何かをヒットさせるには、ただ作品や商品のクオリティを上げるだけではなく、流行やトレンドに合わせていく必要があります。しかし、流行やトレンドはハッキリと見えにくいという問題のほか、ただ流行に乗っかるだけだとすぐに飽きられてしまうケースもあります。アメリカの月刊誌The Atlanticは、ランダムに見える「何が人気になるか」という傾向のパターンと、流行が生まれる背後にある科学をムービーで解説しています。
The Secret Science Behind What Makes Things Cool – The Atlantic
https://www.theatlantic.com/video/index/528831/what-makes-things-cool/
What Makes Things Cool? – YouTube
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The Atlanticの上級編集者であるデレク・トンプソン氏は、フランス出身のデザイナーで工業系デザインの先駆者とされるレイモンド・ローウィ氏のデザインと哲学を例に挙げ、「人気になるものは何か」について解説しています。
ローウィ氏はコカ・コーラのビンのデザインに携わったとされている他、多数のクラシックカーやタバコのラッキーストライク、不二家の社章やパッケージデザイン、航空機や蒸気機関車のデザインも手掛けています。
かなり多岐にわたってデザインを生んでいたローウィ氏ですが、そこには一貫した普遍的な理論があったそうです。それは、「最先端でありながら、受け入れられるもの(Most Advanced Yet Acceptavle)」で、頭文字をとって「MAYAの法則」と呼ばれています。人々はトレンディでいたいと願っていますが、かといって奇抜であることを望んでいません。そのため、MAYAの法則とは、「驚くべきものを売るには、それを親しみやすくすること」というローウィ氏の考えが表されています。
例えば、1932年にローウィ氏はペンシルベニア鉄道に列車の設計を提出しました。当初のデザインは弾丸のような滑らかで細長い形をしたもので、従来のものと大きく異なるため、そのデザインは懐疑的に受け止められたそうです。そこでローウィ氏は、まず少しだけ従来のデザインから発展させたものを提案し、その後段々と先進的なものに発展させていき、最終的にオリジナルのバージョンを導入することで、先進的なデザインでも受け入れられると鉄道会社の幹部を説得しました。
このように、ローウィ氏によるMAYAの法則は「驚きを身近なものに感じさせる」という効果がありました。MAYAの法則は科学的にも裏付けられており、1960年台に心理学者のロバート・ザイアンス氏が提唱した単純接触効果(ザイオン効果)は、「心理学の歴史の中で最も確実な発見の1つ」であるとトンプソン氏は述べています。
単純接触効果とは、「特定の刺激に繰り返しさらされることで、刺激に対する態度の変化が生じる」というもの。ザイアンス氏が行った実験では、ランダムな形や文字を被験者に見せ、お気に入りのものを選ぶように求めました。結果として被験者は、見慣れない漢字や存在しない英単語を選ぶケースは少なく、見慣れた図形や単語を選択したそうです。
総じて、露出は親しみやすさにつながり、親しみやすさは潜在意識の好みにつながると考えられます。この考えは、ヒトの心理メカニズムは進化の過程で培った生物学的適応であると仮定したアプローチを行う進化心理学の観点からも説明されているとのこと。トンプソン氏はこれを「狩猟採集民だったころ、見慣れない土地をさまよっている時、見慣れた植物や動物を見つけた場合、生存率は上がったはずです」と説明しています。
MAYAの法則によると、人々は「親しみやすさ」に引き寄せられるということになります。トンプソン氏はさらに高度な側面として、心理学における「習慣化」の考え方に触れています。人々は親しみやすさを好む一方で、それに直面する事を強いられていると感じると、同じものを繰り返し見ている「飽き」の方が強くなってしまいます。そのため、「親しみやすさ」の力とは、人がまったく期待していないときに最も強くなると考えられます。分かりやすい例としてトンプソン氏は、音楽ストリーミングアプリのSpotifyの機能を挙げています。Spotifyは毎週月曜日に30曲の新しい曲からなるパーソナライズされたプレイリストを配信する「Discover Weekly」という機能を提供していました。
しかし、アルゴリズムのバグにより、「Discover Weekly」のプレイリストに、ユーザーが以前に聞いたことのある曲が誤って含まれるようになっていました。エンジニアは完全に新規の曲のみが含まれるようにバグを修正しましたが、すると結果として、「Discover Weekly」機能を使用するユーザーは激減したとのこと。これによりSpotifyは「ユーザーが新しい曲を好む、あるいは信頼するのは、知っている曲を踏まえた上で新しい曲に出会った時である」ということに気づいたそうです。
ローウィ氏が最後に携わった大きなデザインに、アメリカが初めて打ち上げた宇宙ステーションであるNASAのスカイラブにおける内部設計があります。ローウィ氏はステーション内にシャワーやダイニングなど快適な設備を追加した他、最も独創的なアイデアと呼ばれるものとして、地球を眺めることができる小さな窓を追加しています。トンプソン氏はこれを、「新しい世界への窓は、自分の家を示すこともあるという、MAYAの法則を完璧に表現したものです」と語っています。
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