ナイキ のデジタルスニーカー、「NFT」と呼称しなくなった意味

DIGIDAY

何はともあれ、ナイキ(Nike)の最新コレクションをNFT、Web3、クリプトプロジェクトと呼ぶのはやめよう。

それらの表現が間違っているわけではない。それどころか、多くの点で正しい。ナイキは5月16日、Web3マーケットプレイスのドット・スウォッシュ(.Swoosh)で行っていた初めてのデジタルスニーカードロップを終了した。デジタル化されたエアフォース1(Air Force 1)のリリースはどう見てもNFT、つまり、誰かが所有できるデジタルアイテムだ。

しかしこの言葉は、そして、この言葉から最も連想されるほかの2つの言葉も、このコレクションのマーケティングには一切出てこなかった。その代わりに、ナイキはこれらのスニーカーを「バーチャルクリエイション」と呼んだ。

確かに、この呼称にはマーケティングの要素もあるが、同時にもっと深い意味合いもある。つまり、一般的な消費者は体験しか気にしないことへの対応だ。一般的な消費者はこれを可能にしている技術には興味がない。そして、この場合、一般的な消費者はとくに共同所有の力に関心を持っている。

確実な利益よりコミュニティーの関与を優先

ドット・スウォッシュのメンバーがデザインしたバーチャルシューズから4つが選ばれ、スニーカードロップの一部となった。ナイキはそれらのデザイナーと協力し、マーケットプレイスでの商品化を実現。ナイキと顧客が共同制作したこれらのデジタル商品は、ナイキが約1週間にわたって販売していた10万点のバーチャルクリエイションにランダムにちりばめられた。

これらのデザインは、ナイキのスニーカーボックスのデジタル版に入れられ、「クラシック・リミックス(Classic Remix)」「ニュー・ウェーブ(New Wave)」という2つのボックスが用意されて、それぞれ19.82ドル(約2775円)で販売された。そして、ドット・スウォッシュのアカウントを持っている人だけが購入できたのだ。各ボックスに3Dファイルが付属しており、将来的には、(互換性がある場合)ゲームなどのプラットフォームにデジタルスニーカーをエクスポートし、使用できるようになる可能性がある。

その低価格とファンの参加を見る限り、ナイキが今回のスニーカードロップで、確実な利益よりコミュニティーの関与を優先したことは明らかだ。言い換えれば、今回のスニーカードロップは、ブランド構築のための行動だった。巧妙なやり方で個人が広告を見るよう仕向けるのではなく、コンテンツを通じて人々をつなげる試みだったのだ。

NFTを使ってファンダムにリーチ

クリプトコミュニティー管理ツールであるコラボ・ランド(Collab.Land)を共同で立ち上げたアンジャリ・ヤング氏は、「ナイキは単にデジタルスニーカーを販売するだけでなく、ファンが新しいクールな方法でブランドと交流できるコミュニティーを生み出そうとしている」と分析する。「マーケターはNFTを懐疑的に捉えるのではなく、マーケティングや販売戦略の一部として受け入れ始めている」。

ドット・スウォッシュのサイトをざっと見れば(ナイキにコメントを求めたが、回答は得られなかった)、それがよくわかる。コピーを読んでみると、ファンはマーケットプレイスでどのようにデジタル商品を作成、収集、取引、そして何より、「見せる」ことができるかが書かれている。ナイキはまた、ファンが商品、体験、コンテンツ、さらなるドロップにアクセスできるようになることを約束している。今後は、メンバー同士で協力したり、競い合ったり、賞を獲得したりできるようになるようだ。

簡単に言えば、ナイキはNFTというかたちでトークン所有者限定コンテンツや体験を提供し、ファンを自認する人々にリーチしようとしているのだ。

Web3プラットフォームのリディーム(Redeem)の共同創設者兼CEOであるトビー・ラッシュ氏は、「ナイキのNFTであれ、パートナーのNFTであれ、ファンがほかの利益集団を自己選択するようになれば、本当に面白いことになるだろう」と話す。「NFTメディアをベースに消費者と直接関わるブランドが増えれば、新しい関係構築のモデルが解き放たれるだろう」。

メディアとしてのNFT

この結果がどうなるかはまだわからない。ナイキは明らかにテストと学習モードにあり、それはもうしばらく続きそうだ。しかし、この初期段階でも、ドット・スウォッシュを通じてメンバーシップバリューを定量化、体系化、そして、最終的に商用化できるプラットフォームを構築しようとしている。しかも、ブロックチェーン技術で構築されたマーケットプレイスのおかげで、すべてが透明で不変だ。

メディアとしてのNFTという考え方はまだ早い。それは懐疑的にとらえられる可能性が高いためだが、このアイデアは一部のマーケターの興味を引き始めている。

スターバックス(Starbucks)を例にとってみよう。スターバックスはトークンベースのロイヤルティプログラム「オデッセイ(Odyssey)」を立ち上げた。メンバーがマーケットプレイスでNFTを売買できるプログラムだ。ただし、ナイキと同様、スターバックスはNFTという言葉を使っていない。切手収集が広く行われていることにちなみ、「デジタル・ジャーニー・スタンプ(Journey Stamps)」と呼んでいる。

NFT専門エージェンシーであるキャンディー・デジタル(Candy Digital)の共同創業者で、パートナーシップと事業開発の責任者を務めるマシュー・ノボグラッツ氏は、「マーケターはNFTを懐疑的に捉えるのではなく、マーケティングや販売戦略の一部として受け入れ始めている」と話す。「NFTに対するマーケターの考え方が最も変わった点は、NFTが単なる収益増のための手段や流行語と見なされなくなったことだ。NFTは今、消費者とより有意義な関わりを持つための手段と考えられている」。

マーケターはNFT技術についてより深く考え始めている

ナイキによるNFTの活用はその好例だ。ノボグラッツ氏に言わせれば、ナイキはただデジタルスニーカーを販売しただけでなく、ファンが新しいエキサイティングな方法で互いに、そして、ブランドと交流できるコミュニティーの種をまいたのだ。

このような動きは、マーケターがNFTに懐疑的であることと矛盾している。しかし、広まった懐疑的な見方はいずれ薄れていく。何事も常にそうだ。

実際、すでにその兆しが見えている。マーケターがNFT技術についてより深く考え始めているのだ。たとえば、スポーツリーグはトレーディングカードやハイライト動画などのデジタルグッズを販売するため、NFTを活用している。また、作品の販売にNFTを利用することで、仲介業者なしでコレクターに直接販売し、ダウンストリーム収益を高めているアーティストもいる。

[原文:After Nike’s virtual sneaker drop, NFT cynicism is making way for intrigue among marketers

Seb Joseph(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:島田涼平)

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