保険会社トップ射殺事件の被疑者は現代アメリカの“悪夢”なのか

アメリカンドリームの先にあるものがこんな末路だとしたら、やり切れない…。

大手保険会社United Healthcare社トップ殺害事件でルイジ・マンジョーネ被告(写真右)が高額医療にあえぐアメリカ人の間で広く共感を呼んで一躍社会現象となるなか、亡くなったブライアン・トンプソンCEO(写真左)の人生に光を当てる報道も地味ながら出てきました。

農村から医療保険トップにのし上がった立身出世の人

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Video: Law&Crime Network/YouTube

殺されたブライアン・トンプソンCEO(50)の故郷はアイオワ州の人口わずか1,216人のJewell(ジュエル)村。

穀物倉庫で働く父親と美容師の母親の間に生まれ、冬は雪遊び、夏は七面鳥農家や養豚場の草取りや力仕事のバイトをして育ちました。

ゴルフ好きで、友だちのお父さんが会員のゴルフ場に、息子の振りをして入ったのがいい思い出。ゴルフ場付きのリゾート開発を手掛けるルイジ被告の実家とは、天と地ほども違う家庭環境です。

良家の子息が集まるプレップスクールを首席で卒業したルイジ被告と同じように、高校を首席で卒業(卒業生は60人ですが)。その後はアイオワ大で会計学を学んで、また首席で卒業

大手会計事務所PwCを経て2004年、ミネアポリスに本社のあるUnitedHealthグループに就職して勤続20年。医療保険会社UnitedHealthcareのトップに登りつめた、生え抜きの人でした。夫人とは別居中、2人の息子さんがいます。ちなみに年棒は1020万ドル(約15億7000万円)。

言うなればブライアン・トンプソンCEOは“アメリカンドリーム”を生きた人であり、裕福な名家に生まれて殺人犯に身をやつしたルイジ・マンジョーネは“アメリカの悪夢”を体現した人だ。

英紙The Telegraphは犯人の神格化に疑問を呈しています。

ただ「貧しい人を搾取する資本家を諫めたと左翼は喜んでいるが、まるで正反対だ」という論説の部分については「医療費地獄に左翼も右翼もない」といった反発のコメントも多く寄せられています。

事実、大統領選で真っ二つに分断したアメリカが、こと医療保険地獄については珍しくひとつになっていますもんね…。ネットはどこを見ても「入院中に保険が打ち切られた」とか「保険会社と争うのに疲れて開業医やめた」といったホラーストーリーのオンパレード。こうした状況を踏まえて英紙The Guardianなどは

・犯人を神格化する輩を諫めるのは保守系ニュースFOXぐらいで、TikTok、インスタ、Xには右派も左派もなく犯人をイタリア系の兄貴と慕うミームで溢れ返っている。

・TV司会者が逮捕の報を伝えるとスタジオでブーイングが湧き起こっていた。

・これだけの一体感はビン・ラディン暗殺以来のことではないか。

とまとめています。

ネットから「CEO」の3文字が消えていく…

事件後、現場にはルイジ・マンジョーネ(マンジョー二とも)を救世主に見立てたポスターが現れ、ニューヨークの街には「次の標的」を匂わせるビラが保険会社CEOたちの実名と顔写真入りであちこちに貼り出されて、当局は剥がすのに大わらわでした。

不穏な空気を警戒し、大手医療保険会社のセンティーンはニューヨーク株式市場で予定された株主総会をバーチャルに切り替えましたし、ほかの保険各社も公式サイトから役員の写真を削除しまくっています。

店員からの通報で逮捕となった舞台のマクドナルドの店舗には1つ星レビューが殺到。フライからラット(英語でチクリ屋の意)が出てくる加工写真が投稿され、「厨房がネズミだらけ」といった酷評の嵐となり、Google(グーグル)が全部削除したって話(実際は店からの通報を待つまでもなく、行方不明者に酷似しているとサンフランシスコ市警が親族に連絡しFBIがもう動いていたようですが…)。

ネットには被告のファンクラブができて、Amazonはルイジ推し活グッズを規約違反で削除無規制で放置のeBayには「Free Luigi(ルイジを釈放せよ)」のシールやシャツ、マグが所狭しと並んでいて、本当に異様な空気です。

事件とその後のリアクションの衝撃はあらゆる業種に波及中で、世の社長さんたちはLinkedInのプロフィールから「CEO」の肩書きを大慌てで削除しているって噂ですし、NYなどでは身の危険を感じるエグゼクティブのために「CEO暗殺対策ホットライン」を設けることも真剣に話し合われています。

類似の事件が続くことだけは避けたいところなのですが…。

Source: MSN

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