プライバシーサンドボックス は今後どう動くのか、Google担当シニアディレクターが語る

DIGIDAY

GDPR(EU一般データ保護規則)の施行から5月第4週で5年となった。AppleのATT(アプリによる追跡の透明性)機能も、4月で導入から2年が経つ。そうなると、広告業界の動きに影響を及ぼす次の促進剤と化しそうな、Googleのプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)関連の発表が待たれるのは当然だろう。

Googleは同社ブログで5月18日、ついにプライバシーサンドボックス導入に関するより詳細な進捗情報を、実施スケジュールとともに明らかにした。これには、2024年第1四半期に全世界のChromeユーザーの1%をプライバシーサンドボックスに移行し、対象者のサードパーティCookieを無効にする計画が含まれる。

発表に先立って、米DIGIDAYはGoogleの製品マネジメント担当シニアディレクターであるヴィクター・ウォン氏に取材し、プライバシー保護をめぐる今後1年半の計画と、業界各社の懐疑的な声から規制当局の厳しい監視の目に至るまで、同社が直面する課題への対応について聞いた。

Googleの計画を支える「4つの原則」

2022年9月、Googleに入社し、プライバシーサンドボックス製品チームを率いることになったウォン氏は、その前の数年間、メタ(Meta)で収益化ツールのデータプライバシー対策を担当した経験をもつ。4月6日に公開されたGoogleのブログ記事で、ウォン氏は同社の計画を支える「4つの原則」について述べた。具体的には、プライバシーと情報アクセスの公平性担保、サードパーティCookieの代替となる効果的なツール、技術を活用したプライバシー保護、業界各社とのオープンな協力を通じたソリューション開発といった取り組みの必要性を訴えている。

同氏はDIGIDAYの取材に応えてこう語った。「仮に、広告付きメディアでサードパーティCookieをいますぐ廃止したらどうなるか。パブリッシャーと消費者向けの適切な代替ソリューションが存在しないなか、場合によってはプライバシー保護機能が低下してしまう恐れがある。なぜなら、ユーザーにとって理解しづらく、自己管理がままならないトラッキング手法に移行する事業者が出てくるからだ」。

以下は今回のインタビューにおけるDIGIDAYの質問に対するウォン氏の回答から抜粋してまとめたもので、同氏の回答後にDIGIDAYの注釈を加えている。また、読みやすさと長さを考慮して、若干の編集を加えてある。

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――2023年と2024年に実施予定のテストについて

プライバシーサンドボックスのテストでは、達成したい目的によって各々に適した手法がいくつもあり、アドテク的な観点からみたテスト目標もそれぞれ異なる。だから、業界各社が自社の方針にそって段階的に進めていけばいいと我々は考えている。どの企業も独自のニーズがあり、テスト手法の統一を図るつもりはない。

Googleとしては段階別のスケジューリングを可能にし、参加企業が各自の要件に応じてプライバシーサンドボックスの効果測定指標を設定してテスト手法を選ぶよう奨励したい。つまり、アドテクのエコシステムの多様性に配慮する必要があるという認識だ。

DIGIDAYによる注釈(以下、DD):プライバシーサンドボックスは2020年の最初の発表以来、2度の導入計画延期を経ていまに至る。そのあいだ、アドテク業界はGoogleがスケジュールをいつ確定するのか、公式リリースまでにどんな手続きを踏むのか、やきもきしながら追加情報を待っていた。そしてこの度、サードパーティCookieのサポート廃止に向け、今年2023年7月にリリース予定の「Chrome 115」から2024年末までのロードマップがより具体的なかたちで示された。

――テストのフィードバック反映について

我々は初期のトライアルの結果を受けて、業界各社からの具体的なフィードバックをもとに、API(Application Programming Interface、アプリケーション・プログラミング・インターフェース)の改善を何度も重ね、自信をつけてきた。現時点でのブラウザ設計には手ごたえを感じており、当該APIがサードパーティCookieからの移行を促進すると確信するまでになった。

最初はテスト対象を絞り、100%まで徐々に増やしていく慎重な計画を立てたのも、プライバシーサンドボックスという新たなソリューションを導入するためだ。(サードパーティCookieのような)既存のテクノロジーの無効化はめったにないことだが、それだけに注意深く、系統だったやり方で進めていきたいと考えている。

DD:Googleはこの1年、ウォン氏のいう「初期のトライアル」として、Chromeブラウザから無作為に抽出した一部のトラフィックを対象に新APIのテストを実施し、結果に対するフィードバックをもとに改善を繰り返してきた。Googleがようやくテスト対象を拡大したことで、アドテク企業、パブリッシャー、広告主もテストに参加できると、一部のマーケターたちには評判がいい。

ただし、初期のトライアル時には、プライバシーサンドボックス環境下でサードパーティCookieもある程度使われていたため、しかるべきテスト結果が出ない、データが信憑性に欠けると批判する者もいる。

――プライバシーサンドボックスと規制当局の関係、TCFの役割について

広告のリアルタイム取引(RTB)システムの設計はいま、規制当局の監視と圧力にさらされている。RTBはここ十数年で大きく発展したが、それはプライバシー保護とデータの取り扱いに対する期待が高まる以前のことだからだ。

