リテールメディアネットワーク の急成長、エージェンシーは対応できるか

DIGIDAY

メディア業界やマーケティング業界が今も続く経済不安に対処するなか、マーケターやエージェンシーが、目に見える投資効果をすばやくもたらすパフォーマンス主導の選択肢に目を向けるのは当然だ。

こうした状況と、パンデミックをきっかけとした巣ごもりによるeコマースの急成長が相まって、コマースメディアはこの2年で爆発的に増えている。

そうしたなかで、メディアエージェンシーが価値に見合う成果を上げるには、競争力の高いコマースサービスの提供が欠かせない。「最近では、どのような提案依頼書(RFP)でも、(競争力あるコマースサービスが)ほぼ欠かせない要素となっている」と、あるメディアエージェンシーの幹部は明かす。

急成長するリテールメディアネットワーク

コマースメディアは、Amazonが支配するeコマースの領域(ただし、今のAmazonはライブコマースという新たな選択肢との競争にさらされている)と、大小さまざまなリテールメディアネットワークがひしめく領域の両方を含む広大な世界だ。マッキンゼー(McKinsey)は昨年、コマースメディアの可能性をまとめた決定版ともいえるリポートを公開し、これらのメディアを合わせた企業価値(販売と広告の売上合計)が1兆3000億ドル(約175兆円)に上ると報告した。

ライブコマースのような新しい選択肢も魅力的だが、コマースメディアの世界で見られる成長は、その大部分がリテールメディアネットワーク(RMN)で起きている。しかも、その成長ペースは雨後のタケノコのように速い。

現時点では、事業規模の大きなウォルマート(Walmart)やアルバートソン(Albertson)が、メディア企業やコマースメディアパートナーとの提携を通じて支配的な地位を築いている

だが、貴重なファーストパーティデータを保有している小売企業はどこも、この機に乗じて独自のRMNを立ち上げようとしているようだ。

「eコマースの売上がどれほどのペースで推移するにせよ、消費財メーカーがリテールメディアチャネルに支払う広告費は、eコマースの成長を上回るペースで増える可能性が高い。新しいメディアが小売業者から続々と登場しているからだ」と、メディア業界アナリストのブライアン・ウィーザー氏は2月に執筆した記事で述べている。

サードパーティCookieの非推奨化による影響

コマースメディアがこの2年で急成長したもうひとつの要因は、サードパーティCookieが推奨されなくなったことにある。「サードパーティCookieの非推奨化によって、Webで特定のオーディエンスをターゲットにしたメディアの構築が難しくなった。デジタルメディアにとって、これは大きな変化だ」と、OMGトランザクト(OMG Transact)のCEOで、OMG全体のコマースメディア活動を統括しているフランク・コチェナーシュ氏は言う。

「どの程度予想されていたのかはわからないが、小売業者は自社で保有する購買データが極めて価値の高いものであることを理解するようになった。なぜなら、そのデータは(あらゆるマーケターやエージェンシーが利用したがる)購買行動のデータだからだ」。

時流を逃さない大手エージェンシー

メディアエージェンシーは、目の前に現れた選択肢を逃すまいと懸命だ。大手エージェンシーグループによっては、組織の縦割りを解消し、eコマースも考慮した、より一貫性のあるリテールメディア戦略を実現するために、コマースメディアの専門家を置いているところもある。

たとえば、コチェナーシュ氏が今のポストに就いたのは、つい昨年のことだ。同氏は(オムニコム・メディア・グループ[Omnicom Media Group]と密接に連携しながら)クライアントに代わってコマースメディアの取り組みを統括している。同社のクライアントは、ユニリーバ(Unilever)やジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)といった正真正銘の消費財メーカーから、日産自動車やフォルクスワーゲン(VW)といった自動車メーカー、それにマクドナルド(McDonald)のようなクイックサービスレストラン(QSR)までさまざまだ。

「eコマースに関しては、当社のメディアエージェンシーとコマースグループエージェンシーがリテールメディアと連携している」と、同氏は言う。「我々のエージェンシーは、この2つのタイプの専門知識を活用して彼らをサポートしている。クライアントがブランドのメディアプランに合わせて、ショッパー(購入者)やコマース、eコマースの計画を調整できるよう支援しているのだ。また、コンサルティングや戦略をサポートしたり、ツールやデータを使った新たな発見や予算編成を支援したりしている」。

