3人のD2C創業者が語る、買収市場のいま:「利益を出していなければ注目してもらえない」

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パンデミックにより引き起こされたeコマースのブームが落ち着くにつれ、D2Cビジネスを売却することは難しくなってきた。

ボストンコンサルティンググループ(Boston Consulting Group)によれば、2020年の最初の7カ月に、全世界の合併吸収(M&A)取引件数は前年比で13%減少した。一方で、取引額は32%減少した。

eコマースの分野では、11月にビクトリアズシークレット(Victoria’s Secret)がアドアミー(Adore Me)を買収する計画を発表し、フランスの大手製薬会社のバイオコデックス(Biocodex)がサプリメントブランドのヒルマ(Hilma)を買収するなど、最近になって買収が増加しているが、これらの契約の多くは何カ月にもわたって進められてきたものであり、現在において買収の情勢がいかに困難かを不明瞭にしている。パンデミックの全盛期と比べてオンラインショッピングの成長が減速したことから、オンライン専業のブランドは好まれなくなってきた。そして業界の内部関係者は、景気後退が起きれば状況はさらに厳しくなることを警告している。

D2Cブランドの買収の情勢が現在どのようなものかを理解するため、筆者は今年、さまざまな段階で自分の会社を売却した3人の創業者と対談した。ヒーローコスメティクス(Hero Cosmetics)を6億3000万ドル(約851億円)でチャーチアンドドワイト(Church & Dwight)に売却したジュー・リュー氏、カミソリの会社のサプライ(Supply)をファウンドリーブランズ(Foundry Brands)に売却したパトリック・コドー氏、そしてヘンプベースの飲料ブランドであるスウィートリーズン(Sweet Reason)を別のCBD飲料の新興企業であるカーン(Cann)に売却したヒラリー・マッケイン氏だ。

サプライとスウィートリーズンはどちらも買収の金額は明らかにされていないが、ヒーローの買収はeコマースブランドが現在受けられる評価がどのようなものかを示している。ヒーローは6月30日までの12カ月に1億1500万ドル(約155億円)を売り上げ、同じ期間にEBITDAで4500万ドル(約60億8000万円)を生み出した。その結果、ヒーローは6億3000万ドル、EBITDAの約14倍で買収されることになった。

これらの創業者たちのストーリーには、共通ないくつかのテーマがある。買収者が収益の成長だけを気にする時代は過ぎ去った。今日では、EBITDAと収益性に基づいて買収の倍率が決められ、景気後退が起きればこれらの重要性はさらに大きくなる。また、D2Cブランドであることで新興企業が特別扱いされることはない。買収者は、自分たちが手を貸すことで、新しい対象層や新しい市場に進出可能であると考える新興企業を求めている。

すべてが計画通りに運んでも、売却には最高で1年を要する可能性がある

筆者が話した3人の創業者は、自分たちの会社を市場に出す決意をしてから実際の売却までは、6カ月から1年以上を要したと述べている。

「そう考えて覚悟をしておく必要がある」と、スウィートリーズンのマッケイン氏は語る。同氏は、買い手との話をはじめたのは、自分の会社が売却される6カ月から9カ月前だったと推定している。

これは、創業者が売却プロセスを進めるあいだ、1年間にわたって自社のビジネスをサポートするキャッシュフローを保有している必要があるだけでなく、ビジネスの成長を続けながら、売却が自分たちに何を意味するのかの疑問を抱えているかもしない投資家と従業員の期待を満たす必要もあるということだ。「売却プロセスの最中に人を管理することは、多くの人の想像以上に複雑だと思う」と、同氏は付け加えている。

そして場合によっては、運用条件の変化から、売却プロセスがさらに長引くこともある。サプライのコドー氏は、会社の売却を検討しはじめたのは2021年の春だと述べている。しかしその少しあとで、同氏の会社の成長は低迷しはじめ、同氏はそれがAppleのiOS14更新に起因すると考えている。