一方、プライバシーサンドボックスは、規制当局が指摘する特定の課題への対処を考慮に入れて設計されたわけではないが、プライバシーを優先した設計思想のソリューションに進化すると期待できる。RTBには現在、ユーザーが認識していないさまざまな企業が関わっているが、欧州IABが提唱するTCF(透明性と同意の枠組み)は、この課題をそれなりに解決しようとしている」。

DD:欧州IABが2018年に導入したTCFは、企業によりユーザーデータが収集・共有・利用されるRTBなどのシステムを規制するデータプライバシー保護規則(GDPRなど)の遵守に関し、欧州のアドテクエコシステムへの支援を意図した枠組みだ。しかし、TCFは司法の精査を受け業界の疑念を招いた結果、複数年にわたる改訂を余儀なくされた。

一部の関係者はTCFがGoogleの代替的存在として役割を果たすと見ているが、プライバシー擁護派は、TCFが欧州のユーザーデータを適切に保護していないと主張した(Googleは2020年、TCF 2.0への参加を表明した)。2023年に入り、ベルギーのデータ保護当局DPA(Belgian Data Protection Authority)は欧州IABによるGDPR違反是正措置の6カ月におよぶ活動の成果を承認した。なお、5月16日に欧州IABは改訂版のTCF 2.2を発表した。

――Googleが自社に有利なプログラムを推進しているとの批判に対して

AMPは別チームの担当だが、Google全体の活動方針については私も説明できる。Googleは、先に述べた4つの原則の4つめ、「業界各社とのオープンな協力を通じたソリューション開発」をめざしている。過去数年間、技術ソリューションを提案して業界からのフィードバックを募り、その情報にもとづいてAPIの設計を変更してきた。先を見越して業界エコシステム内の企業の関与を呼びかけ、仕様変更の際には十分な余裕をみて事前に告知している。

一方、ほかのプラットフォームはオープンさに欠け、当社のような原則を打ち出していない。我々は他社とは対照的なアプローチをとってきた。諸問題の解決には、それぞれ適切な対応が必要だ。

DD:Googleは2015年、アクセラレイテッド・モバイル・ページ(Accelerated Mobile Pages :以下AMP)を発表した。モバイルサイトのページ表示を高速化できる設計の新規格として提唱されたAMPは、パブリッシャーにも、多くのフォーマットの広告を短時間で読み込めるメリットを提供するとされた。しかしそれ以降、ロシアのハッカーがAMPを悪用してフィッシングメールを送信した問題が2017年に発覚するなど、AMPはさまざまな理由で批判を浴びた。2022年、米司法省がGoogleを相手取って起こした訴訟では、Googleが非AMPの広告表示時間を意図的に遅くした疑惑、AMPを利用したページを優遇して検索結果で上位表示させた疑惑が指摘された。

――トピックスAPIのプライバシー保護が不十分との批判に対して

プライバシーサンドボックスの一連の提案のひとつであるトピックスAPI(Topics API)については、関係者のあいだでもどういう設計にすべきかで意見が分かれているが、中道をとるのが大切だと我々は考えている。「サードパーティCookieを廃止したうえで、代替ツールは開発の必要なし」という意見があり、「現行システムを維持し、何も変えるべきでない」と主張する人もいる。我々は中立的な立場でツールの設計を検討するが、トピックスAPIについても同様の姿勢で取り組む。

DD:トピックスAPIを実装する目的は、膨大な量のユーザーデータにもとづく従来のカテゴリー分類による追跡把握でなく、ユーザーが関心を抱いているトピックを閲覧履歴から抽出し、それに合わせた広告を配信する方法を広告主に提示することだ。パブリッシャーは、トピックスAPIで推奨されるファーストパーティデータを活用し、ユーザーの関心にもとづくトピックを洗い出して多くの広告主に訴求できると、ウォン氏は述べている。

――米司法省が提起したGoogleの反トラスト法違反訴訟における透明性と協力について

APIの機能設計は公平だ。我々は技術提案を公開しており、機能仕様が明確にわかるようにしている。Googleが使っても、どの事業者が使っても、APIは同様の機能を果たす。また我々は、APIの設計手法やGoogleを含む全事業者の公平な扱いについて規制当局に確約している。一連の取り組みにおける透明性の推進という点では、Googleは業界各社が実施したテストの結果を、ソフトウェア開発プラットフォームのGitHubなどの場で公表するよう奨励し、さまざまな関係者からのフィードバックを期待している。

DD:Googleの親会社アルファベット(Alphabet)は、反トラスト法違反の疑いで米司法省に提訴され、裁判は2023年9月に開始される予定だ。訴状によると、Googleは長年にわたって反競争的行為に携わり市場の独占を招いたとされ、司法省は同社がオンライン広告市場における競合排除戦略の一環として、アドエクスチェンジやパブリッシャー向けアドサーバーで支配力を高め、反競争的な買収を重ねたと指摘している。

この状況下、Googleがプライバシーサンドボックスに関して業界の賛同を得たいなら、「今後のプライバシー保護機能変更によって不利益をこうむることはない」と、アドテクパートナーやパブリッシャーを納得させる必要があるだろう。なお、ウォン氏が何度も指摘したように、プライバシーサンドボックスは英国競争市場庁(CMA)との協議のうえ開発されている(プライバシー保護に対する懸念から、Googleは当局と協議しながら開発を進めるよう法的に義務づけられた)。

[原文:Inside Google’s Privacy Sandbox pitch as a rollout starts to take shape

Marty Swant(翻訳:SI Japan、編集:島田涼平)

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