脳を乗っ取って寄生する恐ろしいヤツ!
アリを洗脳して思い通りにコントロールさせる寄生虫の幼虫が、考えられていた以上に賢い可能性があることが最新の研究でわかりました。
この幼虫は、アリに葉の上に登るように命令したり、気温が高くなって暑くなると下りるように仕向けられることも判明しました。さらには、アリよりももっと大きな生き物にアリをわざと食べさせて、そちらに寄生するという、自分の生活サイクルを継続させるための恐ろしい策略で生きていることもわかったそうです。
この策士な寄生虫は、槍形吸虫(Dicrocoelium dendriticum)という名前。寄生虫の成体としては牛や他の草食反芻動物に寄生して生活していますが、そこに到達するまでに長い旅をしているようです。
どうやって寄生する?
まず、牛の体内に入っている寄生虫の卵がウンチと一緒に出されて、それが草に乗っかります。
次にそれがカタツムリに食べられます。卵はカタツムリの体内で幼虫になり、無性生殖によって何千もの個体を増殖します。
カタツムリは異物が入るとその周りに硬い嚢を形成し、粘液玉として吐き出します。そして粘液玉が幼虫と一緒にアリに食べられるのです。
1匹だけが脳へ操縦しに行く
さて、一旦アリの中に入ったら、幼虫は次の生活段階に入ります。
ほとんどの幼虫は安全にアリの胃に移動して包まれた状態になりますが、1匹だけはアリの脳に向かい、脳を乗っ取ります。
この幼虫に感染してしまったアリは近くの草の葉っぱの頂上に登り、そこから動かないように強制されます。そうして、牛などの放し飼いの反芻動物がそのアリを偶然食べてしまう機会を待たせるのです。
こうして3回もわざと食べられて寄生しては、最後の宿主の内部で最終的に成熟し、肝臓に移動し、餌を食べ、交尾し、この策略的で恐ろしいサイクルを再開するために卵を産みます。ちなみに脳を1人で乗っ取った幼虫は、胃に残っている仲間のために先に死んでしまいます。
槍形吸虫の基本的な生活サイクルの詳細はすでに知られていますが、この複雑なプロセスについては理解されていません。そこでコペンハーゲン大学植物・環境科学部の研究チームが、より詳細に調査することになりました。
まず、デンマークのビドストラップの森で、1年の間に13日、1,000を超える寄生されているアリを綿密に観察。そしてより詳細な観察のために172匹のアリにタグを付けました。
研究チームは、脳を乗っ取られているアリの行動に湿度や時間など、いくつかの要因が影響を与える可能性があると仮説を立てていました。
しかし、最も影響を与える要因があったのは気温でした。比較的涼しい日には、アリはほぼ1日中草の上に動かないように寄生虫にコントロールされていました。しかし、気温が上がってくると、アリは下りて通常の行動を取ったのです。これはアリが特に夜と朝に操られていることを意味しています。
脳をどう乗っ取っているかはまだ不明
研究の著者であるコペンハーゲン大学の准教授Brian Lund Fredensborg氏は、このようにコメントしています。
「涼しい朝や夕方に家畜や鹿が草を食べるので、アリを草の高い場所に動かして、暑い太陽を避けるという戦略は非常に賢いといえます。
私たちの発見は、最初に考えていたよりも寄生虫は賢いことを明らかにしています。私たちはアリのゾンビスイッチを見つけてしまったね、と冗談で言い合っています」
先月、Behavioral Ecology誌に発表されたこの研究結果で、一般的な寄生虫についてまだ私たちが知らないことが多いと研究チームは述べています。そしてこの槍形吸虫がアリを洗脳するために具体的にどのようなメカニズムを使用しているかを解明するには、さらなる研究が必要です。
これが人間の脳に入ってきたらとゾッとしてしまいますが、人間はゾンビ化しないとのことなので安心してください。でも、人間がこの寄生虫に感染することはレアケースですが、たまにあるそうです。感染した場合は肝臓や胆管に重大な害を与えることがあります。