールに人工知能を追加することによる面白さと課題の両方を指摘した。
マリン氏は「適度によく書かれた多くのコンテンツと、適度にレンダリングされた画像が、時に悪意を持ってオンラインの世界に溢れかえるような、泥沼を生み出してしまう効果を持つだろう」と指摘する」。「クリエイティブ面で実際の人間の介入がない形でのAIの起用。それは、最高レベルでのクリエイティブな制作をもたらすのに必要な(人間の)思考を企業たちが過小評価する可能性がある。そのことは、平凡さを促してしまう」。
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急速に展開されるAIツール
ここ数カ月、大手IT企業はテキスト、動画、画像を生成するAIを使った新しいツールを急速に展開している。昨年、(コンテンツを生成する)ジェネレーティブAIは調査会社ガートナー(Gartner)の年次マーケティング話題広告サイクル調査に掲載され、数年後には主流になると予測された。しかし、ガートナーのアナリストであるアンドリュー・フランク氏によると、オープンソースであること、さまざまな機能を備えていること、参入障壁が低いことから、すでにアーリーアダプターに留まらない範囲から興味を持たれているという。
「チャットGPTはAIができることのイメージを打ち破った」とフランク氏は語る。「おそらく2023年は、AIによって作られたものが簡単に見抜けるステージから本当に抜け出し、AIとの対話が(人間味を帯びて)より不気味になり始める年なのだろう」。
ハードウェアのスペックだけでなく、多くのテック企業がVRやARの未来について売り込む上でコンテンツを使っていた。キヤノン(Canon)は、複合現実ヘッドセットと関連ソフトウェアを披露するために、M・ナイト・シャマラン監督と提携した。シャマラン監督は、この技術を使って自分の映画の世界の中に視聴者を引き込もうとしている。
ソニー(Sony)は2月にVRヘッドセット「プレイステーションVR(Playstation VR)」の第二世代を発売するのに先立ち、英国のサッカーフランチャイズであるマンチェスター・シティ(Manchester City)と提携し、ファンがアバターとしてメタバース上で交流する新たな方法を開発した。一方、ホロライド(Holoride)はHTCとの提携により、1967年型キャデラック・デビルの後部座席に乗客を座らせるVR体験を披露した。
マーケターの話題は景気低迷の影響
一部の参加者は、野心的ではあるがまだ現実的ではない技術に関する長期的な盛り上げを狙った宣伝は少なく、代わりに多くの企業が短期的なソリューションに関連するイノベーションに焦点を当てていることに気づいた。VMLY&Rの最高イノベーション責任者であるブライアン・ヤマダ氏は、コンテンツ生成ツールに関する発表は、ARショッピングなどの技術の革新とともに、今年はより適しているように感じられたと述べた。しかし、ARの実際のユースケースはまだ明確にする必要があると述べた。
例年通り、企業が大仰な宣伝を行ったにもかかわらず、ブランドウォッチ(BrandWatch)のデータによると、CES全体ではソーシャルメディアでの人気は過去5年間で最も低かった。同社によると、CESがソーシャルメディアで言及された回数は29万回に過ぎず、これは2018年の120万回のうちの4分の1である。2021年の35万回、2022年の47万2000回よりもさらに少ない。
ショールームでは手にすることが出来ないけれども多くの人の話題を集めたトピックはもう一つあった。新しい技術を試して実験的な予算を承認するマーケターの意欲に、現在の経済状況がどんな影響を与えるか、というものだ。だからと言ってテクノロジーの導入が遅くなるわけではない、とヤマダ氏は言う。
「(マーケターたちの間で)少しためらいがあるかもしれない。それに、9カ月前のようなメタバースに乗り遅れることに対する恐怖は今は存在しない」と彼は付け加えた。「しかし、すべての技術はより良く、より速く、より安くなっている」。
プレミアムコンテンツへの投資を
一部のマーケターたちは、不確かな経済を自社製品の潜在的なセールスポイントと考えている。ブランドやメディア企業と提携してメタバース体験を開発しているインフィニティ・リアリティ(Infinite Reality)は、昨年秋の減速を予想していたにもかかわらず、現在の視聴者が分断された状況の中で、プレミアムコンテンツに注力し、それを同社の魅力の一部と捉えている。
同社の共同創業者で最高イノベーション責任者のエリオット・ジョーブ氏は、あらゆるものをメインストリームにしようとすることで実現不可能なものを追いかけるのではなく、適切な用途と適切なオーディエンスを一致させることが重要だと述べた。
インフィニティ・リアリティのCMOのホープ・フランク氏は、「顧客が誰であるかにかかわらず、彼らがこれまで実績をあげてきた従来の取り組みを活用し、テクノロジーの進化への対応が難しくならないようにしなくてはならない」と語る。「我々は没入感のある体験を生み出すにはブラウザベースが非常に重要であると考えているが同時に、顧客は完全な没入感のあるVR体験を求めている。そのため、並行して実行し、両方を提供する必要がある」。
プレミアムコンテンツへの投資が行われているにもかかわらず、メタバースがメインストリームで採用されることで、より多くのクリエイターがコンテンツを制作する必要があると考える人もいる。インフルエンサー・プラットフォームであるキャプティブ8(Captiv 8)の最高ブランド責任者であるメレディス・ロハス氏は、人々はTikTokのような短編動画プラットフォームよりもロブロックスのようなプラットフォームで長くエンゲージメントを維持していると述べた。
「誰もTikTokで30分間何かを見たいとは思わない」とロハスは語った。「パッケージ化したものを、どこにでも投稿できる、というわけではない」。
[原文:Content stays in focus at CES 2023 as it adapts to changing technology]
Marty Swant(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)