2014年日本上陸、東京、神奈川に着々と店舗を増やし、近ごろ関西へも進出したフランスの冷凍食品専門店「ピカール」。
料理雑誌や生活雑誌などで話題で、通販ももりもりやっているというから、お店が近くになくてもご存じの方は多いんじゃないかと思う。
何度か買い物して便利に使っていたが、利用するうちに「なにもかもわからないものがある」ことに気が付いた。
何と何の何
「なにもかもわからないもの」、たとえばそれは、「ラングスティーヌとサンジャックのサバイヨンソース和えソーテルヌワイン風味」だ。
ちなみに店頭ではそれが何かわかりやすい解説が添えてあるのだが、あえて今回はわからないままに購入している。
- ラングスティーヌ
- サンジャック
- サバイヨンソース
- ソーテルヌ
ひとつのメニューに4個もわからない文字列が並ぶなんてことは、昨今ちょっとない。まったくの「何と何の何?」状態が冷凍食品に起きているのだ。
(え~、そんなのもわっかんないの? あーしは料理が好きだしフランスに縁があんから全部わかんだよね~! という陽気なギャルの方はどうか私たちの楽しみをそっと見守ってください。ありがとうございます!)
ピカールの本気は「ラングスティーヌとサンジャックのサバイヨンソース和えソーテルヌワイン風味」だけではない。
「ポム・デュセス」もどうか。
デュセス。小学生たちが小ぜりあう際に口からつい出る擬音として有名な「デュクシ」に限りなく近いが、これは食品なのである。
ぎりぎり「ポム」は、たしかフランス語でリンゴのことではなかったか(オムライスチェーン「ポムの樹」のマークがりんごの木だ)。
となるとポム・デュセスとは、りんごをデュセスしたもの……だろうか……やはりわからない。
分からないままに器がついてくる
ラングスティーヌとサンジャックのサバイヨンソース和えソーテルヌワイン風味は、なんと陶器のうつわに入った状態で冷凍されている。
買うタイプのヤマザキ春のパン祭りだ。
レジでは店員さんがに「こちらは陶器に入っていますので、よろしければいま開封して、ご一緒に破損がないかご確認お願いできますか」と言った。はい、もちろんです。
店員さんがゆっくりていねいに開封し出てきたのは、丸くやや深みのある小皿に入った、白いかたまりであった。
これは……なんだ。
いよいよ分からない。お皿部分の破損はなく、そのまま購入した。
超高級冷凍たこ焼きの味わい、「ポム・デュセス」
これらは一体何なのか。食べて分かろう。
ポム・デュセスは調理前の解凍は不要、180℃に熱したオーブンで30分じっくり焼いて出来上がる(トースターでも、油で揚げるのでもOKだそうだ)。
袋から出してみると、搾りだして成型してあるのがわかる。
どうも、りんごではなくじゃがいも、マッシュポテトのようだ。
ポムというのはりんごのことじゃなかったっけっか、という覚えは間違いではなく、 りんごがpomme、じゃがいもがpomme de terre(直訳で「大地のりんご」)が正解だった。
サイズはひとつが小ぶりのたこ焼きくらい。
食べてみると実際ちょっと、たこの入っていないたこ焼きっぽい味がするのだ。大阪のたこ焼き屋さんで食べるような本気のたこ焼きじゃない、冷凍のたこ焼きのあの味……!
冷凍のたこ焼きを最大限高級化してタコをぬいたような味がする。食感としてはしっとりかつふんわりでおもしろい。
私は冷凍のたこ焼きが大好きなのでこれは最大限好意的な表現で、ポム・デュセス、すごくおいしい。
デュセスとは、公爵夫人のことだそうです
ここで検索で正解を確認すると、マッシュポテトに卵黄をまぜバターや調味料で調味し、搾りだしてオーブンで焼くのが作り方で、フランスやベルギーで肉料理のつけあわせにしたり、おつまみとしても食べるものなんだそう。
肝心の「デュセス」だが、料理の状態を直に表す言葉ではなく「公爵夫人」の意味だった。
どゆこと……? と思うが、会計ソフトに「勘定奉行」という名前がつくみたいなことだろうか。
門外漢には名前から連想するのはそもそも難しい料理だったのだな。
グラタンじゃない、これは泡だ
続いて問題の「ラングスティーヌとサンジャックのサバイヨンソース和えソーテルヌワイン風味」である。
パッケージの案内に従い、解凍せずにそのまま180℃で予熱したオーブンで25分焼く。
見た目から一番近いのはグラタンだが、グラタンはもともとフランス料理なわけで、だったら名前に「グラタン」が入るはずだ。
グラタンじゃないなら、これはなんだ。
食べてみると、なるほど! これはグラタンではない。知っているもので何が一番近いかというと、泡だ。
いつもよりかなり複雑に味を構成したクラムチャウダーを、泡立てて焼いたような味わいだ。
スプーンですくっていると、具としてエビと貝柱が出てきた。もしや、うぬらがラングスティーヌとサンジャック……なのか?
検索すると、ラングスティーヌは「日本名手長海老(アカザエビ)」、サンジャックは「ホタテガイ」と出た。
ホタテ! あんたサンジャックって呼ばれてんの! 学生時代の友達が大人になってサービス業につき派手な源氏名もらってがんばってるみたいな話ではないか。
呼び方のありがたみは続くサバイヨンソースにも見られた。
「サバイヨンソース」と検索してヒットしたのがホテルオークラのサイトなんである。
ヤフー知恵袋じゃない……!
それによると、イタリアが起源の、フランス料理によく使われる卵黄を使用して作るムース状のソースだそうだ。
知っているものとして一番近いものについ「泡」を上げてしまい恥じ入る。「ムース」が一切出てこなかった。
最後のソーテルヌワインだが、これはボルドー地方で作られる甘口のワインだそう。
解説された文章をいくつか読んだが「極甘口ワインの最高峰」との紹介も見かけた。糖度の高い「貴腐ブドウ」で作られる有名なワインだという。
つまり「手長海老と帆立貝の卵黄ムース合え貴腐ワイン風味」というのがその実態というわけだ。
分かれども、やっぱりどこか分からない。
なじみのない、ありがたみのある美味しい料理だった。
ピカールでおいしかったやつを最後にお知らせします
ちなみに、残ったお皿が小皿としてちょうど良いサイズだった。
韓国料理のお店に行くと最初にたくさんの先付け、ミッパンチャンというやつが並ぶが、あのときに出てくるお皿みたいで、勝手に世界がまたがれた気持ちになった。