Amazon、消費者部門の後任者に寄せられる期待:「最良の出品者を集め、出品者に利益をもたらすこと」」

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この記事の原文は6月9日に投稿されました。

Amazonは6月3日、同社のグローバル消費者チーフを務め、同社の高速配送の成功に貢献したデイブ・クラーク氏が退任することを発表した。同氏はAmazonを退職し、テック系サプライチェーン新興企業であるフレックスポート(Flexport)のCEOに就任する。

クラーク氏の退任は、シアトルに本拠地を置く大手小売業者である同社が、コストの上昇とeコマースの成長鈍化という2重の課題に直面している時期に起きたものだ。同社は4月、2015年以来はじめての四半期損失を報告した。2022年の第1四半期に同社は38億ドル(約5100億円)の損失を計上し、フルフィルメントと輸送ネットワークの余剰能力に関連する追加費用として60億ドル(約8000億円)を計上した。

消費者部門の実権を握ってきたクラーク氏

1999年5月にAmazonに入社したクラーク氏は、パンデミックの最中に同社のフルフィルメントセンターと倉庫の容量について、膨大な規模の拡大を主導した。商品を1日以内で配達するための努力として、同社は過去2年間に、アイテムの在庫、仕分け、移動を行う450以上の新施設を開設した。同社のCEOを務めるアンディ・ジャシー氏は現在、同社が生産性向上とコスト削減のみに注力していると語る。これに対して、同社の消費者部門のCEOとしてクラーク氏の地位を受け継ぐ者は、コスト削減の時代においてeコマースビジネスを成長させるため、新たな方法を見つけ出す役割を求められるだろう。

ジャシー氏は同社の第1四半期決算声明で次のように述べている。「現在の当社は、物理的または人員的な容量を追及していない。当社のチームは、フルフィルメントネットワーク全体の生産性と投資対効果の向上に、正面から取り組んでいる。当社はこれを実現する方法を熟知しており、過去にも成功させている」。

同社はまだ正式な後任者の計画を公表していないが、ジャシー氏は6月3日、今後数週間に「最新情報が発表されるだろう」と従業員に伝えた

メディアの報道も、Amazonの新しい消費者CEOに就任するのは社内関係者であることを示唆している。テクノロジーニュースのウェブサイトであるジ・インフォメーション(The Information)は、Amazonの消費者向けビジネスのシニアエグゼクティブであるダグ・へリントン氏やラッセル・グランディネッティ氏などが、新しいトップの最有力候補だと報告している。Amazonの配送およびフルフィルメントユニットのシニアバイスプレジデントであるジョン・フェルトン氏とアリシア・ボーラー・デイビス氏の2人も、この地位に就任する候補者に含まれていると、ジ・インフォメーションは報じている。

クラーク氏は2021年初頭にAmazonの消費者ビジネスの実権を握り、同社の膨大な小売の運用に加えて、プライム(Prime)サブスクリプションサービス、サードパーティ出品者向けのAmazonマーケットプレイス、Amazonストア、マーケティング、およびオーガニックなスーパーマーケットチェーンのホールフーズ(Whole Foods)を担当してきた。同氏の後任者は、3月の四半期末の時点で同社に約900億ドル(約12兆1000億円)の収益をもたらした、これらのユニットすべてを担当することになるだろう。

コスト削減の時代の先駆け

クラーク氏の後任者が誰であろうと、Amazonの中核であるオンラインショッピングビジネスの成長の復活や、食料品から車に至るあらゆる商品をオンラインで販売する方法を探すことまで、あらゆる範囲にわたる膨大な課題に取り組むことになるだろう。

インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)のプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は次のように述べている。「デイブ・クラーク氏の後任は数多くの困難に直面するだろうが、コマースビジネスの売上高の成長を復活させることで、事実上すべての問題を解決できるだろう。コマースがうまくいけば、広告、サブスクリプション、出品者サービスなど、利益率の高い主要な収益源も順調だろう。ここで推進力を取り戻すことができれば、営業利益も増加し、少なくとも今後数四半期は、物流網の過剰な拡張によるコストを帳消しにすることができるだろう」。

パンデミックにより引き起こされたオンラインショッピングの急増に後押しされ、Amazonの消費者ビジネスは過去2年間にわたって年率23%増加し、2020年には39%の増加を記録した。

ピュブリシス(Publicis)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、このような天文学的な成長率が今後も続くとは考えにくく、Amazonはフルフィルメントへの投資を控えていく必要があるだろうと語っている。

ウォール・ストリート・ジャーナル(The Wall Street Journal)ブルームバーグ(Bloomberg)は5月、Amazonがニューヨーク、ニュージャージー、南カリフォルニア、アトランタで、過剰なフルフィルメント能力の一部を解放するために、最大3000万平方フィート(約279万平方メートル)の倉庫容積を貸す、またはリースを再交渉することを計画していると報告した。

