新たな 動画広告 フォーマットを売り込むプラットフォーマーと動画配信サービス:NewFronts Day2まとめ

DIGIDAY

米インタラクティブ広告協議会(IAB)が主催した4日間にわたるNewFrontsの2日目、デジタルコンテンツプラットフォーマーと動画配信サービスの代表者は、短尺のソーシャル動画および長尺のテレビ番組と映画向けの新しい広告商品を精力的に売り込んだ。

各社のプレゼンテーションの中心を占めたのは、AIやショッパブルコンテンツを活用した広告フォーマットだった。

主なポイント

  • スナップ(Snap)はChatGPT搭載のチャットボットを用いた新しい広告商品をテスト中
  • サムスン(Samsung)はマルチスクリーン対応のショッパブルコンテンツを展開
  • プライバシー関連の議論は不十分
  • スナップ、ロク(Roku)、ピーコック(Peacock)は広告主に対して「大量のオーディエンス」をアピール
  • ピーコックは広告付き動画および4つの新しい広告フォーマットを提案
  • ロクは「ロクシティ」に広告機会を導入

なお、Yahoo!は公式のプレゼンテーションには参加しなかったが、チャンス・ザ・ラッパー出演のコンサートを開催した。

スナップ、ロク、サムスンらがAIを活用した広告を導入

ニューフロンツの2日目はAI関連の発表が相次いだ。スナップはこのほど、運営するスナップチャット(Snapchat)にChatGPTを活用したチャットボットを導入すると発表していたが、同社はこの「My AI(マイエーアイ)」を使ってモバイル動画を検索したり、チャット内にスポンサードリンクを挿入したりするなどの実証実験を行っている。

スナップでアメリカ大陸担当プレジデントを務めるロブ・ウィルク氏は、「我々の目標はシンプルだ。ユーザーの問題を瞬時に解決できるパートナーや、彼らの日常生活を少しだけ楽にできるパートナーと連携することだ。たとえば、『晩ご飯はどうしようか』という問いに対して、最初に何か返事を返したあとに、地元のレストランのリンクを表示できれば、その問題はタップひとつで解決するかもしれない。あるいは、My AIと週末の旅行について話しているときに、航空会社やホテルから特別プランのスポンサードリンクが届くこともあるだろう」。

広告主向けのAIツールを発表したのはスナップだけではない。たとえば、ロクは「コンテクスチュアルAI」を活用した新ツールを提案している。文脈を理解するこのAIツールは、ロクチャンネル(Roku Channel)のコンテンツライブラリをスキャンして、番組や動画の適切な瞬間を選び出し、自動的に広告を配信する。

一方、サムスンはインタラクティブ動画プラットフォームのカーヴ(KERV)と連携して、AIを活用したショッパブルコンテンツを提供すると発表した。これにより、CTVのコンテンツを一時停止せずに、視聴者のモバイル端末に広告を表示できるようになるという。

データの話ばかりで、プライバシーの話はほとんどなし

アドテクのデータプライバシー問題に対する懸念は膨らみ、規制は強化される一方だが、ニューフロンツでおこなわれた各社のプレゼンテーションでは、この問題はほとんど議論されなかった。こうしたなか、データプライバシー問題に短く触れたスナップのウィルク氏は、「すべてのスポンサードリンクについてその安全性を確認し、プライバシーの侵害を確実に阻止する考えだ」と語った。

同氏は安全性を断言するが、保護者インターネットの専門家のあいだでは、未成年者がスナップのチャットボットを利用することについて、個人情報の保護成人向けコンテンツなど、安全性に懸念があるとの声がすでに上がっている。

同氏はニューフロンツの壇上でこうコメントしている。「ユーザーにとって正しく、便利で、そしてプライバシーファーストの体験を時間をかけて構築したい」。

規模の訴求

スナップによると、Snapchatの月間ユーザー数は7億5000万人で、米国ユーザーの50%は25歳以下の若者だという。「スポットライト(Spotlight)」の動画コンテンツを視聴するユーザーは毎月3億5000万人にのぼり、第4四半期の視聴時間は前年から倍増した。スポットライト向けの広告商品も世界的に拡大するという。さらに、AR(拡張現実)ツールに関しても、2023年のスーパーボウルでARレンズの利用が20億回近くに達したことに触れ、その規模を大々的にアピールした。

クリエイターとの協業の進展にも焦点を当てた。「スナップスター」のコンテンツの視聴回数は月間350億回を超えるという。また、インフルエンサーエージェンシーのウェイラー(Whalar)、インフルエンシャル(Influential)、ビーライン・バイ・ブラット(Beeline By Brat)、スタジオ71(Studio71)と連携し、広告主とスナップスターのコラボレーションを支援する「スナップスターコラボスタジオ」を開始すると発表した。なお、TikTokは昨秋から、同アプリのクリエイターマーケットプレイスで同様のサービスを展開している。

