家計を圧迫する物価高騰、背景に温暖化

「それインフレちゃう。温暖化や」ってこと?

近年、生活費の高騰が多くの家庭を圧迫しています。インフレばかりが取りあげられて、すっかり無視されがちですけど、物価高の背後には地球温暖化がそびえ立っています。猛暑や干ばつ、洪水といった温暖化によって激甚(げきじん)化する気象災害の影響が、家計を揺るがしています。

物価高騰に振り回される家計

アメリカのヴァージニア州リッチモンドに住むアンジェラ・ビショップさん一家は、現代の経済的苦境を象徴しています。4人の子供を抱えながら、日ごとに膨らんでいく生活費とたたかっています。学校給食が無料というわずかな救いはあるものの、食料品やガソリン光熱費衣料品など日常生活に欠かせない物やサービスの価格高騰は、彼女の家計を容赦なく圧迫しているといいます。

「価格が目の前で急騰しているのを目の当たりにしてきました」と語るビショップさんは、数年前にカリフォルニアから生活の改善を求めて引っ越してきたにもかかわらず、「このままではまたギリギリの生活に戻ってしまうのでは」という不安を抱えているそうです。

インフレの陰に潜む温暖化

アメリカの統計は衝撃的な事実を物語っています。2020年2月以降、消費者物価は21%以上も上昇しています。また、2022年にはインフレ率が40年ぶりとなる9%を記録しました。アメリカ国内のみならず、世界各国でインフレが生活の危機を引き起こしているのは、みなさんもご存じのとおりです。

新型コロナウイルスの余波、ウクライナ侵攻、燃料価格の高騰、各国の食料輸出禁止措置などが、この家計を揺るがす物価高騰の背景にあると考えられています。しかし、その根底に潜むラスボスは、目に見えにくい「温暖化」なのです。

St. Mary’s College of Marylandの経済学者であるAlla Semenova氏は、極端な気象現象も価格高騰の主な原因のひとつであるとした上で、「気候変動はインフレのパズルを解く上で重要な要素です」と指摘します。

2021年2月にテキサス州を凍らせて電力危機をもたらした冬の嵐ウリは、インフレを引き起こした気象災害の典型例といえます。各地で石油精製所が停止したため、プラスチックや消毒剤、肥料の生産に壊滅的な影響を与え、価格の急騰につながりました。

気象災害で食料品も高騰

農業も温暖化の直撃を受けています。2022年には、ミシシッピ川流域の干ばつによって農産物の輸送が滞ったため、家畜用飼料や穀物の価格が高騰したことが農業経営者のコスト増につながり、結果として肉や乳製品の価格が上昇しました。コスト増の多くは、消費者が払うことになります。

また、カリフォルニア州では、洪水によるレタス不足や、ハリケーンがもたらしたオレンジの供給減少など、極端な気象現象が食品価格をさらに押し上げています。

さらに、国連食糧農業機関(FAO)によると、西アフリカと中部アフリカでの干ばつの影響で、カカオの価格が約40%上昇しているそうです。その影響はチョコレートだけでなく、化粧品や健康補助食品などの価格にも及ぶ可能性があるといいます。

温暖化と気象災害の激甚化が進むにつれて、物価上昇がさらに大きな問題になると考えられます。2024年の研究によると、気候変動に起因する極端な暑さによって、過去30年間で121カ国のインフレ率を押し上げたといい、また、別の研究では世界的なインフレ率が2035年まで毎年1%上昇すると予測されています。

低所得世帯への負担

気候変動が引き起こすインフレは特に低所得層に重くのしかかります。国連貿易開発理事会のRodrigo Cárcamo-Díaz氏は、低所得世帯には「消費者物価指数以上の影響がある」と指摘します。

低所得世帯は、気候変動による商品価格の急激な上昇に最も脆弱(ぜいじゃく)で、賃金上昇が物価上昇に追いつかない構造的な問題に直面しているとのこと。「何を買おうかな」が「何が買えるかな」に変わっていくんですよね。

また、気温上昇による電力需要の増加や気象災害によるインフラ損壊は、電力料金のさらなる上昇を招く恐れがあるといいます。電力供給が不安定になることで、低所得世帯への影響が深刻化することが懸念されます。

Semenova氏は、今後予想される気候変動の影響について、次のように見通しを述べています。

気候変動による生活費の上昇やインフレの影響は今後も続き、アメリカの家計に重くのしかかるでしょう。かつてのように物価が安定していた時代は終わりを迎えました。気候変動によるコスト上昇が新しい日常になります。」

Source: Grist

Reference: Bankrate, Grist (1, 2, 3), Statista, State of Texas, U.S. Bureau of Labor Statistics, CBS, CNBC, Kotz et al. 2024 / Nature Communications Earth & Environment, Scientific American, Mosquera-López et al. 2024 / Energy Economics

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