NFT によるイベント収益増加を期待するパブリッシャーたち:一方、ブロックチェーン技術導入の遅れに戸惑う参加者も

DIGIDAY

対面イベントが復活し、一部の暗号通貨ニュース専門パブリッシャーは、自身が報道しているブロックチェーン技術をカンファレンス事業に統合し、チケット販売の増加やオーディエンスの参加に対する報酬、スポンサーシップ契約のさらなる販売のために活用している。

一部のパブリッシャーでは、イベントのチケットをNFT化したり、会場内でトークンを獲得できる機会を提供してイベントにゲーム性を持たせることが、潜在的な戦略として考えられる。だが、それが成功するかどうかは別の話だ。一般消費者による(また、暗号通貨関連カンファレンスのWeb3ネイティブな参加者のあいだでさえも)ブロックチェーン導入が遅々として進まない状況下で、オーディエンスが、イベント中にこうした新しいイノベーションに参加するという保証はない。

暗号通貨を扱うパブリッシャーのブロックワークス(Blockworks)は、今年5月に開催した「パーミッションレス(Permissionless)」カンファレンスのVIPチケットをNFTにするなど、事業にブロックチェーン技術を採用して、2022年に売上高2000万ドル(約26億4800万円)を目指す目標を設定した。暗号通貨関連の別のニュースサイト、コインデスク(CoinDesk)は、独自の参加トークン「DESK」を6月開催の「コンセンサス(Consensus)」カンファレンスに採用し、セッションやスポンサーなどの活動に関わった参加者に報いた。

カンファレンスシーズン最盛期が過ぎた今、いくつかの事例を以下に紹介する。

  • ブロックワークスの共同創設者、ジェイソン・ヤノウィッツ氏によると、同社は、VIP向けNFTチケット555枚すべてを1.1ETH(ドロップ時のレートで3300ドルで販売し、再販市場では最も高額なものは7.3ETH(2万ドル)で売買されていたという。だが、ブロックワークスは、7.5%のロイヤリティしか受け取っていない。
  • コインデスク・スタジオ(CoinDesk Studios)のシニアバイスプレジデント兼責任者、サム・エウェン氏によれば、コインデスクのコンセンサスの参加者2万500人のうち、20%が今年、DESKの収集・支出に関与したという。

独占販売

3300ドルでVIPチケットを販売するには、一定レベルの特別感と、通常の入場チケット(価格1489~2500ドル)では提供されないアクセスが必要になる。だが、VIPチケットの販売後、それだけの額を支払うことを厭わない高価値の熱烈なファンの需要を測定するために、できることはほとんどない。

そうした状況を変えるため、ブロックワークスは、VIPチケットのレベルをNFTドロップに変え、所有者がウォレット内のNFTを提示すればVIP限定イベントに参加できるようにした。その後、ブロックワークスは、VIPチケットの再販や取引の各タイミング(および販売価格)を確認することはできなかったが、再販取引の度に7.5%のロイヤリティを手にした。

ブロックワークスは、独自のVIP向けNFT「パーミーズ(Permies)」を555個作成して販売した。パーミーズは、ピクサー(Pixar)の元アニメーションアーティストによって、未来のアニメキャラクターのようにデザインされている。

「VIPチケットのアイデアが人々に気に入られなければ、価格は明らかに大幅に低下していただろうし、売り切れたりはしなかっただろう」と、ブロックワークスの共同創設者、ヤノウィッツ氏は述べている。それどころか、オープンシー(OpenSea)の取引履歴によれば、このドロップの一部として販売された最も高価なNFT、パーミーズ#549の再販価格は、4月7日に作成されてから48時間足らずで7.3 ETH(当時のレートで約2万ドル)に到達したという。

確かに、パーミッションレスのチケット販売売上高に占める、NFTの再販から得られたロイヤリティの割合はわずかにとどまるが、NFTから得た最初の利益は、当時のETH価格に基づき約170万ドル(約2億2500万円)相当になる、とヤノウィッツ氏は語った。パーミッションレスでは、計7000人が3日間にわたるカンファレンスに参加して、1000万ドル(約13億2400万円)を超える売上高をもたらしたという。ヤノウィッツ氏は、スポンサー売上高はブロックワークスの目標を50%上回り、チケット販売は目標を25%上回ったと付け加えたが、同社は目標金額については明らかにしなかった。

また、NFTの保有者には、パーミッションレス・カンファレンスへの生涯パスや、無料の商品、非公開のDiscordチャンネルといった、新たに構築されたコミュニティへの追加特典やアクセスなど、イベント後もパーミーズを保有するインセンティブが与えられた。

パーミーズのドロップは、ブロックワークスの重要な中核会員のメンバーシップにつながるにもかかわらず、ヤノウィッツ氏のチームはまだ、NFT事業が今後どのようなものになるか把握しようと努めており、コレクションを限定版にしておくために、将来的に別のパーミーズ・セットを公開するつもりはないという。

