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オンラインの食料品・料理の配達企業であるハングリールート(Hungryroot)は、AI(人工知能)に顧客の次の食事を選ばせている。
同社では、顧客が購入するものの70%はAIが選んでいる。同社は、2019年にオンラインの食料品サブスクリプションサービスとしてリブランディングして以来、AIを活用して顧客の注文をパーソナライズしている。600のSKU(在庫管理単位)を持つ同社は、食料品とレシピの膨大なセレクションを提供している。
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AIやChatGPT(チャットジーピーティー)のようなAIツールは、この数カ月でコストや時間を大きく節約できる可能性から、ニュースの話題を独占してきた。ハングリールートの場合、AIによってパーソナライズされたショッピング体験を大規模に提供することが可能になった。料理キットやオンライン食料品分野の競合他社が存続のために苦闘している一方で、同社は、それによって2022年度の収益が前年比50%増の2億5000万ドル(約358億円)に成長した。
ハングリールートの最高デジタル責任者を務めるアレックス・ウェインスタイン氏は次のように語る。「AIは現在、当社の収益の70%を生み出しており、数億ドルの売上に直接関与している。当社は顧客から、家族の食事プランを考えるのに何時間もかかり、食事制限があったり好き嫌いのある人がいたりする場合はさらに面倒になるという声をいつも耳にしている」。同社は第1四半期の収益が前年比84%増の9300万ドル(約133億円)に達した。
顧客の好みを特定する20の質問
現在のハングリールートは、健康的な食事を計画するための苦労をなくすため2019年に創業された。2015年の立ち上げ当初は、ソースや野菜ベースの麺類など6つのSKUを扱う消費者向けパッケージ商品企業だった。同社では、野菜や果物、調味料、パンなどの一般的な食料品も購入できる。同社が提供しているレシピには、レモングラスと豆腐のカレーライス、生姜焼きサーモンスーパーグレイン、クラシックなチリレモンのチキンタコスなどがある。
買い物客は、ハングリールートのアカウントを登録してすぐに、約20の質問に回答する必要がある。同社はそれによって顧客の食事の好みを特定する。その後、質問への回答に応じて食料品とレシピをカートいっぱいに作り、買い物客はそのカートを編集して希望通りのものを手に入れることができる。また同社は、ボックスが届いた後、顧客が受け取ったレシピや食料品を顧客が気に入ったかどうか繰り返し質問をする。
同社は顧客が登録するとき、食品アレルギーや、健康上の目標、料理の好みについて質問する。顧客からデータを取得することで、顧客の食料品予算の多くの部分を同社が占めるようになったと、ウェインスタイン氏は述べる。同社の平均購入単価は125ドル(約1万7900円)だ。
ウェインスタイン氏によると、同社は、顧客が食事についての情報を共有することは、顧客自身にとって有益であることを明確にしている。「コミュニケーションをわかりやすくし、顧客に当社のインセンティブを理解してもらうことを大切にしている。当社のメッセージングや質問を見れば、我々が何をしているのか、なぜこれらの質問をするのかを理解できるよう、当社がきわめて率直に明かしていることがわかるだろう」と、同氏は述べた。
55人のスタッフで内製化
ハングリールートが顧客から得たデータは、正確な提案をするのに役立つだけでなく、どのレシピや食品を追加するべきかの参考にもなっている。たとえば同社は、顧客が子ども向けの食品を別の小売店で購入していることを知り、子どもや乳幼児向け商品にも取り扱い範囲を拡大することを決定した。
SKUの種類が豊富な小売企業やマーケットプレイスにはAIが本当に役立つと、データコンサルタンシー企業のディーエーエスフォーティートゥー(DAS42)のCEO兼最高コンサルティング責任者を務めるニック・アマービレ氏は語る。AIは関連商品を消費者に提示するためにも役立つと同氏は付け加えた。
同氏は次のように述べている。「精度は、モデルの訓練方法と開発方法に依存する。AIを実際の運用で使用する際は、その前に信頼できる正確なデータをしっかりと集めることが非常に重要だ」。
ハングリールートのAIに関する作業はすべて社内で行っており、同社にとって競合上の優位点であると、ウェインスタイン氏は語る。同社のAI能力のため作業しているデジタルチームは、約55人の従業員で構成されている。
「何かにおいて世界一になるためには、外注してはならないというのが我々の信念だ。これは我々にとって非常に核心的な信念だ」。
顧客理解のために
同社はすでにAIをビジネスに組み込んでいるが、ウェインスタイン氏は、ChatGPTのような自然言語処理ツールの出現により、顧客体験を改善できる可能性があると語る。同社は現在、こうしたツールを自社の業務に導入するための方法を探求しはじめていると、同氏は付け加えた。
「当社は、データによって顧客をより的確に理解することにあらゆる努力を傾けている。何年にもわたってそれを目標に進んできたが、まだまだ行うべきことは多く、生み出すべき価値も多く存在する」と、同氏は述べた。
[原文:How AI meal recommendations made Hungryroot a $250 million business]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Hungryroot