今年のブラックフライデーで過去最高売上を更新した新興 D2C ブランドたち:多様な戦略に見る3つのポイント

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インフレの脅威が迫っているにも関わらず、今年もブラックフライデー以降、D2C新興企業の売上は過去最高を記録した。

多くのD2C新興企業のeコマースエンジンであるShopify(ショッピファイ)は、同社のマーチャント(加盟店)が今年のブラックフライデーに33億6000万ドル(約4570億円)を売り上げ、昨年よりも21%増加したと報じた。小売業界全体の結果はこれよりかなり控えめで、<a href="http://“>アドビアナリティクス(Adobe Analytics)によると、ブラックフライデーのオンライン売上額は昨年と比較して2.3%増加した。

しかし、売上の数値だけが、その全貌を語っているわけではない。サイバーウィーク(Cyber Week)の結果にもっとも満足しているD2C新興企業は、ブラックフライデーの「記録的な」結果を達成するために大幅割引に頼ったわけではなかった。むしろ、有料のソーシャルへの依存を減らしたり、ロイヤルティプログラムを充実させるといった、ほかの目標を達成しながら、収益も増やすことができたのだ。

この1週間にわたってさまざまなD2Cのエグゼクティブの話を聞いた結果、このブラックフライデーにどのような戦術が勝利を収めたか、筆者が得た3つの重要なポイントを以下に示す。簡単に言うと、ブラックフライデーは、ほぼ例年と同じくらい記録的な売上が見られた日だった。そして、ブラックフライデーは依然として記録的な売上が得られる日であり、eコマースビジネスの運営が多くの面において難しくなるなか、サイバーマンデー(Cyber Monday)も同じような日として確立されてきた

有料ソーシャルからの離脱が続く

今年のD2C新興企業のもっとも大きな注目分野のひとつは、Appleのプライバシーの更新により、メタ(Meta)の広告ビジネスが損なわれたなかで、ブラックフライデーに向けて、より多様化されたマーケティング戦略を立案することだった。

男性用ボディケアブランドのヒューロン(Huron)のCEOを務めるマット・ムレナックス氏は、ブラックフライデーからサイバーマンデーまでの期間における同社の売上が、昨年の2倍になり、今年のコンバージョン率は11%だったと語っている。同時に、同社はマーケティングチャネルのいくつかへの出費を昨年よりも約50%削減した。

ほかの多くのD2Cブランドと同様、ヒューロンもメタの保有するプロパティへの依存を減らし、代わりにインフルエンサーやクリエイターと密接に協力することをめざしてきたと、ムレナックス氏は語る。同社はサイバーウィークのプロモーション作業を既存の顧客により集中させたいと考えていたと、同氏は述べている。

ヒューロンは今年、既存の顧客層をさらに盛り上げる方法のひとつとして、2つの異なるプロモーションを行った。11月17日から11月24日までの25%割引と、ブラックフライデー期間中の「ひとつ買えば、もうひとつおまけ」のキャンペーンだ。

美容品ブランドのスリーシップス(Three Ships)にとって、テキストメッセージングはブラックフライデーのマーケティング計画において大きな役割を果たした。同社のマーケティング担当ディレクターを務めるヘマニ・カムダー氏は、同社は自社のSMS(ショートメッセージサービス)の購読者やロイヤルティプログラムのメンバーに対して、今年のブラックフライデーのセールに早期にアクセスできるようにしたと述べている。

カムダー氏は、初回販売の対象をスリーシップスの顧客の一部に限定することにはリスクがあったが、「SMSで購読している顧客は、間違いなく熱心に関わっており、ブランドとのつながりを維持したいと考えている」という発想だったと語る。同社は結局、早期アクセスの最初の数時間で、昨年のセール初日と同等の売上を生み出し、コンバージョン率は18%に達したとしている。11月後半時点で、同社のSMSキャンペーンによる収益は昨年と比べて103%増加した。

「SMSリストの構築は、ブラックフライデーに向けた、非常に優先度が高い作業だった」とカムダー氏は述べる。同氏は、有料ソーシャルはスリーシップスにとって依然として注目対象ではあるものの、「パーソナライズが可能で、ファーストパーティーデータにアクセス可能なチャネル」をますます優先する傾向が強くなっており、SMSもそのひとつであると述べている。

買い物客はブラックフライデーセールの1週間の計画を立てている

ブラックフライデーの開始は年々早まっているが、筆者が気づいたもっとも大きな変化のひとつは、ほぼすべての新興企業がブラックフライデーのセールを、もっとも遅くてもブラックフライデーの前の月曜日に開始していたことだ。

