リンダ・ヤッカリーノ氏は、数十年におよぶTV業界でのキャリアに終止符を打ち、Twitterの新しい最高経営責任者(CEO)に就任する。これは、マーケターを呼び戻そうとする「Twitter 2.0」時代の到来を予感させている。
オーナーのイーロン・マスク氏がソーシャルネットワークの責任者となり、Twitterの以前のコンテンツモデレーション(投稿監視)ポリシーを撤回して物議を醸して以来、逃げ出したマーケターとTwitterの関係を再構築することができるかどうかこそが、ヤッカリーノ氏の成功を左右することになるだろう。
言論の自由を支持するヤッカリーノ氏
物議を醸すTwitterのオーナー、イーロン・マスク氏は2023年5月12日、ヤッカリーノ氏が10年以上務めたNBCユニバーサル(NBCUniversal)の広告およびパートナーシップ担当グローバルチェアの職を辞したと同時に、ツイートでこのベテラン経営者が自分の後継者になることを投稿した。
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あるシニアレベルの業界関係者は、5月上旬にカリフォルニア州ナパで開催されたWPPの「ストリーム(Stream)」カンファレンスにマスク氏とヤッカリーノ氏がそろって出席していたことに気づいていた。ストリーム・カンファレンスは、広告エージェンシーネットワークのWPPが業界で最も有力な人物を招いて開催している。
一方、同様に匿名希望の別の情報筋は米DIGIDAYに、ヤッカリーノ氏は2023年1月のCESカンファレンス以来、マスク氏の後継者候補として噂されてきたと語った。
注目すべきは、マスク氏とヤッカリーノ氏が、4月にフロリダ州マイアミで開催された初の「ポッシブル(Possible)」カンファレンスでともにステージへ登壇し、会場を埋めつくす広告主の前で、言論の自由を擁護するマスク氏がTwitterのコンテンツ隣接ツールを強調したことだ。
複数の出席者がDIGIDAYに語ったところによると、マスク氏が広告主の懸念の全容を把握していたとは思えなかったという。しかし、「リーチの自由ではなく言論の自由」というマントラを支持するヤッカリーノ氏の登場は、そうした懸念を払拭するのに一定の効果をもたらすはずだ。
I see I have some new followers👀…👋 I’m not as prolific as @elonmusk (yet!), but I’m just as committed to the future of this platform.
Your feedback is VITAL to that future. I’m here for all of it.
Let’s keep the conversation going and build Twitter 2.0 together!
— Linda Yaccarino (@lindayacc) May 13, 2023
新リーダーはゲームチェンジャーか?
Twitterの新しいリーダーシップの方向性についてさまざまな憶測が飛び交うなか、マスク氏は、ヤッカリーノ氏が(重要な広告会議である「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」が行われるのと同時期に)CEOに就任し、マスク氏が会長兼最高技術責任者(CTO)に移行することを明らかにした。
多文化マーケティングエージェンシーであるポップン・クリエイティブ(Pop’N Creative)の共同創設者兼クリエイティブ責任者のロリ・ホール氏は、ヤッカリーノ氏について「素晴らしい評判」を持ち、Twitterを新しい方向に導くことができる「ゲームチェンジャー」だと評する(ホール氏は、かつてターナー・ブロードキャスティング[Turner Broadcasting]、現ワーナーメディア[WarnerMedia]でヤッカリーノと仕事をした経験がある)。
ホール氏はさらに、「彼(マスク氏)がまだ究極の権力を持ちたいと思っているなら、リンダはお飾りではないのだから彼女をCEOとして迎え入れることはなかっただろう(中略)彼女はこの業界のビッグネームで、そうした力を発揮してくれるはずだ」と付け加える。
広告主のTwitter離れを食い止める
マーケターの懸念は主にブランドの安全性に集中しているが、これはマスク氏が声高に言論の自由を擁護することに起因する。ユーザー生成コンテンツをホストするプラットフォームでのコンテンツモデレーションを求める多くのマーケターの要求に、この姿勢が沿わないからだ。
ホライゾン・メディア(Horizon Media)の最高投資責任者であるデイブ・カンパネリ氏はDIGIDAYに対し、「ヤッカリーノ氏のリーダーシップによって、広告媒体としてのTwitterに対する一部のマーケターの懸念は解消されるだろう」と述べ、「リンダは、エージェンシーやクライアントと営業との関係がどのように機能するかを間違いなく理解している。それは、最近のTwitterには欠けているものだ」と続ける。
また、「最近のTwitterで起こっている変化は、広告にとっては喜ばしくないものが多い。そしてコンテンツモデレーションやブランドセーフティの面で何も変わらなければ、彼女がTwitterにもたらすことができるものは何の役にも立たないだろう」とも言い添える。
コカコーラ(Coca-Cola )、ゼネラル・ミルズ(General Mills)、ゼネラル・モーターズ(General Motors)、マイクロソフト(Microsoft)、ファイザー(Pfizer)といった多国籍展開の有名ブランドが、マスク氏によるTwitter買収騒動以降、同プラットフォームへの支出を減らすか停止している。
パスマティックス(Pathmatics)のデータによると、Twitterの広告費は、2022年10月の約1億5660万ドル(約217億2000万円)から、2023年4月にはわずか7690万ドル(約106億6600万円)にまで激減しており、インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)はさらに、Twitterの2023年の広告売上は前年比28%減の29億8000万ドル(約4130億円)になると予測している。
ヤッカリーノ氏がやるべきこととは
IAB(インタラクティブ広告協議会)のCEOであるデビッド・コーエン氏はDIGIDAYに対し、新しいリーダーシップチームにはさらに、ミッドからロングテールの広告主へのアピールを広げる機会があると述べている。チームは4月、特定の費用基準を満たさない広告主に追加の認証料を支払うよう強制することでその道を模索し始めた。
しかしコーエン氏は、「ヤッカリーノ氏には(大手の)広告主の信頼を回復するためにやるべきことがたくさんある」とし、「何が何でも言論の自由を守るより、ブランドセーフティと適合性に関して改めて責任を持つことが必要だ」と警告した。
また、「リンダはTwitterにパートナーシップ、イノベーション、結果という多大な実績をもたらし(中略)マーケターと非常に深い関係を築く」と述べ、「IABは、リンダとのコラボレーションを楽しみにしている」と続けた。
変化の実績
ポップン・クリエイティブのホール氏は、過去にヤッカリーノ氏と仕事をした際の経験から、彼女には必要な時に現状を変えるという実績があることを指摘する。これは、ヤッカリーノ氏がNBCユニバーサル時代に広告効果の測定方法を変更し、広告スペースを販売するアップフロントモデルからの脱却を提唱した事業でもある。
ホール氏はさらに、「規範が通用しないなら、彼女は自分のブランドが勝てるようにルールを書き換える。誰でも広告営業の幹部にはなれるが、リンダ・ヤッカリーノはただ一人であり、彼女の名前がそれで通っている」と太鼓判を押す。
一方、NBCユニバーサルは、現在同社の広告販売担当プレジデントであるマーク・マーシャル氏を、暫定的にヤッカリーノ氏の後任に決定した。これは、5月15日に年次アップフロントプログラムのプレゼンテーションを行う予定であることを考えると、重要な動きとなる。
Digiday Editors(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:島田涼平)