コマースメディアに関する取り組みを統括して時流に乗ろうとしているのは、オムニコムだけではない。WPPのグループエム(GroupM)は、コマース部門とリテールメディア部門の連携に極めて積極的な企業のひとつだ。実際、事業規模は拡大を続けている。同社は12月、この分野における2022年の見通しを、9月の1010億ドル(約13兆6200億円)から1107億ドル(14兆9300億円)に引き上げた。ただし、メディアエージェンシー各社は、広告予算を獲得するより、数十億ドル規模になるトレード/ショッパーマーケティング予算をまとめて取り込もうとしている。

予算の獲得先は?

実際、リテールメディアに対する支出の80%近くは既存のトレード/ショッパーマーケティング予算の増加分だと、マッキンゼーは報告している。同社が188社の広告主を対象に実施した2022年の調査によれば、支出の約50%は純粋な新規予算によるもの、約30%はほかのマーケティングチャネル(ブランドファネルとアッパーファネル、およびその他のデジタルチャネル)からのものだった。

とはいえ、あらゆる企業がリテールメディアネットワークの広告を購入しているわけではない。トロントを拠点とするパフォーマンスマーケティングエージェンシーのテイク・サム・リスク(Take Some Risk)でCEO兼戦略責任者を務めるドゥエイン・ブラウン氏によれば、クライアントの予算削減により、彼らがテストを希望しているすべてのプラットフォームで広告を購入することが難しいケースもあるという。

「あなたの顧客がウォルマートのような大規模小売チェーンでたくさん買い物をしていることがわかれば、そこにはチャンスがある」とブラウン氏は言う。「あなたの会社を知らない他所の顧客が、あなたの前に現れるかもしれないのだ。予算とルートがあるなら、テストしてみる価値は大いにある」。

AIによる最適化も視野に

また、人工知能(AI)などの新しい技術革新がコマースメディアの世界に恩恵をもたらす可能性があると、アルバートソン・メディア・コレクティブ(Albertsons Media Collective)でリテールメディア担当シニアバイスプレジデントを務めるクリスティ・アルギラン氏は指摘する。

「AIは、私たちの行動やその方法を決定づける意識の基盤に大きな影響を与えられるだけでなく、まったく新しいイノベーションを生み出すことができる」と同氏は話し、「キャンペーンの最適化といったシンプルな業務も含め、人間が手を付けなければならない作業はまだまだ多い。AIは実際にそうした作業をすばやく実行できる能力を持っているため、特定のキャンペーンでより多くの最適化を行える環境がもたらされる可能性がある」と示した。

リテイラーとマーケターの関係は後戻りできないほど変化する

ただし、どのようなかたちであれ、新しいメディアアクティベーションはいずれ障害に直面することになる。

コマースメディアの場合、その障害とは広告主とアグレッシブなRMNとのあいだで見られる緊張の高まりだ。実際、一部のマーケターは、小売企業の実店舗で強力なプレゼンスを維持するために、小売企業のメディアネットワークで広告費を使わなければならないというプレッシャーを感じているようだ。メディアエージェンシーは、このようなプレッシャーを和らげようと板挟みになっている。

最終的に、リテイラーとマーケターの関係は後戻りできないほど変化するだろう。そして、メディアエージェンシーは、関係の変化によって自分たちが閉め出されることがないよう、慎重を期す必要がある。

「今起きていることは小売業の経済的な側面にかなり根本的な変化をもたらしているのだが、どちらかといえば見過ごされているようだ」と、オムニコムのコチェナーシュ氏は言う。

加えて、「小売業者とブランドの関係にもかなり根本的な変化をもたらしている。これまでは完全にサプライヤーと顧客という関係だったが、今や双方向の関係になりつつある。私たちとしては、これからどのような展開が訪れるのか注視したい」と語った。

[原文:Commerce media grows more dominant by the year, forcing media agencies to keep pace with change

Michael Bürgi(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:島田涼平)

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