家庭用品ブランドのパラシュート(Parachute)がその例のひとつだ。CEOを務めるアリエル・ケイ氏は、同社のセールは何年にもわたり、もっとも大きな支柱となるセールの日、すなわちブラックフライデーとサイバーマンデーに開始され、終了していたと、メールで筆者に語った。しかし同社は2020年、ロイヤルティプログラムのメンバーを対象として、ブラックフライデーの前の月曜日にセールを開始した。そして今年は、すべての顧客に対して11月21日から11月28日までセールを開催した。

ケイ氏は次のように述べている。「BFCM(ブラックフライデーとサイバーマンデー)の『週末』をめぐる行動が変化した。人々の優先順位は以前と変化し、平日にオンラインで買い物をし、休日や週末は家族と過ごすようになった。当社はこれらの人々に合わせ、期間限定のセールで過度なプレッシャーかけないようにしながら、同時に素晴らしい瞬間を生み出したいと考えている」。

これは、買い物客がしだいに、最後の瞬間における「サプライズの」サイバーマンデーの特別セールに興味を引かれず、場合によってはいら立ちさえするようになってきたことも意味する。筆者が以前記事に書いたように、自社のサイバーウィークのセールがいつ開始されるかを前もって告知する新興企業は増えつつある。

スリーシップスも、そのようなブランドのひとつだ。同社は11月17日、同社が11月23日から11月28日までに提供する、購入インセンティブ付きの各種ギフトをすべて記載したカレンダーを発行した。また、それに加えて「ひとつ買えば、もうひとつおまけ」キャンペーンは週いっぱい継続した。

カムダー氏は、同社のキャンペーンを前もって告知しようと考えたのは、「現在は消費者にとって混乱した時期であることはもちろん、そして世界の金融情勢を考えると、適切な価格、適切なセールを見つけなければならないというプレッシャーもあるだろう」と述べている。

インフレはブラックフライデーの妨げにならなかったが、事実はそれだけではない

インフレがサイバーウィークの売上に悪影響を及ぼす懸念があったが、全体的にその問題が顕在化することはなかった。ブラックフライデーは年々、大多数の買い物客が依然として参加を計画し、購入計画を立てるイベントになってきた。全米小売業協会(National Retail Federation)の年次調査によると、回答者の3分の2以上は今年の感謝祭の週末に買い物を計画していた。

人々は、相変わらずブラックフライデーを利用して特定の商品を仕入れることを計画していたが、何をどれだけ仕入れようとしていたのかが変化した。パラシュートのケイ氏は、同社のサイバーウィークの売上が前年と比べてどの程度だったのか、正確に明かしていない。同氏は、同社がインフレを考慮して今年は多少の軟調になることを予期していたことを認めたが、サイバーウィークについては、予測を達成しており、「我々は予測を達成したことを幸せに思っている」と述べている。

ケイ氏は次のように述べている。「ローブ、ラウンジウェア、スリッパなど毎年大量に売れるホリデー向けギフトに加え、コアの寝具類、実用品、バス用品にも純粋な注目が集まった。これは例年と矛盾するものではないが、市場で何が起きているかにかかわらず、人々は質の高い商品を探しているということを引き続き示している」。

しかし、ブラックフライデーの業績は、そのブランドがホリデーシーズンの残りでどれだけの業績を挙げるかを示す指標のひとつにすぎない。全米小売業協会(NRF)の調査では、回答者の60%は11月初頭にすでにホリデーの買い物をはじめており、18%はホリデーの買い物の半分以上をすでに完了していることが示された。インフレが続き、中核の顧客の多くがホリデーの買い物をすでに完了しているなら、D2Cブランドが12月にオーディエンスから多くの需要を引き出すことは困難になるかもしれない。

ヒューロンのムレナックス氏は、ブラックフライデーとサイバーマンデーのあいだで同社の平均注文価格が昨年よりも約50%増加し、人々が同ブランドの商品をより多く購入しようと望んだことが示されたことに言及し、「インフレに関してマクロ的な逆風が吹いたのかどうかはわからない」と述べた。

「人々が、自分たちが非常に熱意を持っているブランドを買い求めることに躊躇しなかったということは、かなりの見識が得られるのではないだろうか」。

[原文:DTC Briefing: Takeaways from this year’s Black Friday results]

ANNA HENSEL(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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