アディダス はイージーをどう処理する?3つの選択肢とその決断

DIGIDAY

ドイツの大手シューズメーカー、アディダス(Adidas)は、5月5日に行われた第1四半期決算説明会で、カニエ・ウェスト氏の反ユダヤ主義的な発言によって破綻したイージー(Yeezy)の販売中止による影響が継続していることを明らかにした。たとえばイージーの喪失は、北米ではすでに前年比15%の収益減を招いている。2014年にスタートしたこのラインは、2021年には20億ドル(約2706億円)以上の利益をもたらしているが、アディダスは今年、このラインの閉鎖による10億ドル以上(1353億円)の損失を見込んでいる。

またアディダスは、倉庫に眠っている売れ残りのイージーのスニーカーをどうするのかということも思案している。CEOのビョルン・ガルデン氏は5月5日の決算説明会で、アディダスは約5億5600万ドル(約752億円)相当のイージーを抱えており、そのうち1億ドル(約135億円)以上がイージーとの関係が破綻した後に製造されたものだと説明した。ガルデン氏によると、それらのシューズについてはすでに契約済みだったため、アディダスはイージーを製造している工場の雇用を維持するために製造命令を通したのだという。

このシューズをどう処理するのか、会社がどの道を選択するにせよ、その決定はマイナスの影響を伴うことになる。

「イージーの製品は、いずれ何らかの形ですぐに売り払うことができるはずだ」とガルデン氏は決算説明会で述べている。「ただ現在は複雑な事情があり、難事業となっている」。

ガルデン氏によると3つのシナリオが議論されており、同社はまもなく決断に至るとのことだ。以下ではアディダスが取り得る3つの主な選択肢と、それぞれのデメリットを紹介する。

通常通り在庫を販売する

アディダスが取り得るいちばん単純な選択肢のひとつは、すべての在庫がなくなるまで、これまでと同じように店舗やオンラインで発売して、そのスニーカーを売り切ってしまうことだ。5億5000万ドル(約744億円)分の最後の1足が売れたら、会社は正式にこのラインを閉鎖することになる。

この選択肢は株主にとってもっとも喜ばしいもので、アディダスの収益に最善の影響を与える可能性がある。期待外れに終わりかねない業績発表を押し上げるという、すばらしい効果をもたらすかもしれない。たとえば、アディダスの前四半期のeコマース売上は23%減だったが、イージーの先行eコマース売上をカウントしなければ実際には12%増だった。需要が高まっている再販市場でのイージーの価値から判断すると、アディダスがこの方法を選べば残りの在庫をタイムリーに販売できる可能性が高い。

当然ながらマイナス面は、明らかに有害とわかっている関係性から利益を得ることになるため、アディダスの評判に引き続きダメージを与えるだろうというものだ。ウェスト氏の反ユダヤ的で親ナチ的な常軌を逸した暴言は、アディダスにしてみればPRの悪夢としかいえないものであり、残りのイージーを売り払うことはブランドとウェスト氏を今まで通り関連づけてしまう。アディダスがイージーの名前でシューズを販売した場合、同社はウェスト氏にロイヤリティも支払うことになるだろう。この件に関する昨年10月のアディダスの声明によると、同社はウェスト氏とできるだけ距離を置きたいと考えている。

この問題を回避する方法のひとつの可能性として、シューズの売上をすべて名誉毀損防止同盟(Anti-Defamation League)などの慈善団体やチャリティ活動に寄付するというのが考えられる。ガルデン氏はこの考えを3月に提案したが、パブリシティの観点からすると、実際に大きな効果があるかどうかは不明であり、ブランドにとって経済的に大きな損失となるのは変わらないだろう。

在庫を譲渡、または清算する

もうひとつの選択肢は、イージー側の通常のビジネスにはならない別の方法で在庫を売却することだ。

これは、ディスカウントショップを通じてシューズを清算する、必要としている人々に靴を提供している慈善団体に直接在庫を寄付する、あるいは他の企業に在庫を売却して好きにしてもらうといった形をとることができる。ガルデン氏は、大小さまざまな企業から残りのイージーの在庫を買い取るという提案をすでに何百件も受けているが、まだどのオファーも採用していないと3月に述べている。また、そのスニーカーをリブランディングして別の名称で販売するというアイデアも否定した。

アディダスの店舗でイージーを販売することによるPRのダメージを受けずに、いくらか儲かるという意味では、在庫の寄付や清算はよい落としどころかもしれないが、ガルデン氏はこの選択肢にも問題があると示唆している。アディダスとウェスト氏とのパートナーシップが終了してからイージーの価値が急上昇している再販市場に、これらのスニーカーが出回るのはほぼ間違いない。5億ドル(約676億円)相当のイージーを世に送り出せば、再販市場で製品が長期間回転し続けることになり、アディダスが忘れたいと思っているパートナーシップの認知度が上がってしまう。3月にガルデン氏は、理想的な解決策は世の中のためになり、かつ「我々に与えるダメージがもっとも少ない」ものになるだろうと語っている。

在庫を破棄する

万策が尽きた場合、在庫を破棄するのが最終手段となるだろう。

これは最悪の選択肢だと、アディダスも外部のアナリストも概ね同意している。アディダスは在庫につぎ込んだ資金をまったく取り戻せないだけでなく、ひかえめにいっても悪い印象を与えてしまう。服を燃やすという行為は、一般的ではあるが、環境に悪影響を及ぼし、バーバリー(Burberry)といった他のファッション企業も激しく非難されている行為なのだ。

アディダスが最終的にどの選択肢を取るにしても、イメージを悪化させずに少なくともいくらかの資金を回収できるという明確な選択肢はない。アディダスがウェスト氏と決別してから数カ月も在庫を放置したままなのは、このような板挟み状態に陥っているからだ。

「売ることもできず、破棄もできないのなら、どうすればよいのか?」とガルデン氏は言う。「これが我々がまだ決定を下せていない理由だ。非常に複雑な問題なのだ」。

【追記】
結果、アディダスはこの靴を自社で販売すると発表した。他の選択肢としては、第三者に売却したり、製品を破棄したりすることもあった。収益の一部はチャリティに寄付される予定だ。

注目すべきは、この決定により、ウェストがロイヤリティという形で売上から利益を得ることになることだ。しかし、Yeezyの売上から得られるアディダスとウェストの利益の正確な分配は不明である。アディダスは、Yeezyスニーカーのすべてのデザインに関する権利を所有しており、以前、Yeezyの名前を付けずにリブランドして販売する可能性があると示唆していた。

[原文:Adidas still hasn’t figured out what to do with all those Yeezys. Here are 3 options it could take]

DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)

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