そして、大手のオンライン小売業者である同社は、フルフィルメントセンター構築の投資も削減すると述べた。Amazonの最高財務責任者を務めるブライアン・オルサブスキー氏は、2022年には前年と比べて資本プロジェクトに投資されるフルフィルメント金額が減少することを予測していると、同社の第1四半期の決算発表で語った。

ゴールドバーグ氏は次のように説明している。「過去10年間の大半は、Amazonは小売業界全体よりも大幅に急速な成長を見せ、eコマース業界全体よりもかなりの差をつけて成長してきた。パンデミック以降、同社の成長は業界のeコマース成長を反映して停滞しはじめた。このため、急速な成長が続くことを期待する人々にとって、これは新たな課題だ」。

同氏は、Amazonが大きな変曲点にあり、同社の消費者ビジネスは過去10年間とは大きく異なるものになり、成長の軌道も大幅に違うものとなるだろうと付け加えている。このため、同社の消費者ビジネスの新しい責任者は、すべてを最初からやり直す必要に迫られる可能性がある。

「そして、同社が同じ成長率で成長できないなら、投資の方針や、優先するビジネスKPI(主要パフォーマンス指標)も含めてビジネス全体を変更する必要がある。これらは、急速成長モードでないならすべて変更されるだろう」と同氏は述べている。

未開拓分野に勝機が

さらに、Amazonやほかのeコマース企業がしばらくは急速成長モードには入らないだろうという兆候も出てきている。世界銀行(World Bank)は6月7日、2022年の世界の成長予測を3分の1減らし、2.9%に引き下げた。これは、2022年の末または来年初頭に世界経済が後退に落ち込む懸念の増大を受けたものだ。銀行や経済学者は、米国のGDP成長の鈍化に対して、より切迫した警告を発してきた。

「短期的に経済の沈滞、それによる消費者の行動の変化、そして需要プロファイルの変化を体験することになる。Amazonがほかの大手小売業者と比べて不利な立場に置かれていると考える根拠はない。すべての主要な業者は、自社の方針転換のため苦闘している」と同氏は付け加えている。

現在のeコマースでもっとも大きな成長の可能性を持つ分野は、オンラインでの食料品販売など、Amazonが従来から得意としてこなかった分野だと、小売アナリストたちは付け加えている。eコマースの食料品は急速に成長しつつある業界で、同社はこの部分においてはウォルマート(Walmart)、インスタカート(Instacart)、クローガー(Kroger)などの競合他社の後塵を拝している。

「自動車はデジタルの巨大なカテゴリーとして成長しはじめており、Amazonはこの分野に参入してさえいない。同社は、これらの新しいカテゴリーで勝利する方法を見つけ出す必要があるだろう」とゴールドバーグ氏は付け加えている。

Amazonがこれまで食料品小売店に影響を及ぼしていないという点については、リプスマン氏も同意している。

リプスマン氏は次のように述べている。「コマースでの成長は長期的に、食料品、健康、さらには自動車など、eコマースの浸透率がまだ低い主要な小売カテゴリーにますます依存するようになるだろう。食料品は今後数年間にわたってもっとも有望な可能性がある分野で、AmazonはAmazonフレッシュ(Amazon Fresh)やAmazon Goのフットプリントを築き上げることで有利な地位を維持し、そこから得られたデータがAmazonの広告ビジネスにとって重要な燃料となるだろう」。

Amazonは食料品配達サービスのAmazonフレッシュを15年ほど前に開始し、そのあとで同社の最大規模の買収契約のひとつで、スーパーマーケットチェーンのホールフーズ(Whole Foods)を137億ドル(約1兆8400億円)で買い取った。この取引からの見返りはこれまでのところ得られておらず、クラーク氏の後任者が組織を改造する新たな機会となる可能性があると、ゴールドバーグ氏は付け加える。

Amazonが比較的未開拓の分野でeコマースビジネスを成長させ続けるもうひとつの方法は、これらのカテゴリーでの出品者をさらに集めることだ。ジャシー氏のもとでは、Amazonの広告サービスを出品者にもっと使ってもらうことが、同社にとって同社にとって大きな焦点のひとつとなっている。

ゴールドバーグ氏は次のように述べている。「Amazon消費者ビジネスの次期リーダーは、商品を選んで消費者に販売するような人物ではない。マーケットプレイスの最良の出品者を集め、管理し、最高のサービスのバスケットを提供することで、それらのマーケットプレイス出品者から利益を生み出すような人物となるだろう。これは、小売の職務から、マーケットプレイス管理者の職務に変わるということで、異なる職務だ」。

残る大きな疑問は、Amazonがこれらの課題すべてに取り組める後任者を社内に求めるのか、社外で探すのかということだ。

ゴールドバーグ氏は次のように述べている。「Amazonの社内には、経験を積んだAmazon社員のみが、上級管理職としてAmazonの文化を引き継げるという強い信仰がある。社内の人物を雇用すると、成長のペースが恒久的に鈍化した場合に、Amazonが必要としているかもしれない破壊的な思考を得るのが困難なこともある」。

[原文: Amazon Briefing: What Dave Clark’s departure means for Amazon’s consumer business]

Vidhi Choudhary(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)

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