Twitter共同創設者であり長くCEOも務めたジャック・ドーシー氏。彼がTwitterを去り、新たに始めたSNSがBluesky。Twitterでの自身の過ちを取り返すかのように、ドーシー氏が改めて思うSNSのあるべき姿を体現する存在となっています。今のところは。
イーロン・マスク氏によるTwitter買収後、一部ユーザーはBlueskyに流れてきており、現在まだ招待制フェーズではあるものの、招待コードがネットオークションで高値で取引されるなど注目度が高いプラットフォームです。
エンジニアがライブ配信でユーザーとコミュニケーションしながらプログラムを書くなんてイベントもあり、新時代のSNSという印象が非常に強い! そんなBlueskyの中の人に米Gizmodoがインタビューを行いました。
応じてくれたのは、Blueskyのプロダクトデベロッパー兼プロトコルエンジニアのPaul Frazee氏。まさに先日、コード描きながらライブ配信をしていた人物で、今現在、ユーザー目線ではBlueskyの顔と言ってもいい人です。
以下、米GizmodoによるPaul Frazee氏のインタビューを翻訳しました。
カスタムアルゴリズムという考えについて
米Gizmodo編集部(以下、米Giz):カスタムアルゴリズムというアイディアはどこからきたものですか? Blueskyの分散型精神を現実化したものがこれという印象ですが、どうでしょうか?
(訳注:カスタムアルゴリズム:SNSに表示するコンテンツを組み立てるアルゴリズムをユーザーがカスタムできるしくみ。関連記事)
Paul Frazee氏(以下、Frazee氏):そうですね。Blueskyの分散型精神を現実化するメジャーな要素という認識であっています。チームとしては、試作品開発のかなり早い段階からカスタムアルゴリズムでいこうと思っていました。
認証連携やホスティングを通して分散型をするのはとても面白いことなのですが、ユーザーにとってはあまり利点がない場合が多いと思います。なので、ソーシャルメディアの実際の使用体験を変えるため、どの部分を実際に分散型にすべきかというのを早い段階から模索しはじめました。
アルゴリズムを選べるというのは新しいアイディアではありませんが、僕たちは早くからやろうとはしていましたね。こういうことができること自体が分散型のいい例になっているとも思います。
米Giz:カスタムフィード・アルゴリズムの仕組みは? すでに初期版が公開されていますが、そのテストはどんな調子ですか?
Frazee氏:テストはとても順調です。(カスタムの)今の仕組みは、長期的に見てもやっていける基本的なものです。時間とともに複雑にはなっていくと思いますが、どう動くべきかというコンセプトは同じです。
私たちには「サードパーティはファーストパーティである」というモットーがあります。なので、サードパーティのサービスが自然にアプリケーションの一部となれるよう考えています。
カスタムフィードの大部分は、我々のサービスとは離れ、誰かのインフラ上にあるもの。我々はそのサーバーに呼びかけ、そのインフラでフィードを表示するということです。このやり方を他のケースでもいろいろ使って行きたいと考えており、アルゴリズムはその第一弾にすぎません。
Twitterはじめ他のSNSとの違いについて
米Giz:Blueskyのカスタマイズアルゴリズムは、Twitterのそれとはどう違うと考えていますか?
Frazee氏:最大の違いは、ほとんどのソーシャルメディア企業がユーザーの行動から好みを読み解こうとしていることに対し、我々はオープンマーケットという選択肢を提供しているということにあります。
アルゴリズムをどうトレーニングすべきかとは真逆で、エンドユーザーはより直接的に関わることができます。アルゴリズムが直感的に出した「ユーザーが求めるだろうもの」が大正解のときもあれば、アルゴリズムを欺くために何か見なくちゃなんて思っちゃうユーザーもいるので、これには賛否両論あります。
例えば、「しまったー!砂でお城を作る動画を長く見ちゃったから、これ系が好きと思われてこればっかになっちゃう!」なんて思うことありませんか。1つ見ちゃったらこの好みをアルゴリズムに刻まれてしまったかも、と不安に思うユーザーがいるんですね。
我々は、(アルゴリズムを)選択できるから面白いだけでなく、完全に開けた市場があるからこそアルゴリズムがどうあるべきか、という新しいアイディアが時間とともに生まれてくると思います。
米Giz:Blueskyはどうやって他のSNSよりもフィードの有害性を減らしていくのでしょうか?
