ナイキ がD2Cシフトから一転、卸売パートナーとの関係を復活させる

DIGIDAY

こちらは、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です
※モダンリテール[日本版]は、DIGIDAY[日本版]内のバーティカルサイトです

ナイキ(Nike)は、数年前に断ち切った店舗や販売業者との卸売関係を復活させつつある。

靴・アクセサリーの企画製造販売を手がけるデザイナーブランズ(Designer Brands)のCEOダグ・ハウ氏は、同社が所有する靴小売チェーンであり、ナイキが2021年に取引から撤退したデザイナーシューウエアハウス(Designer Shoe Warehouse、DSW)が、10月に小売パートナーシップを再開すると、6月8日木曜日の決算発表で明かした。DSWはナイキのさまざまな商品(メンズ、ウィメンズ、キッズ)を実店舗とデジタルチャネルで販売する。

ハウ氏は米モダンリテールに宛てたメールの声明で次のように語った。「我々は、自社のナショナルブランド戦略と小売業の顧客にもっとも関連性の高い最大のブランドとの強力なパートナーシップ育成に力を注いでいく」。また、「ナイキは間違いなくこのようなブランドのひとつだ。このような巨大なブランド資産を持つナイキの商品を顧客に提供できることを嬉しく思う。ナイキの商品はDSWデザイナーショーウェアハウスの店舗に加えて、第4四半期にはオンラインで全国販売される予定だ。これは、極めて重要なアスレジャーカテゴリーにおける当社のブランドポートフォリオに加わることになる」という。

小売業者とのパートナーシップ復活

2017年に発表された「転換」に基づき、ナイキはD2C(消費者への直接販売)に集中するため、小売パートナーの数を大幅に削減した。2021年9月の時点で、同社は小売パートナーの「約50%との関係を打ち切った」と、同社の財務責任者を務めるマシュー・フレンド氏は当時語った。関係を打ち切られたパートナーには、ビッグファイブスポーティンググッズ(Big 5 Sporting Goods)、ダンハムズスポーツ(Dunham’s Sports)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ディラーズ(Dillard’s)、ザッポス(Zappos)が含まれる。ナイキはフットロッカー(Foot Locker)やディックススポーティンググッズ(Dick’s Sporting Goods)など、いくつかの大手企業との関係は維持した。しかし2022年2月、フットロッカーは、ナイキがD2Cに注力し続けることによって、同社におけるナイキ商品の在庫は「有意に減少するだろう」と語った

現在、ナイキはこれらの決定のいくつかを覆そうとしているようだ。メイシーズ(Macy’s)のCEOを務めるジェフリー・ジェネット氏は6月1日木曜日の決算発表で、10月からナイキのアパレル商品の販売を、メイシーズの実店舗とウェブサイトで再開すると発表した。ナイキは2021年にメイシーズとのパートナーシップを終了したが、両社はフィニッシュライン(Finish Line)パートナーシップを維持していた。今回のパートナーシップ再開により、メイシーズが扱うナイキ商品の数量は劇的に増加する。

ジェネット氏は、「これは、アパレル商品の品揃えのバランスにおいて、ほかの商品の売上とのカニバリゼーションが発生することなく、大きな変革をもたらすきっかけになると信じている」と決算発表で述べた。「これは、当社にとって有利であり、ナイキにとっても有利な提携だと考えている」。

マルチブランド体験への需要

ナイキは、フットロッカーとの関係も進展させようとしている。フットロッカーのCEOを務めるメアリー・ディロン氏は3月、ナイキとの関係を「一新」すると言及した。同氏は5月の決算発表で、フットロッカーとナイキのチームがポートランドに集まり、「2024年の当社のナイキ事業を成長路線に戻す計画を立てる」と述べた。「また、データの共有、共通の顧客や市場での需要創出に関するより強力な共同能力の構築についても、密接に連携している」と、同氏は付け加えた。

ナイキのダイレクト事業は、ウェブサイト、アプリ、店舗などのD2Cチャネルとともに、大幅な成長を実現してきた。2023年2月末までの会計年度第3四半期で、ダイレクト販売の売上高が前年同期比17%増の53億ドル(約7370億円)に達した。

しかし、「ナイキは、自社の事業をD2Cによって推進する能力があっても、小売チャネルから撤退したことで顧客の一部を失い、競合他社が有利になったことに気づいたのだろう」と、グローバルデータリテール(GlobalData Retail)のマネージングディレクターを務めるニール・サンダース氏は米モダンリテールに語った。

ウェドブッシュセキュリティーズ(Wedbush Securities)のイクイティ調査担当シニアバイスプレジデントを務めるトム・ニキック氏も同じ意見で、ナイキが卸売からD2Cへの移行を「強く進めすぎた」ことを認識している可能性が高いと話す。「事実として、メイシーズや、DSW、フットロッカーなどで買い物をする顧客は、まだ何百万人もいる」と、同氏は米モダンリテールに語った。「世の中には、ナイキのブランドに忠実な信奉者や、ナイキの商品のみを欲しがっている人々がいる。しかし、マルチブランドの体験を望んでいたり、あるいはナイキとアディダス(Adidas)のシューズを並べて、どちらを買うか比較して決めたいと思っているような顧客も数多く存在する。ナイキは、このようなマルチブランドへの需要の根強さを過小評価していたのかもしれない」。

ニキック氏は、D2Cがより多くの利益を獲得でき、よりターゲットを絞ったマーケティングを可能にすることから、ナイキが今後もD2Cを優先していくだろうと話す。しかし、同氏は次のように述べている。「ナイキがD2Cで勝つとしたら、それは、顧客がマルチブランドのチャネルや卸売のチャネルで買い物をする選択肢も与えられながら、直接ナイキに行くことを選んだ結果ということになるだろう。消費者から選択肢を排除してしまったことで、おそらく同社が望む結果が得られなかったのだと考えられる」。

過剰在庫を解消できる可能性も

ナイキの決定には、在庫の問題も関係しているだろうと、ニキック氏もサンダース氏も指摘している。同社はかなりの期間にわたって過剰在庫に悩まされており、在庫削減は進められたものの、その水準は依然として高い。同社は2月の時点で89億ドル(約1兆2400億円)の在庫を抱えており、前年同期に比べて16%増加した。DSWや、フットロッカー、メイシーズのような販売店との関係を復帰させることで、ナイキは在庫をより早く解消でき、将来のシューズやアパレルのためのスペースを確保できる。

さらに、ナイキの新たなパートナーシップは、アパレルやフットウェアなど自由裁量のカテゴリーより、買い物客が食品や輸送などの必需品を優先する買い物客が増えたのと時を同じくしている。ナイキは、卸売りを通して販売網を拡大することで、自社の商品を購入する余裕があり、かつ購入を希望している層の消費者にリーチしやすくなる。また、メイシーズ、フットロッカー、DSWは、米国内に合計で数百の店舗を保有しており、各社とも独自の熱心な顧客ベースを保有している。

このようなリーチは、特に需要が低迷している状況ではきわめて重要だ。「最終的には、消費者の経済状況が厳しくなるにつれ、強力な流通がより決定的になるだろう」と、サンダース氏は述べる。

[原文:After years of focusing on DTC, Nike is quietly bringing more wholesale partners back into the fold]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

Source

タイトルとURLをコピーしました