「完全なリサイクルはできない」というリチウムイオン電池のリサイクル事業に新興企業が続々と参入している

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スマートフォンやノートPCなど身近な電子機器の多くに内蔵されているリチウムイオン電池ですが、従来の方法ではリサイクルや廃棄処理に高いコストがかかり、内包されている有用な物質をすべて回収できないという欠点が存在します。そんなリチウムイオン電池のリサイクル事業に新しい手法で携わろうとする企業が続々と誕生していることが、クリーンエネルギー問題を取り上げるメディア「Canary Media」により伝えられています。

EV battery recycling is costly. These five startups… | Canary Media
https://www.canarymedia.com/articles/electric-vehicles/ev-battery-recycling-is-costly-these-five-startups-could-change-that

小型家電から電気自動車にまで搭載されるようになったリチウムイオン電池には、一部地域で埋立地に捨てることが禁止されている物質が含まれており、適切な処理を行わないと発火してしまう危険性も備えています。これまでは、電池を炉に入れて熱処理を行い、残ったニッケルやコバルトといった有用な物質を回収する「乾式製錬」、電池を細かく砕いてから科学的手法で有用な物質を回収する「湿式製錬」という2つの主な手法がとられてきましたが、これらはコストがかかり、必要な物質をすべて回収できないという欠点があります。

しかし近年、よりクリーンで効率的なリサイクル技術を商業化し、前例のない規模でリチウムイオン電池の専用リサイクル工場を建設する新興企業が続々と登場しているとのこと。創業者の多くはかつて電池製造に携わった経験を活かし、電池リサイクルを収益化するチャンスと感じた投資家たちから多額の資金を調達しているといいます。


Li-Cycleという企業は、多くの企業がニッケルとコバルトのみを回収して残りの物質を廃棄していることに目をつけ、廃棄過程で手に入る金属の売却を実施。リチウムイオン電池をシュレッダーにかけ、アルミニウム、銅、プラスチックなどを選別し、リサイクルすることを検討しています。Li-Cycleの考え方は「回収した電池の多くをゴミにして、なぜリサイクルが儲からないのかと考えるのではなく、すべてを取り出す」というものだそうです。

Ascend Elementsという企業は、従来の湿式製錬法を応用して「Hydro-to-Cathode」と呼ばれるプロセスを開発しました。これは電池を細断して溶液の中に入れ、金属を一つ一つ取り出すのではなく、液体から不純物を抽出し、価値の高い正極の成分だけを純粋な原子の状態で残すプロセスだとのこと。このプロセスでは、地中から新鉱石を採掘して精製するよりも安価な電池材料が得られるとのことで、アメリカのアルゴンヌ国立研究所から、「リサイクル素材は市販の同等品を上回る」というお墨付きを得られています。

Canary Mediaは「正極のリサイクルは環境負荷の軽減という点で大きなメリットがあります。炭素を大量に消費する採掘や輸送を避けることができ、リサイクルプロセス自体もクリーンな電気で稼働させることができるのです」と述べました。

一方で、リサイクルシステムの根本から改善を図ろうとする企業も登場しています。テスラの共同創業者であるJ.B.Straubel氏が率いるRedwood Materialsは、「古い電池は通常、残存エネルギーが蓄えられた状態でリサイクル施設に運ばれ、時間とお金をかけてバッテリーの電荷を抜き、安全に材料を取り出すことができるようにしている」という点に着目。そこで、蓄積された電気を熱に変換して、古い電池から電解液を抽出する低温焼成プロセスを考案しました。

Redwood Materialsによると、このプロセスと独自の湿式精錬技術により、電池材料の95パーセント以上を除去することができるとのこと。同社はこれらの材料を「バッテリー中間体」と呼ばれる新しい電池の製造に使われる金属に変えてい販売していますが、今後はバッテリー中間体を自社で処理して電池の材料を製造することも計画していると話しています。


また、輸送に特に気を遣わなくてはならないリチウムイオン電池を安全に運ぶため、液体冷却式カーボンファイバー製梱包材を設計する企業も現れています。これはNASAに提供され、宇宙飛行士が宇宙空間で火災の心配なく安全にリチウムイオン電池を保管できるようにしているとのことで、今後商業用にも展開されることが期待されています。

Canary Mediaは「リチウムイオン電池のリサイクルをより効率的でクリーン、かつ収益性の高いものにしている新進気鋭の新興企業の努力が成功すれば、電気自動車などの革命に向けた世界の流れに貢献することになるでしょう」と述べました。

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