「会社を市場に出した直後に、当社のビジネスの業績は非常に低迷し、多くの潜在的な買い手が二の足を踏むことになった」と、同氏は述べている。

結果として、コドー氏は買い手を探すのを一時中断し、サプライのマーケティングへのアプローチを再構築することを決意した。それまでのサプライは代理店に大きく依存していたが、デジタルマーケティングの情勢が激変したため、同氏はサプライもマーケティングの多くを社内で行う必要があると判断した。「それまで私は自社の広告の購入について、代理店の5分の1や10分の1程度しか注目していなかった」と、同氏は述べている。この1年間で同氏は、約6人のフルタイムのマーケティング担当従業員を雇い入れた。

「この春に、状況は当社にとって非常に有利となった。我々は多くの人々を呼び戻し、会社の新しい状況を見てもらい、それらの人たちがふたたび関心を抱くようになった」と、コドー氏は述べている。サプライの売却が完了したのは、同社が夏に過去12カ月のEBITDAで過去最高の数値を記録したちょうどその頃だった。ただし同氏は、それ以後もEBITDAは増え続けているとしている。

魅力的な買収は収益性と注目を集めるストーリーから

コドー氏は、売却を求めている創業者に向けた最大のアドバイスは、特に収益が2000万ドル(約27億円)未満の会社の場合には、「魅力的な商品があるかなんて誰も気にしてくれない。利益を出していなければ自社ビジネスのほかの部分は注目してもらえない」だと述べる。

買い手は新興企業の健全性を示すほかの指標、たとえば顧客満足度や繰り返し購入率も確認したがるが、「もっとも重視されたのは利益だった」と、同氏は付け加えている。「買収価格の倍率は利益に基づいて決められ、関心も利益によって左右される」。

スウィートリーズンのマッケイン氏は、創業者への最大のアドバイスとして次のように述べている。「なぜ会社を売却したいのか、極めて明確で説得力のある理由を持つことだ。買収者は、会社の将来についての計画と夢に出資することを望んでいる」。

同様に、リュー氏から創業者へのアドバイスはこうだ。「自社のビジネスが特別である理由を見つけ出すことだ。社内の能力でも、特別の層の顧客とつながりがあることでも、ほかの会社が保有していない非常に独自の商品やサービスを保有していることでもいい」。

何が魅力的なストーリーなのかは、買収者が未公開企業なのか戦略的企業なのかによって異なる。マッケイン氏の場合、同氏はスウィートリーズンをTHC(テトラヒドロカンナビノール)に展開することを望んでおり、州ごとに異なる法律に対処し、薬局と提携するため、より大手のブランドの支援を希望していた。「これは非常に独自の業界で、カーンはうまく対応する方法を確立している」と、同氏は述べている。

景気後退のなかで売却を準備するのは基礎のてこ入れを意味する

来年は景気後退が起きるのか、それとも米国ではすでに景気後退がはじまっているのかは誰も正確に知らないが、どのような種類の経済沈滞でも、少なくとも一部の企業は買収プロセスを一時保留することになるだろう。

それでも、会社が利益を上げていれば、「ほかの事情にかかわらず、常にビジネスは魅力的になるだろう」と、リュー氏は述べている。

また同氏は、「景気後退が起きている、または近づいている状況で、多くの買収者が企業に質問するのは、景気後退はビジネスにどのような影響を及ぼすのか、その商品やビジネスは『あったらいいもの』ではなく必需品なのか、だ。疑いなく、会社にはそのような視点が必要だ」と、新興企業にアドバイスしている。

2023年は会社を売却するのに適切な時期ではないと判断したなら、「1年か2年後に自社のビジネスを興味深いものにすると考えられるようなものを特に強化し、自社にとってのユニークな差別化要因にすること」を同氏は勧めている。

「結局重要となるのは、非常に優れた経済と基盤を備え、可能な限り最高のビジネスを構築することに帰結する」と、リュー氏は述べている。

[原文:DTC Briefing: 3 founders on what the acquisition market is like right now]

ANNA HENSEL(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via jurhyu.com/Supply/Sweet Reason

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