AIの次は核? Microsoftが核融合電力の購入契約を交わす

GIZMODO

5年後に核融合電力を買えるって…ほんとに?

核融合スタートアップのHelionが、Microsoft(マイクロソフト)に対し、5年以内に核融合による電力50メガワットを提供するという契約を交わしたことを発表しました。

核融合電力の購入契約は史上初ですが、その電力を作るための発電所がまだできていないという意味でも、前代未聞かもしれません。

「核融合」とは、一般的な原子力発電に使われている「核分裂」とは違い、エネルギーを無限に作り出せる可能性があります。いろんな科学者やエンジニアがその夢を追ってきましたが、ここまで成功例はほぼありません。

HelionとMicrosoftの発表は歴史的なものですが、そもそも核融合とは何か? テックがどんな役割を果たすのか? 地球にとって有益なのか?いろんな疑問が浮かんできます。

そもそも核融合とは?

核融合とは、簡単に言うと、太陽の原動力となってるプロセスです。

太陽はその核において、強大な圧力とものすごい高温を使い、物質をエネルギーへと転換しています。

ニューヨーク大学のArthur L. Carter Journalism Instituteの教授で、『Sun in a Bottle: The Strange History of Fusion and the Science of Wishful Thinking』(直訳:ビンの中の太陽:核融合と希望的思考の科学の奇妙な歴史)の著者、Charles Seife氏は、米ギズモードの兄弟サイト、Eartherに対しこう語りました。

「原子を十分に強い力で、十分に高温かつ高密度な環境でぶつけ合わせると、タダでエネルギーが手に入ります。わずかな燃料から莫大なエネルギーが得られるのです」

科学者たちは、原子炉の建設が始まった1940年代から、太陽の核融合プロセスを再現する夢を追ってきました。

でも、すぐに明らかになったのは、問題は融合を再現することそのものではないということです。難しいのは、核融合プロセスに投入するエネルギーを上回るエネルギーを作り出すことです。

核融合には莫大なエネルギーが必要で、今までに行われた核融合実験のほぼすべてで、アウトプットがインプットを上回ることはありませんでした。

でも、最近、核融合研究のターニングポイントを示すような発表が続きました。中でも非常に重要なのは去年12月、米国のローレンス・リバモア国立研究所が、核融合反応でエネルギーがプラスになる「点火」に成功したと発表したことです。

Seife氏は点火達成の重要性は認めつつ、リバモアで使われたレーザーやその他のインプットを作り出すためには、実際には発表での計算に使われた以上のエネルギーが必要だと指摘しました。彼はシリコンバレーで次々と生まれている核融合スタートアップにも、あまり期待していないようです。

核融合は「話題先行しすぎている」とSeife氏は言います。

「ベンチャー投資が溢れているし、そんな空虚なカネを流行りものに注ぎ込ませる手管も巧妙化しています。

60年代に小さなラボでできたことを再現して、ちょっとひねりを加えただけのスタートアップが大量発生しているんです。あまりにカネが入りすぎ、技術への野望が強すぎて、エネルギーのアウトプットを伴った実験結果はまだないという事実を、誰もが完全に無視しているのです」

で、Helionとは?

そんなスタートアップの中に、Helionがいます。

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Video: Helion / YouTube

Helionは2013年に創業し、2014年にY Combinatorから資金提供を受けました。

その際、HelionのCEOは、3年以内に核融合炉を立ち上げられると主張していました。Helionは2021年時点でも、2024年までには核融合による電力を作り出し、「商用としての電力発電も目指せる」と言ってました

Helionは何回も目標を逃してるものの、2021年には核融合炉建設に着手しました。

そこにはシリコンバレーの投資家、サム・アルトマン氏からの3億7500万ドル(約510億円)の投資も手伝っています。2023年の今、Helionは核融合企業としては初めて、電力購入契約を取り付けました。2028年にはMicrosoftへの電力供給を開始すると言ってますが、それは当初融合炉を作ると言っていた時期より10年以上遅れています。

EartherはHelionに対し、今まで目標未達だったにもかかわらずこのタイムラインを達成できるのかどうか、自信のほどを聞いてみました。

広報担当者によれば、彼らの6基目となる核融合炉での最近の成果は「我々のタイムラインは現実的であり、最初の核融合発電所を2028年までに建設できるという自信につながりました」とのことです。

本当にできるの?

Helion自身は楽観的ですが、Seife氏も含めて専門家からはかなり疑問視されています。ただ彼は、注目されることには理解を示します。

「紙の上ではとても美しいですから」とSeife氏は言います。「それが核融合の魅力です」。

ただ、核融合技術の開発そのものと、核融合でできたエネルギーを制御することとは別物です。

米国での核融合への投資は、点火の実現に集中してきましたが、核融合から使えるエネルギーを作り出すことが見過ごされてきました。核融合でできたエネルギーを電力グリッドに乗せることは、核融合自体とはまた全然別のことなんです。そもそも発電所を作るだけでも、最低2年はかかる巨大インフラプロジェクトです。

「『エネルギーができるんだったら、お茶を入れてみて』というのが、古典的なジョークです」とSeife氏。「『お茶が入ったら支払いを考えるけど、とりあえずお茶を入れてごらん』とね」。

核融合をアテにしていいの?

Helionの広報担当者はEartherに対し、Microsoftの電力購入契約の詳細は公開しないと言いました。それでも、「これは本物の電力購入契約であり、コミットメントと義務、そして不履行の際にはペナルティも伴うものです」と言います。

なので、わからないままの疑問もたくさん残っています。

MicrosoftはHelionに契約金を先払いしたのか? コミットメントと義務、ペナルティとは具体的に何なのか? そして環境目線で最も大事なのは、Microsoftが自社の炭素排出量削減計画の中で、核融合発電にどれくらい依存しているのか? ということです。

Helionのプレスリリースには、この契約が「Microsoftの目指す『2030年までにカーボンネガティブ(二酸化炭素排出量をゼロより少なくする)』の達成に役立つ」とあります。

カーボンネガティブ達成のために他のクリーン電力源も確保しているのか聞いたところ、Microsoftの広報担当者は、「2022年の持続可能性報告書を見てね」とのことでした。そこには確かに、太陽光発電やらいろんな炭素除去技術を支援するMicrosoftの取り組みが紹介されています。

でもMicrosoftが環境対策に積極的な大企業だからこそ、あぶなっかしいスタートアップにうまく利用されてるんじゃないかと心配になります。

核融合エネルギーは二酸化炭素排出削減には役立つのかもしれませんが、地球にとって残された時間は長くありません。シリコンバレーのあやふやな技術をあてにしていたら、結局は時間や資金がムダになるかもしれないんです。

であれば、今あるリソースは、すでに使える技術や、もっと実装段階に近い技術に割くべきではないでしょうか。

Seife氏は言います。

核融合実現の難しさそのものが、環境にとっては有害だと思います。責任を取るのも、難しい選択も、先送りにされてしまうのです。なぜなら、ランプから出てくるジーニーが出てくるのは、5年先なので」

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