ピーコックも広告付きプランを強くアピールしていた。同社のアドテクスタック「ワンプラットフォーム(One Platform)」を活用することにより、月あたり2億2700万人の米国成人にリーチできると謳っている。

一方、ロクは「ロクシティ」のスクリーンセーバーへの広告出稿など、新たな広告商品を提案している。広告収入とマーケティングを統括するバイスプレジデントのアリソン・レヴィン氏によると、このスクリーンセーバーへの出稿により、毎月4000万世帯にリーチできるという。この夏、マクドナルドが広告主第一号としてこのスポットに出稿するが、同氏いわく、ほかにも「特定業種向けのスポット」をいくつか用意しているようだ。さらに、ロクのホーム画面に「ガーデン」と「スポーツ」という新しいチャンネルが設置され、このチャンネルのコンテンツを検索する視聴者にも広告を表示できるようにした。

ロクのプレジデントを務めるチャーリー・コリアー氏は、「ほかの動画配信プラットフォームと競争するつもりはない。テレビ広告の未来はプラットフォーム固定になるだろう」と述べ、「ロクはこのストリーミング戦争で縄張り争いをしているわけではない。ロクこそが縄張りだ。ストリーミング戦争は我々のプラットフォームで起きている」と続けた。

長尺動画の広告商品

ピーコックの広告主への売り込みは、広告付きで、かつ映画のように長尺のコンテンツに重点を置いていた。一方、ニューフロンツの初日に行われたYouTubeのプレゼンテーションでは、短尺の動画がその中心を占めていた。ピーコックのプレジデントでD2C事業を統括するケリー・キャンベル氏は、ピーコックの有料会員が前年比2倍の2200万人に達したと述べている。

その反面、こうしたピーコックの成長は、同社に対する莫大な投資によるところが大きいようだ。ピーコックを運営するNBCUの親会社であるコムキャスト(Comcast)がこのほど発表した2023年第1四半期の決算を見ると、ピーコックの損失は前年同期の4億5600万ドル(約625億3470万円)から7億400万ドル(約957億4153万円)に拡大している。

キャンベル氏によると、ピーコックの加入者の3人に2人は、劇場公開から一定の期間を経てピーコックで独占的に配信されるユニバーサル映画の新作を視聴しているという(2022年以降、ユニバーサル・フィルムド・エンターテインメント・グループ[Universal Filmed Entertainment Group]の劇場公開映画に関しては、劇場公開期間終了後の18ヶ月間、いわゆる[ペイワン]期間のうち、最初の4ヶ月と最後の4ヶ月はピーコックが独占的に配信する権利を保有している)。

ピーコックのプレゼンでは、4つの新しい広告フォーマットも紹介された。それぞれを紹介すると、「スポットライトプラス」では、広告主がひとつの番組にプラットフォームやデバイスを横断して出稿できる。「マーキー広告」は、スポーツのライブ配信でスコアボードにブランド名を露出するなどのブランドインテグレーションを提供する。「パワーブレイク」は再生一時停止のタイミングで広告を挿入する、いわゆるポーズ広告のピーコック版で、広告クリエイティブは世帯データに基づいて差し替え可能だという。そして「ショップTV」では、ライブ動画の視聴中に直接商品を購入できるショッパブル広告を提供する。

一方、WGA(全米脚本家組合)はストライキの真っ最中で、ニューヨーク5番街のニューフロンツ会場の外では組合員がピケを張っていたあるツイートによると、ピーコックの新シリーズに出演する女優のイーディ・ファルコ氏は、番宣のために同社のプレゼンに参加する予定だったが、ピケラインに阻まれて出演を中止したという。

ヴァイスはどこに?

ヴァイスメディアグループ(Vice Media Group)は2021年以降、ニューフロンツに参加していない。同グループは、報道部門のヴァイスワールドニュース(Vice World News)を閉鎖したと報じられたばかりだが、今月1日に米紙ニューヨークタイムズ(The New York Times)が報じたところによると、同グループは破産の準備に入ったという。

わずか4年前、ヴァイスはニューヨークでも指折りの中華料理店「ジンフォン」の大宴会場を借り切って、広告主のために贅沢なパーティを催した。白いテーブルクロス、そのテーブルにところ狭しと並んだ点心の数々。シンガーのテヤナ・テイラー、ダニー・ブラウン、コイ・リレイらが出演するコンサートも開かれた。破産というのは、にわかには信じがたい結末である。

[原文:Digital content platforms and streamers pitch new ad formats in short and long-form video on NewFronts day two

Sara Guaglione and Marty Swant(翻訳:英じゅんこ、編集:島田涼平)

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