覆水盆に返らず。乾燥化した土地は元に戻らない。
気象災害といえば、熱波や干ばつ、豪雨や洪水、ハリケーンや台風といった一時的な災害が思い浮かびます。穏やかな天気が続いたあとに突然大雨が降って洪水が発生するインパクトはかなり強いですよね。
世界中で水害が激化している中、世界の陸地の大半が恒常的に乾燥しているそうですよ。
陸地の4分の3以上が乾燥化
国連砂漠化対処条約(UNCCD)の最新の報告書で、地球の陸地の4分の3以上が過去30年間で恒常的に乾燥化していることが明らかになりました。
1990年から2020年の間に、地球の土地の77.6%がそれ以前の30年間と比較してより乾燥した状態になったといいます。同期間に乾燥化した陸地は約430万平方キロ拡大しました。これは日本の面積の約11倍に相当します。
1990年には12億人が乾燥地に住んでいましたが、現在は23億人まで増加しています。さらに、最悪のシナリオによると、今世紀末までに乾燥地での生活を強いられる人口は最大50億人まで増え、枯渇した土壌や減少する水資源、かつて繁栄していた生態系の崩壊に直面する可能性があるとのこと。
乾燥地は、南極大陸を除く陸地の40.6%を覆っているそうです。また、乾燥度を示すレベルが悪化した陸地は7.6%で、多くの地域が湿潤地から乾燥地へと移行したため、農業や生態系、そして地域住民に深刻な打撃を加えています。
原因は温暖化と人間活動
報告書は、人為的な気候変動が乾燥化の主な原因と指摘しています。 発電や輸送、産業、土地利用の変化、その他の人間活動による温室効果ガスの排出による温暖化が、降雨量や陸地からの水分蒸発量、植生に影響を与え、より乾燥する条件を作り出しているといいます。
もしも国際社会が温室効果ガス排出量を削減できなければ、今世紀末までに世界の湿潤地域のさらに3%が乾燥地になると警告しています。
乾燥化の影響が特に顕著な地域は、ヨーロッパのほぼ全域(陸地の95.9%)、アメリカ西部の一部、ブラジル、東アジア、アフリカ中央部。逆にアメリカの中央部、アンゴラの大西洋岸、東南アジアの一部を含む陸地の22.4%は湿潤化したといいます。
影響を受ける人々
陸地の乾燥化の最も目に見える影響は、強制移住です。乾燥の深刻化による慢性的な水不足や、農業が崩壊して生活できなくなった人たちは、家族単位や、最悪の場合では地域社会丸ごとその土地を離れるしかなくなります。
報告書は、中東からアフリカ、南アジアに至るまで、すでに数百万人が移住を余儀なくされており、この傾向は今後数十年でさらに強くなると予測しています。
また、進行する乾燥化は、貧困や水不足、土地の劣化、食料不足を深刻化させ、世界的な病気と死亡率の増加につながっているそうです。最も影響を受けているのは、子どもと女性とのこと。
UNCCD事務局長のIbrahim Thiaw氏は、干ばつと乾燥化は深刻度が違うと指摘、次のように述べています。
「干ばつは一時的な雨不足ですが、乾燥は恒常的で不可逆な変化です。干ばつは終わりますが、ある地域の気候が乾燥化してしまうと、それ以前の状態に戻る能力は失われます。現在、地球上の広大な陸地に影響を与えている乾燥化が以前の状態に戻ることはありません。この変化は、地球上の生命を根本から変えつつあります。」
UNCCDの主任科学者であるBarron Orr氏も次のようにコメントしています。
「世界中の科学者が何十年にわたって温室効果ガス排出量の増加が温暖化の原因だと警告してきました。今回、国連の科学機関が初めて、化石燃料の燃焼が世界の大半で恒久的な乾燥を引き起こしていると警告しています。
乾燥化は水資源へのアクセスに壊滅的な影響を与え、人間と自然をさらに悲惨な転換点に近づける可能性があります。無策が招く結果はますます破滅的になり、もはや適応はオプションではなく必須です。」
乾燥化を止めるために
UNCCDは、陸地の乾燥化対策として、包括的な監視システムの強化と実践的な解決策の実施に重点を置いています。具体的には、乾燥度の指標と既存の干ばつモニタリングシステムを統合し、早期警戒システムを確立することを提唱しています。
また、持続可能な土地利用の促進、雨水の再利用や点滴灌漑などの水利用効率の向上、そしてアフリカのグレートグリーンウォールのような大規模な生態系復元プロジェクトの実施を推奨しています。
さらに、地域コミュニティのレジリエンスを高めるために、先住民や地域社会の参加を促し、土地利用権の保護や能力開発プログラムの提供を重視しています。こういった対策を国際的に展開するために、UNCCDの土地劣化中立性(LDN)の枠組みを活用し、各国の適応計画に乾燥化対策を組み込むことで、水資源と土地管理の課題への統一的な対応を目指しているといいます。
温暖化を止めるまで、人類は水多すぎ問題と水少な過ぎ問題に翻弄(ほんろう)されるのでしょうか…。
Source: UNCCD