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オープンAI(OpenAI)のChatGPT(チャットジーピーティー)がメディアの見出しを独占した記憶も新しいうちに、小売業者はこのツールを買い物支援として利用するために急増している。
オンラインの中古品マーケットプレイスのメルカリ(Mercari)は4月18日、商品のおすすめを支援するため、メルチャットAI(Merchat AI)というショッピングアシスタントツールを導入した。その1日後に、ドイツのeコマース大手のザランド(Zalando)も、買い物客が尋ねるファッション用語や質問に基づいて、商品を見つけられるよう支援する、ChatGPT搭載の同様のツールを発表した。ショッピングサービスおよび決済プラットフォームのクラーナ(Klarna)は、オープンAIとの提携により、ユーザーに厳選した商品の提案を行うことを3月に発表した。
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ChatGPTやほかのジェネレーティブ(生成)AIツールは、生産性を高める可能性と、想定されるユースケースから、ここのところ、多くの小売業者にとってホットな話題となっている。一方、このテクノロジーには規制がないことから、さまざまな政府や規制当局から懐疑的な見方も寄せられている。しかし、それでもなお、企業がこれらのAIツールを自社のビジネスに取り入れる方法を探求するのは止まらず、顧客サービスは最初の試験場のひとつとなっているようだ。
インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)で小売およびeコマースのシニアアナリストを務めるカリナ・パーキンス氏は次のように述べている。「現在小売業で使用されている既存のチャットボットとChatGPTが異なるのは、はるかに対話的な調子で、コンテキストも記憶できることだ。その回答によって、よりパーソナライズされた、人間のような体験を提供することができる」。
顧客サービスの効率化
ある意味、ChatGPTは、その高度な検索能力で小売業者に利用されているのだ。ChatGPTはもともと、マイクロソフト(Microsoft)が支援する新興企業のオープンAIが開発したAIチャットボットだ。ほかのチャットボットと大きく異なるのは、対話から学んで、人間のような応答を作りだせる能力にある。
小売業者は、買い物客が特定の商品を探したり、新しい商品を見つけたりするのを助けるためにChatGPTを利用している。たとえば、ChatGPTと統合されたクラーナのプラグインを使用すると、買い物客はショッピングについてアドバイスやインスピレーションを求めることができる。利用者は、ChatGPTのプラグインストアからクラーナ用のプラグインをインストールして、この機能にアクセスできる。また、買い物客は探しているアイテムの予算を指定することができ、それに対してこのツールは、条件に一致するアイテムのリストを表示してくれる。
「クラーナは、最良のテクノロジーとデータを活用して、消費者がショッピングジャーニーのあらゆる段階で新商品を見つけたり、問題を解決するのを支援する、独自の立場にある。当社はこのようなサービスを当社の1億5000万人の消費者に提供するため、イノベーションを続けていく」と、クラーナの共同創設者でCEOを務めるセバスチャン・シーミアコウスキー氏は発表で述べている。
カンター(Kantar)のシニアソートリーダーを務めるバリー・トーマス氏は、ChatGPTは時間も曜日も問わず顧客からの要求に応答できるため、これによって顧客サービスの効率化が図れる可能性があると語る。同氏は、小売業者がChatGPTのようなAIツールを使用するときは、買い物客にそのことを明白に示す必要があると付け加える。
「人間の要員による顧客サービスラインにはエラーが発生する。問題も発生する。メッセージングボットを使用すれば、シームレスで一貫した顧客サービスを提供し、すべてのデータを収集することができる」と、同氏は述べている。
自然言語に対応した検索
デジタルコンサルタンシー企業のシーアイアンドティー(CI&T)のディレクターを務めるメリッサ・ミンコウ氏は、人々が商品を検索するとき、一般的な検索エンジンに合わせて検索を工夫するより、自然言語を使用することが多いと語る。ある意味、これらの小売業者は買い物客の検索行動に適応しようとしていると、同氏は述べている。
たとえば、メルカリのメルチャットAIでは、買い物客が、「母親に母の日の贈り物として何を買えばいいか?」や「大きなターコイズ色のオンブルタンブラーを探して」などの言葉をタイプできる。そこからチャットボットはそれに関連する質問を行い、結果を絞り込んでから、いくつかの商品をおすすめする。メルカリ米国法人(Mercari U.S.)のCEOを務めるジョン・ラーゲリン氏は、同社が「人工知能の改革の力を活用して、アメリカ人がメルカリの大規模なマーケットプレイスで、買い物や探索をしやすくする」と、同社の声明で述べている。
同様に、ザランドの買い物客は、「7月にサントリニ島で行われる結婚式で何を着るべきか?」というような具体的な質問を、ショッピングアシスタントにたずねることができる。この買い物ツールは、買い物客がフォーマルなイベント用の衣装を探していることを理解できるのだという。将来的には、買い物客のブランドの好みやサイズに基づいたおすすめを追加することで、このツールをさらにパーソナライズできる可能性があると、同社は述べている。
ミンコウ氏は、「これは、検索結果に対する消費者の満足度を高めるためのものだ。ChatGPTが小売業者のために行えるのは、消費者が入力した検索用語には引っかからないような品物を探し出すことだ」と述べている。。
規制の可能性も
Shopify(ショッピファイ)などほかのeコマース企業は、より良い商品説明を作りだすためにAIを使用してきた。同社は4月初頭に新しいAIツールの運用を開始し、的確な商品説明によってより多くのトラフィックを生み出し、コンバージョン率を引き上げることができると述べている。
ChatGPTのようなツールは現時点では多くの話題を呼んでいるが、欠点がないわけではないと、専門家は語る。インサイダーインテリジェンスのパーキンス氏は、このAIツールには幻覚を起こす、すなわち不正確な情報を権威を持って伝える傾向があると述べている。
「顧客向けのアプリケーションとして使用する場合、これは明らかに問題がある」と、同氏は述べる。「ビジネスとして、虚偽の情報を提供するのは避けたい」。さらに、これらのチャットボットは不適切または不快な応答を生成する恐れもあると、同氏は述べている。
政府や規制当局も、ジェネレーティブAIツールやChatGPTの使用に関するルールをまだ作成中だ。イタリアはプライバシーの懸念から、ChatGPTの禁止にまで踏み出した。一方で、米国のバイデン政権はAIツールに関する規制の可能性をようやく検討しはじめたところだ。
[原文:Retailers are using ChatGPT to help people pick what to buy]
Maria Monteros(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Mercari