Frazee氏:私としては、カスタムアルゴリズムが根本的に有害なものを減らしていくと思いたいのですが、必ずそうなるとは残念ながら思ってはいません。なるかもしれないし、ならないかもしれない。そこはまだわかりません。
ただ、ユーザーがアルゴリズムの上に好きなフィルターを重ねることができるというオープンな方法が、有害なものを減らすきっかけになるとは思っています。ユーザーがその時どういうものにチューニングしたいか、そのコントロールがユーザーにあるということですからね。
Blueskyの勝機、イノベーションとは
米Giz:Twitterが衰退し続ける今、イノベーションの機会を感じますか? 現状、(SNS)業界では大木が倒れたという雰囲気があると思いますけど。
Frazee氏:Twitterが前と同じ状態にあったとしても、イノベーションの余地はあると思います。ただ、以前よりも他の選択肢に目が向けられている状況だというのは嬉しいですね。こうなるとは思っていなかったので。
「さて、Twitterよりもいい体験を作るにはどうすればいいか?」と話しあった結果、真のチャンスは根本的によりポジティブな体験を作ることだということにあるということになりました。欲しいものをもっと出す。欲しくないもの、感情のカオスは減らす。それがより心地よい体験であり、私によって最も興味深いことですね。
ソーシャルメディアはラブでありヘイトであるヘンテコなものです。大好きと思った次の瞬間には、最悪なものになっちゃったり、普通程度に好きくらいになっちゃったり。こういうのを見ると、構造が根本的に不健康なのではと思います。
なので、私たちができるイノベーションは、人々をよりハッピーにすること、より人を繋げて調和ある体験をしてもらうことにつながる必要があって、それはそのまま目標でもあります。
米Giz:カスタムアルゴリズム以外でBlueskyにとってイノベーションとなることは? Twitter難民以外でプラットフォーム成長の鍵となる要素は何がありますか?
Frazee氏:より多様なソーシャル使用ケースに対応できるテクノロジーにはチャンスがあると思います。ただ、まだテストしていない理論なのでハッキリとは言えないのですが。
例えば、FacebookやInstagramでの使用ケース全域をやってみるのもいいし、ポッドキャストやDMもありです。既存の機能すべてを1つの共有システムに詰める、そしてそのシステムはIDや評判(プラットフォームでの人気)を別のソーシャルプラットフォームに簡単に移行することもできる。それはとても強く、魅力的なアイディアですね。
他のプラットフォームがやっていることと真逆のことをするというのも興味深いチャンスだと思いますし、オープンな場ということでいろいろなことができると思っています。
Twitterがみんなのための場所だったことはないと思います。Twitterが好きな人は有害なコンテンツは好きではない。となればプラットフォーム=我々のプロダクトを好きだと言ってくれる人によりよいサービスにしたいですよね。
使ったり離れたりする人たちに対しては、なにが足りないのかを見つけ、彼らが楽しめる場も作りたいです。マイクロブログという公なパフォーマンスは、もしかしたら全ての人が好むものではないのかもしれません。そういう人は、DMやプライベートなグループの方がいいかもしれません。そのいろいろな人、いろいろな使い方を1つに集結できないことはありません。
昨今話題のテーマについて
米Giz:最後の質問です。米Gizmodoのインタビューでは、最後に今ホットな5つのテーマ(AIチャットbot、仮想通貨、ドローン、ポルトガル、失敗容認論)について、今の状況をどう思うか聞いています。それぞれのテーマにおいて、現状は「騒ぎすぎ」「適切」「もっと注目されるべき」のどれだと思います?
Frazee氏:<AIチャットbot>適切な盛り上がりだと思います。
少し前はできなかったことが、今は明らかにできるようになっていますし、今使えるケースも提示していると思います。今後もできることを増やし続けていくでしょうから、今の盛り上がりは適切だと思います。
<仮想通貨>数年前なら、騒ぎすぎだと答えたと思いますが、現状は適切。
仮想通貨の問題は、計ることができないこと。手数料が高過ぎたり、一部ネットワークでは決済完了まで時間がかかりすぎたりで、支払いのメカニズムとしては機能できていません。もしその問題がなくても、ユーザーエクスペリエンスの問題があります。他の支払いシステムと肩を並べられる価格帯でなければ、その技術は使えないも同じです。
<ドローン>ドローンはあまり興味ないんです。
<ポルトガル(デジタルノマドビザについて)>これもそんなに詳しくないのですが、仮想通貨と密接な関係にあるのかなと思っています。まぁ、よく知らないんですけどね。
<失敗容認論>失敗を恐れない、ありのままを受け入れるというこの考えの問題点は、失敗を容認することをゴールと捉えてしまいがちだということ。あくまでも、大切なのは失敗から学ぶことなんです。
僕はプロジェクトの事後検証をして、何を学んだかを公にします。失敗から何を学んだかを明確にし、同じ間違いを繰り返さないことに注力するタイプです。失敗から学ぶには、他の人の批評に耳を傾けることも大切です。失敗から学ぶのも大切ですが、そもそも成功という目標ビジョンのないプロジェクトは、自分自身はもちろんチームの時間も無駄にしてしまいます。失敗を容認するとは、個人としてより効率的になるための術だと思っています。