「遊んで稼ぐ」モデルをテスト中

参加者がお金を払って参加するカンファレンスに、金でイベント参加者を抱き込む必要はないように思えるかもしれないが、コインデスクにとっては、参加トークンであるDESKを付与し、パネルへの参加やスポンサーのブースへの訪問を人々に促すことで、テキサス州オースティンで開催されたコンセンサス・カンファレンスにおいて、2万500人超の人々が4日間にわたってどのように時間を過ごしたかを、パブリッシャーと広告主がより良く把握できるようにすることができる。

コインデスクの参加トークンには、金銭的な裏付けがないため、クローズドエコノミーの範囲外では使うことはできないが、コンセンサス・カンファレンス参加者の場合、獲得したDESKを、飲食物や商品、NFTのほか、NBAダラス・マーベリックスのスペンサー・ディンウィディー選手との1対1のバスケットボールゲームや、チェスのグランドマスター、ガルリ・カスパロフ氏とチェスの試合をするチャンスに使うことができた。

2万人を超える参加者のうち、イベント中にDESKの収集に参加したのは4000人(約20%)にとどまった。エウェン氏によると、それらの参加者が、トークンに関連した最初の対面イベントとしては想定内だったが、チームが厳しいセキュリティ対策を実施し、ブロックチェーン技術が開発の初期段階でかなり断片化されていたため、そうでなかった場合よりもおそらく低い数字になったのだという。

参加者のエントリーを阻む高い障壁を作ったセキュリティ対策のひとつは、身分証明書として機能し、DESKを収集できるようにウォレットを開くSoulbound(譲渡不可能な)NFTの発行だった。「いくつかの点で、おそらくこのセキュリティプロトコルのために、より多くの参加を犠牲にしたが、それは主に、大勢の人々がいる公共の場で構築する際には用心深くなるのが現実的だからに過ぎない」と、エウェン氏は語った。

こうした課題により、人々がウォレットで機能するDESKの獲得を目指す代わりに諦める確率が、予想以上に高くなった。

「コンセンサスに参加しているのだから、人々はもっとデジタルに精通していると期待していたが、暗号資産ウォレットにアクセスしたり、トークン要求のためにコインベース(Coinbase)のアプリを使ってQRコードをスキャンしたりする方法を理解していない人が、まだ大勢いるとわかった」と、エウェン氏は語った。

参加者が、15~150のDESKトークンを入手する機会は500以上あり、カンファレンスを通して、参加者4000人当たりの平均トランザクション数は正味約15件だった。2万ドル(約265万円)超相当の商品とイブニングパーティーでの飲み物2000杯以上が、DESKを使って購入された、とエウェン氏は述べている。さらに、店舗および夜間のイベント中に行われた現地購入のうち40~45%をDESKが占めた、とエウェン氏は付け加えた。

スポンサーも継続的に参加

ブロックチェーン技術とイベント業界の融合に関心を抱いているのは、オーディエンスだけではない。

暗号通貨ニュースを扱うパブリッシャー、デクリプト(Decrypt)傘下にあるコマーシャルプロダクションスタジオ、デクリプト・スタジオ (Decrypt Studios)が顧客に提供する製品のひとつはカスタムイベントで、CRO兼パブリッシャーのアランナ・ロアジ=ラフォーレ氏によると、そうしたイベントのチケットとしてNFTやトークンを発行するのは、標準的な慣行だという。

「特別なパーティーやデクリプト・スタジオの特定機能、そして現在準備中のプロジェクトにアクセスするには、NFTがなければならない。それが標準になりつつある」と、ロアジ=ラフォーレ氏は語る。

暗号通貨市場は下げ相場だが、メタバースでのイベントはまだ相当な収益をもたらしうる。Web3に興味があり、この分野で見られる最高額を支払うのも厭わない広告主による収益は、特に大きい。ピュブリシスメディア(Publicis Media)のイノベーション担当責任者、キース・ソルジャチッチ氏によると、こうしたイベントは、NFTベースのほかの実験的アクティべーションと同様に、イベントを主催するブランドやパブリッシャーにデジタルウォレットへのアクセスを認める参加者から、プライバシーに準拠したファーストパーティデータを収集できる可能性があることが、その理由のひとつだという。

現行の消費者

だが、NFTとチケットのこうした統合は、暗号通貨カンファレンスに限定しない。7月初旬、筆者宛てに、ウィークエンド(The Weeknd)の「アフター・アワーズ・ティル・ドーン・ツアー(After Hours Til Dawn Tour)」のチケットで無償NFTを請求する機会があるというメールが、チケットマスター(Ticketmaster)から送られてきた。暗号通貨取引プラットフォームのバイナンス(Binance)を通じてデジタルウォレットを設定すれば、請求できるという。

「チケットがすべてNFTになる未来が待っている。いくつかの面において、NFTはいずれはありふれたものになり、この分野においては、奇妙なかたちで良いことなのかもしれない。人々は、(NFTの投資価値について)それほど気にしないだろう。人々は、NFTがもたらすアクセスにますます感心するようになると思う」と、アドバンス・ローカル(Advance Local)の社内技術・メディアインキュベーターであるアルファ・グループ(The Alpha Group)のシニアディレクター、デビッド・コーン氏は語った。

[原文:Publishers hope NFTs will increase event revenue, but slow adoption of blockchain tech leaves attendees unsure

Kayleigh Barber(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:黒田千聖)

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